音盤比較 モーツァルト 交響曲第40番ト短調

「モーツァルトの交響曲の中で、この作品ほどたくさんの論評を喚起したものはない」(ニール・ザスラウ)

 《ト短調交響曲》はいつの時代も「モーツァルト論」や「モーツァルト演奏」の中心課題だった。この作品は1788年の夏、他の2曲、つまり変ホ長調とハ長調の交響曲とともに書き上げられた。かつてはモーツァルトの芸術的欲求から作られたとされたが、最近では「ロンドンへの演奏旅行のため」「ウィーンでの演奏会のため」「楽譜出版のため」といった仮説が唱えられ、とりわけ楽譜出版説の説得力が高い。
 3曲は作曲者の生前には演奏されなかった、とする考え方も修正を迫られている。というのもト短調交響曲に複数の稿が残されているからだ。第1稿A(オーボエ稿、クラリネットなし)、第2稿(第1稿にクラリネットを加えオーボエ声部を手直ししたもの)、第1稿B(Aのアンダンテ楽章を手直ししたもの)の3つである。モーツァルトは、作品を舞台に掛け、修正の必要が生じたときしか改訂を行わない。だから《ト短調交響曲》はまず間違いなく演奏された。
 この《ト短調》を次の二者で聴き比べたい。カール・ベーム指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と、ニコラウス・アーノンクール指揮のコンセルトヘボウ管弦楽団だ。

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