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閉ざされる目の光

2000年、インターネットが芽生え始めた頃、私は起業家としての第一歩を踏み出しました。当時の日本は世界第二位の経済大国であり、中国や東南アジアの「後進国」を利用して人件費や材料コストを削減することが一般的な戦略でした。私自身も、上海近郊に工場を持つ企業と資本提携を結び、積極的に海外での事業を展開していました。


文化の違いは、初めて採用した海外人材「金くん」を通じて、より身近なものとなりました。金くんは優秀で魅力的な青年であり、私とは異なる価値観を持っていましたが、彼の「絶対に謝罪しない」という態度には驚かされました。これは、彼の文化ではメンツを重んじ、直接的な謝罪を避ける風潮があったためです。


中国を訪れる度に、私はその国を「軽く」見ていたことを認めざるを得ません。文化大革命によって思想的な厚みが失われ、約束が守られないことが多く、不信感を抱いていました。


そんな僕がある日、金くんと「キャリア」について話をしたのです。


この時の対話の感覚が、今でも僕の心の中に気持ち悪く居座っています。


金くんは今後どんなキャリアを歩んでいこうと考えているのか?人間的にも好きな金くんが「幸いにも」日本で働くチャンスを得ている。これからも日本で働いていきたいという答えが当然返ってくると思いながら話をしていました。

しかし、私の予想に反して金くんから返ってきた言葉は、これからの中国の経済的な発展に対する期待と、そのチャンスを掴むためにどのタイミングで動くか?というようなものでした。


理解できない中国の発展を前提にした金くんの話に、何かが憑依したかのように、頭に血がのぼりながら間違いを説得しようとしている感覚の僕がそこにいました。


理由のわからない生き方をしようとしている子供に対して猛反対する親の気持ちってこんな感じなのでしょうか。


憑依から戻り少しだけ我に返ると、シャッターが閉じるように、金くんの目の光が消えていく事に気付いたのです。

「話しても無駄」この見えないレッテルを貼られたのはあきらかでした。


僕には一切悪気も悪意もないのに、なんなら金くんが好きだからこんなに熱心なのに。なんとも気味の悪い後悔の残る経験です。



その後20年経営をしてくる中で、たくさんの会社との関わりを持ってきました。


そして同じような出来事がたくさん起きているだけでなく、これが関係、組織のエネルギーを奪う元凶になっていることに気付いたのです。


想像してみてください

金くんと同じように「どうせ言っても無駄」この気持ちを多くの若者が持ってしまっている組織


その事に悪気なく気付いていない先輩


人生の先輩は悪意なく善意で、年下に自分の正義を伝える。大切な存在であればあるほど、なんとか説得しようとする。


その事で若者は「言っても無駄」と、組織でのやる気を失っていく。


私達は例外なく

自分では気付くことのできていない、偏ったものの見方に囚われています。

そして人生を重ね作り上げてきたその考え方を後進に伝えたくなる生き物です。


年を取り、経験や知識を身につけ、悪気なく後進に熱心に伝えることで、組織や関係は活力を失っていく。


このメカニズムをどうしたら好転させることができるのか?今の僕の興味の中心です。

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西坂勇人/GCストーリー
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