我が名は柴犬

我が名は柴犬。
讃岐の国より生まれ出でて、今の住まいに流れついた。
生まれたばかりの我は小さく、片手に乗るほどであった。
今では8キロの体にすくすく成長し、この家の良き番犬となっている。
夏はフローリングに寝転び、冬は炬燵の中で丸まる。
家人が帰れば出迎え、不満があれば文句をいい、腹が減れば餌入れを運ぶ。

我は柴犬、雌である。
4匹の仔を産み、育ててきた。
お産は過酷でまた育児もさらに過酷であった。
右半身の毛はストレスでごっそり抜け、家人は悲鳴をあげた。
乳を飲めない仔がいれば咥えて別室に移動し、その仔に授乳した。
その過酷さに耐えるためドックフードを食さず、牛肉ばかりを食べた。
ついには国産牛しか食べなくなり、家人は泣きに泣いた。
授乳が終わるとドックフードを食べた。
仔は成長すると4匹のうち2匹は新しい家に行き、愛情を与えられすくすくと育った。
残った2匹はふくふくとした狸フェイスの雌とふるふる震えるキツネ顔の雌であった。
2匹は我を超える大きさに成長し、今では取っ組み合いをするほどになった。
散歩になれば草を食むタヌキ娘を引きずり、虫と闘うキツネ娘を引きずる。
用を足せば帰りたい我と世界を満喫する娘とは気が合わぬ。
我は柴犬。
家人が寝転べば足の横で丸まり、家人の調子が悪ければ娘と一緒にのしかかり、うまいものがあれば寄越せと3匹で囲む。
病院と風呂が嫌いで朝になると3匹でプロレスをし、餌とおやつとぬいぐるみが好きで夜になると3匹でベッドを占領する。
共に生き、慰め、笑わせ、笑う生き物。
幸せにならなければならない誇り高き生き物。

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