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【ニュース紹介】気候変動対策をチャンスに!排出権市場の可能性

https://carboncredits.com/carbon-credits-are-a-key-player-in-closing-carbon-emissions-gap/

1997年のCOP3、京都議定書により国際的に合意された気候変動対策。
年々国際的な気候変動への危機感の高まりとともに特に2010年代以降、合意形成が進み、2015年のパリ協定では産業革命前からの世界平均気温の上昇を+1.5度に抑えることを目標に対策を進めることが、国際的に合意されました。
しかし足元は今世紀中に3度上昇するペースを辿っています。+1.5度の目標達成には2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年対比で45%抑える必要があり、各国政府・経済・NGOなど様々な立場から、より早くより大きな努力が必要です。
こうした気候変動への対策において、カーボンクレジット(排出権取引)市場は、国連からも+1.5度目標達成に向けた大事なパーツの一つとして支持されています。
世界の2030年の排出量削減目標の達成には、なんと2019年に比べて15倍もの自主的な排出量のオフセットが必要、とこちらの記事が引用するレポート(Investing_in_Carbon_Markets_Cleared_for_Take-Off.pdf)では指摘されています。

気候変動対策として、例えば化石燃料の利用削減と再生可能エネルギーの開発について、取組みは進んでいます。
風力と太陽光による発電だけでも、潜在的に2030年までに年間で今より20%も排出量を削減できる可能性を秘めています。
森林破壊の防止と生態系回復、農業での炭素隔離は風力と太陽光以上の可能性を持っており、現実的にこれら自然に基づく手法で30%以上の削減が可能だとのことです。
炭素隔離とは、大気中のCO2を森林の植生や海洋が吸収したり、科学技術により大気中から回収して貯蔵することを指します。
しかし、再生可能エネルギーだけ見ても、2030年までにUS$44兆の投資が必要、と指摘しています。

本質的には事業者には、排出権を抑えた新しいビジネスモデルの構築が求められますが、排出量の削減は、短期的には、全ての経済参加者が努力さえすればその分だけ削減できる、というものではありません。
例えば航空業界では、燃料の消費量は多く、かつ機材の開発・入れ替えには非常に長い期間と莫大なコストがかかります。
仮に技術的に削減が可能と言える段階まで研究が進んでいても、投資なしに実際にすぐに削減できるわけではない、という点で排出権購入の需要が生まれ、排出権取引市場が役割を果たします。
排出権の売り手は排出量の削減に貢献した事業者ですが、排出権の売却によって売上げをあげるビジネスモデル、とも言え、排出権市場が活性化することが新たな事業を創出し得ます。

そもそも排出権取引とはどういった市場でしょうか。

各国が合意した削減目標は、その国の企業や人々の活動による排出を削減することで達成されます。
コロナ禍が記憶に新しいですが、企業や人々の活動を制限してしまえば排出量は削減できますが、同時に経済も止めてしまいます。
経済活動は促進しながら、どう排出量を削減するインセンティブを持たせるか、の各国による仕組みづくりが、達成の鍵を握ります。

例えばEU圏では、世界でもっとも歴史のある制度である、欧州排出量取引制度(EU ETS)が既に2005年から開始されています。
おおまかに説明すると、エネルギー消費の大きい産業に対して温室効果ガスの排出枠を割り当てる、もしくは有償でオークションさせ、排出枠を超える排出には罰金を払うもしくは枠を市場から購入させる制度です。
他にも、米国カリフォルニア州にも製造業やエネルギー供給事業者を対象とした類似の制度があります。
こうした、制度に基づいて取引が行われる排出権の取引市場を、コンプライアンス市場と言います。罰金によって、(罰金を超えない金額まで)排出権を購入する買い手のインセンティブは明確です。
一方、排出権枠や罰則のない国や地域でも排出権は売買されており、ボランタリー市場(voluntery credit market, VCM)と呼ばれています。グローバル企業や上場企業など、社会的責任などから自発的に排出量をオフセットする企業などが、主な買い手となります。

2030年に向けて各国での制度作りは進んでおり、日本でも2023年10月11日から東証においてカーボンクレジット市場が開設され、最初の8営業日で累計1万トン以上のCO2の売買が成立したとのことです。排出権市場へは、さらなる参加者の増加が見込まれます。

前述のとおり、事業者が排出権を削減するにはたくさんの投資が必要となるわけですが、足元では金利の上昇により、借入コストが急上昇しており、さらに景気減速も予想されています。
こうしたマクロ環境から、脱炭素化の投資が細りかねませんが、その分排出権購入の需要は高まりが予想されます。
供給は短期的に増加するものではないため、こうした需要の高まりは排出権取引価格の高騰が予想されます。

こうした需要と供給の不均衡に目をつけた投資銀行や投資家から、排出権そのものや関連技術のスタートアップへの投資、関連サービスへの事業進出、といった動きが既に見られ始めています。
排出権が投機対象になることへの批判は既に見られますが、一方で排出権価格が長期的に安定して上昇することは売り手の事業性を高め、排出権創出への事業投資を促進するはずです。

当社では、2022年より機関投資家向けに、ボランタリークレジットファンドの提供を行っています。