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スポーツ界隈に誤解されがちな運動方程式ma=F

ニュートンの運動方程式

 あらゆる(目に見えるサイズの)物体の運動は、ニュートンの運動方程式$${ma=F}$$に従っています。$${m}$$は物体の質量、$${a}$$は物体の加速度、$${F}$$は力です。
 格闘技やスポーツに関する記事の中には、運動方程式を持ち出して「だから加速度を大きくすることで力が大きくなり、威力が上がる」という風に説明していたりする事があります。

 果たして、この説明は本当なのでしょうか?

 例えば、一定の速度150km/hで飛翔する野球ボールがあったとします。一定の速度ということは加速度を持たないわけですから、加速度$${a=0}$$となりますから、力だって$${F=0}$$となるハズです。「だから加速度を大きくすることで力が大きくなり、威力が上がる」という理論をどのように適応すればよいでしょうか? 仮に力$${F}$$を威力とするならば、加速度が0のボールの威力はゼロです。

慣性の法則

 実は、運動方程式を理解するには同じく有名な慣性の法則について正しく理解する必要があります。

物体に外部から力がはたらかないとき、または、はたらいていてもその合力が 0 であるとき、静止している物体は静止し続け、運動している物体はそのまま等速度運動(等速直線運動)を続ける。

慣性の法則

 慣性の法則では静止と等速直線運動が本質的に同じものとして扱われています。では、この二つの共通点は何でしょうか?
 二つの共通点は速度が変化しないということです。すなわち、加速度が0であるという点が静止と等速直線運動の共通点です。
 つまり、「力を受けない物体は加速度が0である」というのが慣性の法則で言いたいことなのです。もう一度、運動方程式を見てみましょう。

$$
ma=F
$$

 この式は物体が外から力を受けていれば加速度が生じるという因果関係を示しています。この方程式は慣性の法則が大前提にあるのです。

打撃とma=F

 では、格闘技の打撃について考えてみましょう。$${ma=F}$$の$${F}$$を打撃を受ける側の物体(ターゲット)に及ぼす力だと考える場合、$${m}$$に当てはまるのは何の質量でしょうか?

打撃を加える側でしょうか?
それとも、打撃を受ける側(ターゲット)の質量でしょうか?

 そうです。$${m}$$は打撃を受ける側の質量であり、$${a}$$は打撃を受けたことによってターゲットに生じる加速度が当てはまります。

 大きい力$${F}$$を受けた場合、ターゲットには大きな加速度$${a}$$が生じます。そして、その加速度の大きさはターゲットの質量$${m}$$に反比例するので、ターゲットの質量$${m}$$が大きければ、大きいほど加速度$${a}$$が小さくなることを示します。

力Fが大きくなるとどうなるか?

 物体に働く力$${F}$$が大きくなると、その物体に生じる加速度が大きくなるのですが、人体の様に形が変形する物体の場合に力が加わる場合は力を受けることによって変形が生じます。
 物体に力が加わり始めた瞬間をスローで見ると、重心は慣性の法則に従って静止している一方で接触した場所が最初に加速度が生じて動き出すことが分かります。
 結果的に、物体はつぶれるように変形するのです。

 物体に大きい力を加えれば、その分だけ変形します。格闘技の打撃で言えば、外力による物体の変形は骨や筋肉の損傷に繋がる変形であり、俗に言うダメージとして体に蓄えられていきます。
 また、同じ大きさの力でも$${F}$$変形を大きくするには最初に力が作用する面積を小さくすることで大きく変形させることが出来ます。

物体に加える力Fを大きくしたい

 アイザック・ニュートンは慣性の法則を運動の第一法則と名付け、運動方程式を運動の第二法則と名付けました。そして、作用反作用の法則は運動の第三法則として知られています。

2物体 A,Bがあり,AがBに力 (作用) を及ぼすとき,逆にBは必ずAに力 (反作用) を及ぼし返し、作用と反作用との力の大きさは等しく,向きは逆向きに働く

作用反作用の法則

 これは、例えば打撃で相手に力を及ぼすときに、ターゲットから同じ大きさの力を及ぼし返さえれるという事を示しています。実際にハードパンチャーほど拳を壊しやすいのは作用反作用の法則によるものです。

 つまり、打撃を加える側もターゲットから力を及ぼし返されているのです。この力は大きさが等しく向きが逆であり、先ほどの力$${M}$$に対して$${-F}$$と書くことが出来ます。

 打撃を加える側の質量を$${M}$$、打撃を加える側の加速度を$${-A}$$とすると、運動方程式は、

$$
M(-A)=-F
$$

 ここで$${-A}$$としたのは、打撃を加える側の加速度は負であり、打撃はターゲットに衝突した瞬間から減速を始めるからです。そして、このターゲットに衝突した瞬間の加速度が大きければ大きいほど、互いに及ぼしあう力$${F}$$は大きくなります。また、同じ加速度で減速する場合には、衝突する質量$${M}$$が大きければ大きいほど、互いに及ぼしあう力$${F}$$が大きくなります。

まとめ

ニュートンの運動の三法則は、

1 慣性の法則
2 運動方程式
3 作用反作用の法則

の三つから成り立つのですが、全ての法則が物理学とは別の業界では少しずつ勘違いされて使われてしまっています。
正しく、これらの法則を使う事で、世の中のすべての運動は法則と矛盾なく説明することが出来るのです。

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