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エンダウメントの資産運用を日本の個人投資家が再現するための手法(1/2)

エンダウメント(米国の大学基金)は、その独自の資産運用戦略と長期的な投資視点で知られています。彼らは単に米国の株式や債券に投資するだけでなく、「オルタナティブ」と呼ばれる資産クラスにも積極的に投資を行い、多様なポートフォリオを構築しています。日本の個人投資家においても、国内で未上場株等を組み込んだ公募投資信託が設定可能になり、エンダウメントの成功を参考にしながら、その資産運用手法を再現することは、もはや不可能ではなくなってきています。本コラムでは、まず、エンダウメントの資産運用戦略の概要を紹介し、最終的には日本の個人投資家がどのようにすれば同様の手法を再現することができるのか考えていきたいと思います。エンダウメントのリスク管理手法やポートフォリオ構築の考え方についても掘り下げ、個人投資家がより効果的な投資を行うためのアイデアを提供できればと考えています。


エンダウメントの資産運用戦略の概要

まずは、エンダウメントの資産運用の概要についてご説明します。そもそも大学がなぜ資産運用を行うのか、という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。米国の大学基金においては、大学の運営資金として、卒業生等から寄付された寄付金を原資として運用を行い、その収益を大学の運営費(建物の修繕等含む)や、学生への奨学金、研究費、人件費(優秀な教員の採用等)などに充てています。彼らは長期的な視点で、お金を複利で運用していくことで、大学の国際競争力を高めていくとともに、持続可能な大学経営を実現しているのです。また、原則、すぐに使わないお金を運用していくわけですが、資金が必要なタイミングで大きなドローダウン(相場下落)を受け、お金がないというのも困りますので、リスク管理の手法として、資産を偏らせるのではなく、多様に分散しているのも特徴の1つです。また、直近日本においても注目されていますが、資産運用においてはコストも重要な点です。長期の資産運用において、コストが必要以上にかかっているとパフォーマンスへの影響は大きくなってきます。エンダウメントもコストに対しても注意深く運用を行っています。

ここまで説明するとエンダウメントと個人投資家の考え方には大きな違いはないのが理解いただけますでしょうか?米国大学基金における寄付金は毎月、毎年入ってくる「給与」や「ボーナス」に近い属性があり、すぐに使わないお金は資産運用に回し、必要な時に使うという考え方は同じです。このような点から、彼らの資産運用ノウハウは個人投資家の方にとっても非常に参考になるのではないかと考えています。

少し話は逸れましたが、本題に戻りましょう。上述の内容も踏まえ、エンダウメントの資産運用戦略についてご説明すると以下の4点が挙げられます。

①長期的な視点

エンダウメントは、長期的な視点で資産運用を行います。彼らは複利運用の重要性を理解しており、短期の市場変動や一時的なトレンドに左右されることなく、将来的な収益を追求します。長期的な視点とは大学が存在する限り、未来永劫です。資金が必要な際には一部解約等を行いながらも複利で運用を継続し続けます。個人投資家においては「人生は100年程度が限界だ!」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、「一族」と考えていただければと思います。エンダウメントも運用担当者が変わりながら運用を継続し、大学としての資産を増やし続けています。

②資産クラスの多様性

エンダウメントが保有する資産クラスは各大学によって異なる部分はありますが、単一の資産で運用している大学は少ないです。コアとなる資産を株式(米国株)としながら、債券やREIT(不動産投資信託)などを組み合わせて資産クラスを分散させています。この考え方は資産運用の世界では「卵を一つのかごに盛るな(Don't put all eggs in one basket)」として有名です。コア資産を株式(米国株)とした時に、債券やREIT等に有効に分散させることで期待リターンは維持しつつ、期待リスクを下げることが期待されます。(バランスが重要でここが個人投資家の方がエンダウメントを再現する上で難しい点ではあります。)
資産クラスは、多様化すればするほど良いのかという点についても注意が必要です。相関係数という考え方があるのですが、米国株をコアとした際に、米国株の値動きに対して、似たような動きをするものを組み合わせても、あまり意味はありません。また、分散する資産クラスの数はある一定を超えるとそれぞれの金額割合が少なくなってくるので、あまり変化が無くなってきます。コアとする資産を決めて、効果的な分散投資対象を適切な割合で保有することでリスクの分散とリターンの最大化が実現します。

③オルタナティブ資産への投資

資産運用の世界では、昔からある株式や債券は「伝統的資産」と呼ばれています。これに対して、近年注目されているのがオルタナティブ(代替的)な資産(オルタナティブ資産)です。オルタナティブ資産には、未上場株(プライベート・エクイティ)やヘッジファンド、実物不動産、天然資源、森林などが含まれます。近年ではビットコインなども注目されています。
エンダウメントは、伝統的資産と呼ばれる株式や債券に加えて、オルタナティブ資産クラスにも積極的に投資を行っています。オルタナティブ資産は、伝統的な資産とは異なるリスク・リターンの特性(値動き)を持ち、前述した効果的な分散対象として、ポートフォリオ全体の安定性を向上させることが期待されます。エンダウメントにおいて横断的に活用されているのが、未公開株とヘッジファンドです。ヘッジファンドの公募投資信託はすでにいくつか存在していますが、公募投資信託から未公開株への投資が計理上などの理由により困難であったため、国内の個人投資家にとって高いハードルとなっていました。しかし、近年では未上場株を組み込んだ公募投資信託の設定が可能となったため、国内の個人投資家が公募投資信託を活用してエンダウメントの運用手法を再現することはもはや不可能とは呼べなくなってきました。

④インデックスファンドの活用

エンダウメントはコストに対する意識も高く持っています。かつては、エンダウメントにおいても株式専門のファンドマネジャーのような専門職を採用し、個別株投資を実施していた基金もありましたが、今では多くの基金が株式や債券に関してはETF(上場投資信託)を活用して投資を行っています。例えば株式の資産クラスでは全米株式やS&P500のETFを活用して、投資先の企業を分散、効率化を図っています。ETFを活用することで管理コストを削減し、市場の平均的なリターンを取り込むことを目指しています。


今回はここまでです。次回記事が掲載されましたらご案内します。