中編小説『冒険者ギルド「が」追放されたんで、別ギルドに移籍してランキング1位を目指します!!』第一章

ありがちなナーロッパ世界のとある大都市で、ある日、突然、冒険者ギルドの活動が禁止された。
仕事を失なった冒険者達は別のギルドに移籍するが……それが、その都市を丸ごと地獄のズンドコに突き堕とす(注:比喩では有りません)ロクデモ事態の始まりだった……。

「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。



プロローグ

バーニング・ダウン

 3年前の例の伝染病の大流行。
 あれと似たような事が、また、起きたら、絶対にあの時より洒落にならん事になるなぁ……。
 僕は、そう思いながら、世にも嫌なフェ○○オを、その医者に強要していた。
 「聖騎士ロンメル」ので売り出し中の冒険者パーティーのリーダーが、よりにもよって、下手な冒険者より英雄扱いされている人に、こんな真似をやってるなんて知られたら……冒険者に憧れてる子供達が大量自殺しかねない。
 でも、これも僕達のパーティーが冒険者ギルドの中で成り上がる為には仕方ない事だ。
 手軽に「冒険者ランキング」上位になる為には……他のパーティーがやりたがらない「汚れ仕事」……ランキング上位のパーティーや冒険者ギルドそのものがやらかした不始末の尻拭いも積極的に引き受けるしか無い。
「ぐへ……ぐへ…………ぐへ……………………」
 僕の聖剣(チ○コじゃなくて本当の剣だ)を口の中にブチ込まれた、その医者の喘ぎ声は、段々と弱々しくなっていった。
 例の伝染病の大流行の時に、幾多数多の人達の命を救った名医の末路がコレとは、世の中ってのは、つくづく理不尽だ。
「死んだ?」
 僕に、そう聞いてきたのは……エルフの魔法使いシュネーシュトゥルム。通称は「シュネ」。
 この世界に、もう本物の「妖精」系は、ほとんど残ってない。
 彼女は、この辺り数ヶ国で迫害・差別されてる少数民族の北方系白肌人種の出身で、その境遇から成り上がる為に魔法の美容整形手術で自分の顔をエルフに見えるモノに変え、冒険者になったのだ。
「うん……」
「じゃあ、証拠隠滅……」
 ポン。
 彼女は一度手を叩いた後、少しづつ、2つの掌の間に隙間を作り……。
 彼女の名前は「吹雪」って意味の筈なのに、得意技は火炎系の魔法だ。
 シュネの2つの掌の間に、「炎」属性のオレンジ色の「霊気オーラ」が溜っていき……。
 ボゴォッ‼
「何やってんだ、マヌケッ‼」
「痛いッ‼ 何、すんのッ?」
 突然、シュネの後頭部を撲ったのは、「聖女」ローア。
 シュネが偽エルフであるように、彼女も本物の「神聖魔法」の使い手じゃない。
 どうやら……百年か二百年前に、この世界で、何か、とんでもない異変が起きたらしい。
 それ以来、「妖精」系の種族は「この世界」を去って故郷である通称「妖精界」に帰り、善・悪・中立・秩序・混沌・自然なんかの「属性」に関係なく「神々」と呼ばれる「神聖魔法」の「力の源パワーソース」との絆を持つ人間も激減した。
 ローアの使う「神聖魔法」の正体は……「神々」とは別の何か剣呑ヤバい存在との契約で得た能力ちかららしい。
 狭い意味での「神々」より下位の異界の存在は、「神々」よりも気軽に人間の願いを叶えてくれるが、本物の「神々」に比べて阿呆揃いみたいで、人間から見て善良な存在が善意で力を貸してくれた場合でも、願いを叶えてもらったり力を借りた人間が、回り回ってエラいツケを払う羽目になる事は良く有る。
 ましてや、ローアの使う偽「神聖魔法」の「力の源パワーソース」は、かなりロクデモない魔物なんで……何が起きるかと言えば……。
 どうやら、ローアに治癒魔法をかけられた人間は……同意も無しに、その「何か剣呑ヤバい存在」に「魂を売った」事になってしまい……死んだ後は地獄だか冥府だか魔界だか奈落だか(この4つは厳密には違う世界だそうだけど、具体的にどう違うか、さっぱり判らない)で魔物達の宴会のオードブルとして、美味しく食べられてしまうそうだ。
 あ、僕が、この事実を知った時、既に、ローアから何度も治癒魔法をかけてもらっていた後だった。
 まぁ、もっとも「本物の神聖魔法」は「後の面倒見アフターサポートもバッチリの代りに、発動・成功条件がクソ厳しい」モノだったらしく、「本物の神聖魔法」の使い手が一定数居た時代から、発動失敗の確率はクソ低いけど使用した時のリスクもバカ高い「偽物の神聖魔法」との競争に負けてたらしいけど。
「おい、おマヌケ耳長野郎、私ら、何しに、ここに来たんだっけ?」
「だから……このおっさんが……えっと……ドワーフとかゴブリンとかの正体を……えっと……」
 シュネは「頭良さそうに見える演技」は超巧いが、本当に頭がいい訳じゃない。
 脚本ブック通りにる事は出来ても、アドリブシュートはクソ駄目だ。
「あのさ、おめえの魔法で、ここ焼き払ったら魔力が残留すっだろ。残留魔力のパターンで官憲の魔法使いに誰が犯人かバレかねねえよ。証拠隠滅のつもりで証拠残すって、おめえ阿呆だろ」
「シュネ、阿呆じゃないもん」
「うるせえ」
「○×△◇⁉」
 ローアはシュネに「猿ぐつわ」の魔法をかけて議論を打ち切る。
「おい、証拠、全部、普通の油で燃やすぞ」
「う……うん……」
 この医者は……生まれ付きの身体障碍者の治療法の研究をしている内に、ある恐しい事実に気付いてしまった。
 ドワーフやゴブリンの中に「小人症」の人間を魔法で「改造」して生み出されたモノが居るらしい事に……。
 そして、どうやら、「小人症」の家系を人の手で作り出している組織が有るらしい事も……。
 いや、その悪の組織って、要は、この辺りの国・大都市に有る冒険者ギルドの連合体なんだけど。
 ドワーフやゴブリンが居なくなったけど、冒険者ギルドの組織は維持しなきゃいけない。
 だから、各地の冒険者ギルドは、偽のドワーフや……冒険者に狩られる「敵」としての偽のゴブリンを作り出す事にした。
 やがて、それは冒険者ギルド連合での共同事業になり……「小人症」の人間を掛け合せて「ドワーフ」や「ゴブリン」の「素体」になる家系が生まれた訳だ。
 そして、冒険者ギルドは、極秘情報に辿り着いてしまった、この医者の殺害と証拠の隠滅を僕達のパーティーに命じ……。
「お父さん、急患の……えっ?」
 急に部屋のドアが開いて、そこに居たのは、十歳ぐらいの幼女。
「うわああああ……‼」
 僕は、慌てて、幼女に向かって駆け出し……えっ?
 床に何か落ちてた。
 それに足を取られてコケた。
 コケた拍子に聖剣を手から放してしまい……。
 ズサッ……。
「あ……」
「あぎゃっ?」
 宙を舞った聖剣は幼女の体を斬り裂く。
 詳しく描写すると小説投稿サイトの規約違反になりそうな……中途半端だから逆にグロい、即死じゃないけど助かるのは無理っぽそうな傷……。
「やれやれ……」
 ローアは、倒れて、もがき苦しんでる幼女に近付き、僕の聖剣を取ると、幼女の喉元に突き刺した。
「おい、早く焼け……この家ごとな」
 この手の汚れ仕事の時のローアは……普段の「聖女」の人格じゃなくて「魔物」かつ「本物」の人格が表に出てる。
 別に暴走する訳じゃない。
 わざと三文芝居に出て来そうな「聖女」を演じてるような普段の人格よりも遥かに論理的で冷静で頭も回る。
 ただ、「ある目的を果たすのに労力・リスクその他の条件がほぼ同じ複数の手段が有る」場合に一番倫理的にマズい選択肢を積極的に選ぶだけで。
「は……はい……」
「あと、急患とやらも確実にるぞ」

第1章:ミッドナイト・ライダー

(1)

「僕らも、いつか、ランキング1位になれるのかなぁ……?」
 一仕事終えた後、居酒屋の2階のベランダ席から大通りを見下みおろしながら、僕は、そう言った。
「なれますよ。頑張っていれば、神は手を差し延べてくれます」
 営業用の人格に切り替わったローアは、そう言ってくれた。
 偽エルフのシュネは……その台詞を聞いて嫌そうな表情かおになる。いや、正確には、オーバーな演技で「吐きそう」って表情とゼスチャーをしたが……ローアは、そのシュネの方に……微笑みかけ……。
 微笑み続け……。
 更に微笑み続け……。
 まだまだ、微笑み続け……。
 普通の人間なら……同じ表情を、こんなに長く続けられる訳がない。多少は、顔の筋肉に何かの動きが有る筈だ。
 でも、ローアの顔には微笑みが貼り付き続けている。そして、この睨めっこは、いつも、元々は白肌人種のシュネの顔が、更に……病気か何かみたいに……真っ青になり終る。
 さっきの仕事に連れて行かなかった偽ドワーフの戦士のシュタールは……黙々と酒を飲んでるが……明らかに酒なしでは正気を保てない奴の表情ツラだ。
 ドワーフは、人間より寿命が長いって「設定アングル」だけど……小人症の人間をドワーフに改造した直後の状態で、残り寿命は、長くても十数年になってしまい、約7割が5〜6年で壊れてしまう。
 しかも、ドワーフに改造した時に精神操作系の魔法もガンガンかけてるようで、精神も不安定になってるらしい。
 一般人には知られてないが、精神操作系や肉体干渉系の能力を持つモンスターと戦ったら、真っ先にドワーフ(正確にはドワーフに改造された小人症の人間)がやられるってのは、冒険者の間では常識だ。体にも心にも手が後先考えないような改造がされてる分、その手の魔法や能力に対して、ドワーフ(正確には以下略)は無茶苦茶脆弱だ。
 そろそろ、新しいシュタールを調達しなきゃ、いけなさそうだ。
 でも、たった3年で壊れかけてるなんて……パーティーを組んだ時に、ギルドから、とんだ「不良品」を掴まされたらしい。
「ちょっと……トイレに……」
「どうしたんですか? まだ、そんなにお酒を飲んでないでしょ……?」
「いや、その、あははは……」
「体調悪いんでしたら、わたくしの治癒魔法で……」
「いや……いい、いいよ、大丈夫。多分、疲れてるだけだ。明日丸1日ゆっくり休めば回復してるよ、はははは……」
 パーティーを組んだばかりの頃は……ローアを本当の「聖女」だと思っていた。
 今は……彼女が「聖女」の人格に切り替わってる時には、ガチで吐き気がする事が有る。
 本物かつ魔物の人格は……極悪非道のサイコパスだが、まだ、話は通じるし、「クソ野郎で何が悪い」と開き直ってる分、性格に裏表も無い。
 如何にもな「聖女」そのものの笑顔も……本物かつ魔物の方がまだ人間的な……おぞましい作り物にしか思えない時が有る。
 クソ……。
 この都市まちでの「冒険者ランキング1位」を目指し始めてから……どんどん正気が削られていく。
 クソ汚いトイレで思い切り吐き続け……。
「あ……?」
 畜生、また、あの幻覚だ。
 トイレの中に……今まで殺してきた人達の顔が見える。
 さっき殺した……あの名医の顔もだ。
 いいよ……どうせ、偽「聖女」様に何度も何度も何度も実はクソ危険ヤバい「治癒魔法」をかけてもらったせいで、死んだら魔物に魂を食われる事は決ってるんだ。
 地獄で、今まで殺した奴らに袋叩きにされる心配だけは無い。

(2)

 鏡なんか見なくても、自分がゲンナリした表情になってるのが判るような状態で、トイレから2階のベランダ席に戻ると、ローアとシュネが変な表情かおで僕を出迎えた。
 シュタールは……黙々と酒を飲んでる。
「あ……あのさ……それ……」
「どうしたの?」
 シュネの顔色は……北方系白肌人種が「魔法の美容整形」で改造された偽エルフだって事を考慮しても……白過ぎる。
 ローアは……やれやれと言いたそうな感じの表情。
「おい、お前に取り憑いてる奴ら……食ってもいいか?」
 口調からして、僕がトイレに行ってる間に「本物かつ魔物」の人格に切り替わったらしい。
「へっ?」
 次の瞬間……。
 轟ォッ‼ 業ォッ‼
 僕の体から……黒い煙のようなモノが出て……それがローアの口に吸い込まれる。
「うがあああ……」
「げええええ……」
「うきゃきゃきゃきゃあ〜ッ‼」
 そして、ローアの口元で、その黒い煙みたいなモノは、次々と……人の顔の形になり……悲鳴をあげ……そしてローアの口の中に消えていった。
 ちょっと待て……。
 ……あれ、幻じゃなかったのッ?
「おめえさ……悪党に向いてねえよ」
「え……?」
「おめえが、人殺しても何とも思わねえような極悪人や、人を殺す事の何が悪いのか判んねえような、この2人みたいな阿呆なら……」
「シュネ、阿呆じゃないもん」
「うるせえ」
「○×△◇⁉」
 いつものように「猿ぐつわ」の魔法が発動。
「あの手のモノは、逆に、極悪人や阿呆には取り憑かねえ。けど、おめえは中途半端だ。バレずに悪事をやるのが現実的だとイキがってる癖に、心のどこかでは、今までやってきた事を気に病んでやがる。だから、あの手のを引き付けちまう。こんな調子じゃ……いつか、あたしらのパーティーが殺した奴らの怨霊を1人で引き受けて、り殺される羽目になるぞ」
「は……はぁ……」
「ひょっとしたら、私らが冒険者ランキング1位になれる日が来るかも知れねえけど……その頃にはおめえ脳味噌おつむはブッ壊れてるぞ、死んでなきゃな」
「あ……あの……この馬鹿小説、ジャンルが追放モノに変るの?」
「悪い事はこたあ言わねえ。田舎帰ってマトモな仕事やれ」

(3)

「その事は……明日になってから考えるよ。当分は大丈夫なんでしょ?」
 僕は、そう言って、もうすぐやって来る予定の山車だしを見ようとベランダの端の方に向かう。
 月1回、その月の「冒険者ランキング1位」に選ばれたパーティーは魔法で動く山車だしに乗って町中にお披露目される。
 その日は、ちょっとしたお祭りになる。
「ん? どうしたの、あれ?」
 僕の横で通りを見ていたシュネが、そう言った。
 何故か、大量の人達が一方向に走っている。
 しかも、馬鹿デカい鐘の音が鳴り響く。
「今回……派手だけど……ん〜?」
「そうだね。何て言うか……演出は金かかってそうだけど……何かイマイチだね」
 ランキング1位のパーティーが乗ってる山車だしやって来る予定の方向から、もの凄い光。
 まるで昼間……いや、あの光、何か変だ。
 あ……。
 まさか……。
 それに、あの鐘の音……いつか聞いた覚え……。
「火事だぁ〜ッ‼」
「みんな逃げろ〜ッ‼」
 え……ッ?
 あ……。
 しまった……。
 この酒場に来る前に放火した医者の家……。
 ランキング1位のパーティーが乗ってる山車だしが通る予定の道の……すぐ近く……。
 シュネと僕は、放火を指示したローアの方を見て……。
 初めて見た。
 ローアの冷や汗を……。
「○×△◇⁉」
「○×△◇⁉」
 ローアは、またしても「猿ぐつわ」の魔法を発動。
 僕とシュネは一時的にしゃべれなくなってしまった。
「あ〜……この件、どうするかは、気を落ち着けてから話し合おう」
 ふと、通りの方を見下みおろすと……。
 え……えっと……あの状態で、自動運転の魔法の効果が切れてないのか?
 燃え盛る山車だしが町中を疾走しながら、炎を撒き散らし続けていた。

(4)

 ブー、ブー、ブー。
 その時、シュネの懐から音が鳴り出す。
「□◎∵∴√‼」
 シュネは懐からエメラルド色の魔法の小型石版タブレットを取り出して……。
 石版タブレットの表面に表示されているのは……冒険者ギルド本部のマーク。
 どうやら、ギルド本部から何かの緊急連絡が有ったようだ……って、どう考えても、何についての連絡かは明らかだけど……僕たちが原因だとしても、今、この町で起きてる事は僕たちの専門外だ。
 シュネは自分の口と石版タブレットを交互に指差し……。
「あ〜、わかった、わかった」
 そう言って、ローアは石版タブレットを取り上げ……。
「はい、『聖騎士ロンメル』パーティーの『聖女ローア』っす」
 シュネは首を左右に振り、自分の口を指差す。
「なるほど……」
 ローアは無視。
「わかりやした」
 ローアは更に無視。
「報酬は、いつもの倍でいいっすか?」
 ローアは無視無視無視。
「え〜……まぁ、仕方ないっすね。いつもの5割増しで手を打ちましょう」
 通話を終えると、ローアは指を鳴らして僕たちにかけた「猿ぐつわ」の魔法を解き……続いて、シュタールの頭を掴むと……。
「うぎょッ‼ 何すんじゃ、このメスガキがッ‼」
 ドワーフに改造された小人症の人間は……普通の人間より寿命が短かくなるが……改造された時に施された精神操作のせいで、自分を本当のドワーフだと思い込んでいる。
 その結果、例えば……ローアさえ自分から見れば「メスガキ」にしか思えない年齢だと勘違いしてたりする……。
「解毒の魔法を応用した酔い覚ましだ。緊急の仕事だ。おい、耳長野郎、全員に浮遊レビテーションの魔法をかけろ」
「え……? な……何?」
「ギルド本部からの緊急依頼だ。あの山車だしを破壊するぞ。正確には山車だしに乗ってるモノだ」
「で……でも……それは消防ギルドとかの仕事じゃ……。それに、あの状態じゃ……何が山車だしに乗ってても、遅かれ早かれ焼けて灰に……」
「阿呆、今の一位のパーティーには、あたしより力が上の聖女が居ただろうが……あたしみたいなのが死んだら、どうなる?」
「……ど……どうなるって言われても……どうなんの?」
「だ・か・ら……聖女だの神官プリーストだのの9割9分以上は……あたしと同じ強力な魔性のモノフィーンドから力を得てる偽物だろうがッ‼ しかも、ズルチートなしの実力だけで冒険者ランキング1位になったパーティーの『聖女』だぞ。判ってんのか?」
「判んない。僕、馬鹿だから判んない」
「あ〜、シュネは阿呆じゃないから、判るよ……ええっとね……」
「お前の説明は後でゆっくり聴いてやる。要は……バカ強いつええ魔性のモノフィーンドと契約してたバカ強いつええ『邪術師』がくたばって……その死体から、マズい魔力が漏れ出してるみてえなんだよ」
「へっ?」
「だから、町の大通りにクソ剣呑ヤベえ『邪遺物』かアンデッドが出現したんだよッ‼ いくぞ、聖女サマの死体をブチ壊すか……聖女サマの亡霊を地獄に送り返すぞ‼」

(5)

「おい、何で、もう浮遊レビテーションの効果が切れてる?」
 浮遊レビテーションの魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。
「え……だって……」
「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的ターゲットに追い付けねえだろうがッ‼」
 ……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車だしのせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。
「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」
 その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。
「黙れッ‼」
 ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?
 看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。
 ……って、何者だよ、こいつ?
「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」
「ちょ……ちょっとシュタール……」
 シュタールは戦斧を横殴りに振う。
 いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。
 だから、胴体を狙って横に振り……。
 ガシンっ‼
 シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。
「に……逃げた方が……いいよ……これ……」
「って、この……何者?」
 フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。
「あ……あ……あ……」
 うろたえた表情かおつきで……自分の両手を見るシュタール。
 その両手は……。
 あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。
 そのせいで、握力が落ちてたらしい。
 ドゴォッ‼
 看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。
 それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。
 派手に吹っ飛んだ訳じゃない。
 ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。
 蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。
「食い逃げは捕まえたのかい?」
 店の奥から……おかみさんの声。
 たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。
 ……つまり……。
 おかみさんは、こいつより強い。
 おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。
 ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金みかじめ料」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉
「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」
 僕は、そう言って、財布を差し出した。
「足りないよ」
 看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。
「へっ?」
「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」
「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」
「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」
「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」
 僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。
「わかった、わかった。さっさと消えな」
「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」
 そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。
 あの2人は、既に近くには居なかった。

(6)

 ともかく、僕はギルド本部からの依頼を果たす為に、山車だしを追った。
 でも……。
 何か、変だ。
 さっきまでは、結構な人込みだったのに……。
 そう思いなかが走り続けていると……。
「うわっ⁉」
 思い切り、足が滑り……いや、待て待て待て待て待て。
 何で、ここ何日か快晴続きなのに、道が濡れてる?
 それに……これは……良く知ってる臭いだ。
 周囲を見る。
 その液体の正体は……予想が付いた。
 でも……ああ……僕の悪い癖だ。
 嫌なモノは見なければ存在しない筈だ……そんな蜂蜜より甘い考えに……。
 幸いにも夜の闇で周囲はマトモに見えない……。見えないなら、無いも同じだ、あはははは……。
「うわああああッ⁉」
 あっ……クソ……あの2人、何て事をしてくれた……。
 道の先から……何発もの……閃光ひかり
 多分……先に行ったシュネが得意の「炎」系の魔法をブッ放しまくってんだろう。
 きっと、あの先でも、更なる大火事が起きてるに違いない……。
 そう思わざるを得ない程の光に照らされて……。
 見えてしまった。
 見たくなかった。
 老若男女、この町に居る色んな人種分けへだてなく……。
 太った人も痩せた人も……裕福そうな人も家無しも……。
 ああ……本物の神様が居るんなら、きっと、こんな感じで人間を平等に扱うんだろうな……。
 ただ、この町に神様がやって来たんなら、それは殺戮の神様らしいけど……。
 足を滑らせて、尻餅を付いた時に……道を濡らしてる液体が手に付いた。
 死体。
 死体。
 死体。
 死体死体死体死体死体死体死体屍死体体体死死死死死体屍屍屍屍屍ィ〜ッ‼
「あああああッ⁉」
 最早、覚悟を決めるもクソもない。僕は自分の手を見る。
 もちろん、血がべっとり……。
 その時……。
 僕は気付いた。
 多分、シュネの爆炎魔法によるものであろう閃光に照らされて……一人の男の影が……。
 え?
 まさか……。
 生きてたのか?
 ああああああ。
 きっと……間一髪で脱出したんだ。
 そ……それでこそ、僕の憧れの人だ。
 立ち上りたくても、緊張で膝がガクガクになってる。
 き……きっと、僕は……今……生まれて初めてオ○ニーを最後までやりとげた直後のオスガキようなアヘ表情がおになってるんだろう。
「ご……御無事だったんですね? あ……あ……あ……あの、僕、ランキング十三位のパーティーのリーダーで……は……『聖騎士ロンメル』って言います。あああああ……あなたに憧れて冒険者になったんです……あははははは……あれ?」
 僕の前に居たのは……確かにランキング一位のパーティーのリーダー「黄金龍の勇者ディーノ」……。
 あ……あれ?
 でも……何か変だぞ。

(7)

 そうだ……「黄金龍」の渾名の元になった金色の鎧は……所々汚れ……そして、顔には……。
「や……火傷?」
 炎に包まれた山車だしから脱出出来たと言っても……無傷じゃ済まなかったらしい。
「あ……あの……大丈夫です。僕のこの聖剣で……」
 後から考えたら、変な所は山程有った。
 でも、そんなのは後知恵だ。
 よく言うじゃないか、「今の基準で過去を裁くな」って……。
 けど……この時、僕は……憧れのヒーローに認めてもらえるかも……って……それで……。
 頭の中8割以上がエロ妄想の思春期の馬鹿なオスガキが、最高の美女と一晩同じ部屋で過ごせてベッドでドン・ペリニヨンな事になったら……そんな状態と同等か、それ以上に心が天国にイきかけてたんだ。
 僕が冒険者になったばかりの頃に、偶然見付けた、この「聖剣」。
 どうやら、数百年前のまだ「本物の神聖魔法」が絶滅危惧種じゃなくなる前……でも、「本物の神聖魔法」が今の主流の「偽の神聖魔法」に勢力や信者を奪われ始めていた頃に作られたものらしい。
 ギルドの鑑定師の話では、本物の「神々」と人間の間の「絆」が失なわれた時代の為に「本物の神聖魔法」の使い手によって作られたものらしい。
 1日あたりの回数制限は有るけど……もうこの世界には残ってないかも知れない本物の聖騎士パラディンの能力を模倣した「力」を使える。
 副作用なしの治癒魔法に、解呪に、「悪を討つ一撃」に、「精神操作解除」に……。
「あああ……光栄ですぅ♥ あこがれの人の役に立てるなんてぇ♥」
 我ながら……どう考えても(エロ描写自粛)みたいなみっともない声だ。
 でも、ともかく……僕は……聖剣の力を全部「治癒魔法」にして、本日1日分を一気に使い切……えっ?
「があああああッ‼」
 僕の憧れの人の傷は……一気に酷くなった。
 そして……僕にとっての最高で究極のヒーローの口から出たのは……そう……まるで……魔物フィーンドやアンデッドが本物の聖騎士パラディンの「悪を討つ一撃」を食らったなら……こんな感じだろぉ〜なぁ〜って悲鳴。
 嘘。
 嘘。
 嘘嘘嘘嘘嘘……(以下略)。
 皮膚どころか……肉さえ溶け出し……骨や歯が剥き出し。
 血走った目に有るのは……怒りと憎しみ。
 あ……。
 あははは……。
 何で……気付かなかったんだろう?
 僕の憧れの人が手にしていた剣には……血のりがべっとり……。
 そして……鎧の汚れの半分ぐらいは……火に包まれた山車だしから脱出した時の煤や灰じゃなくて……返り血……。
 ゴオっ‼
「うわあああ……」
 僕の頭上を黒い霊気オーラの刃が通り過ぎ……。
 しゅう……しゅう……しゅう……。
 アンデッドになった冒険者ランキング1位のパーティーのリーダーの血や肉が嫌な臭いと共に蒸発し続け……僕の憧れの人の成れの果ては……膝を付く。
 どうやら……アンデッドにとっては「毒」である「生きた人間向けの治癒魔法」を盛大に食らった状態で、怒りにまかせてパワーを消費する技を使ったせい……だと……思う。
 どっちに逃げる?
 僕は……神に祈りながら……って、知らない内に魔物フィーンドに魂を売り渡してたマヌケの祈りを神様が聞き入れてくれるかは別にして……ほんの少し前まで僕の最高で究極のヒーローだった人……もう人じゃないけど……の横を走り抜け……。
 目が合った。
 あの人は……歯茎が剥き出しになった口を開き……。
「うそ……うそ……やめて……たすけて……」
 そこら中に有る無数の死体から……何か煙のようなモノが立ちのぼり……アンデッドと化した「黄金龍の勇者」の口に吸い込まれていき……。
 冗談だろう……。
 少しづつだけど……「黄金龍の勇者」だったモノの肉が再生している。
 この人……いや、くどいようだけど、もう人じゃないけど……は……自分が殺した人達の死霊を吸収して……自分の力に変えている……。

(8)

 どう考えても……何とかなるとは思えない。
 ともかく、僕は……シュネやローアと合流すべく走った走った走った。
 シュネやローアも殺されてる可能性が高い。
 で……でも……それでも、もし生きてたなら、力を合わせる方が生き延びる事が出来る確率は高くなる筈筈筈筈筈筈筈……。
 ブンッ‼
 突然のその音と共に……ボクの鎧の胸部装甲が切り裂かれる。
 けど……大丈夫だ……鎧だけで済んだ。
 僕の体まで、刃は届いて……ああああ……こ……この人まで……アンデッドになってたのか……。
 僕の目の前に居たのは、「黄金龍の勇者」のパーティーのドワーフの戦士シュヴァルツ・トロンベだ。
 当然ながら……武術近接戦闘の腕前は……天と地ほどの差が有り……そして、聖剣の力は、さっき使い切った。
 マズい……マズい……マズマズマズズママズい……。
 でも、ドワーフの身長は、小人症の人間ほどしかない。
 だって、今の時代のドワーフの大半は、小人症の人間を改造して作ってんだから。
 だから……さっきと同じだ。
 僕たちのパーティーのドワーフ戦士のシュタールが、鬼強い謎の看板娘に(新しいシュタールを調達する費用の事は後で考えよう)時と同じだ。
 注意すべきは胴体や足を狙った攻撃。
 あの身長で僕の頭や首を狙うなら……体勢に無理が出て、威力やスピードは落ちる……。
 ガチャン。
 ……筈。
 ガチャン。
 って、何だよ、この音?
 えっ?
 シュヴァルツ・トロンベの鎧の手足の部分が展開し……でも、中に有るのは生身の手足じゃない……。
 おい……。
 ガチャン。ガチャン。ガチャン。
 今晩、何度目の「嘘嘘嘘嘘嘘」だ?
 シュヴァルツ・トロンベの両手両足は……機械からくり仕掛けの義手・義足だった。
 それが……伸びた。
 手足ともに倍ぐらいに……。
 もちろん、もう既に「普通の人間より背が低いんで、普通の人間の首や頭部を狙うのは困難」なんて弱点は消えている。
 しかも……良く見ると……手首と肘の間、肘と肩の間、股関節と膝の間、膝と足首の間……計8個の……生身の人間には無い関節まで有る。
 ああああ……う……うそ……これが……黒いシュヴァルツ竜巻トロンベっての由来か……。
 ごおッ‼ ごおッ‼ ごおッ‼ ごおッ‼
 並の戦士なら、両手を使わないと巧く扱えないような重戦斧を片手に1つづつ。二刀流ならぬ二斧流。
 そして……腕の力だけじゃなくて、全身の筋肉(義手・義足の人工筋肉含む)を総動員した動き。
 更に、脚と腕の関節は増えてるんで……竜巻トロンベそのもののスピード……。
 思わず、腰を抜かしたから……ギリギリで避ける事が……。
「ぐがっ?」
「あがっ?」
 シュヴァルツ・トロンベの斧の斬撃は……僕を追って来た「黄金龍の勇者」の脳天をカチ割り……。
「がががが……」
 アンデッドになっても、まだ、仲間意識が有るのか……かつての仲間を誤射してしまったシュヴァルツ・トロンベは……うろたえ……そして……。
「ぐがあッ‼」
 僕の憧れの人の成れの果ては……怒りの声と共に剣を振ると、闇の霊気オーラの刃を飛ばし……。
 シュヴァルツ・トロンベの体は真っ二つになり……でも、「黄金龍の勇者」の体も……力を使い果たしたのか……煙と腐汁に変わってゆき……。
 何が……起きたのか理解するまでじかんがかかった。
 でも、もう……ああ、ぼくのあたまはさえてる。
 ぼくが……さいきょうパーティーのリーダーとドワーフせんしをひとりでたおしたんだ。
 あははは……。
 ぼくがさいきょうだ。
 ぼくが……ぼうけんしゃになるっていったときに「なにゆめみてんだよ」とばかにしたじもとのやつらのいうことにみみをかたむけなくてよかった。
 ゆめじゃない。
 ゆめじゃない。
 ゆめじゃない。ゆめじゃない。ゆめじゃない。そうだ、ゆめじゃない。
 こんばん、このとき、このただいま……ぼくたちのパーティーこそがだいばんじゃくふどうのランキング1いになった。
 うきゃきゃきゃきゃッッッッ♥

(9)

 あれ? ここ、どこだ?
 ……それに、もう明るい……。
 そして……ここ、馬鹿デカいテントか何かの中?
「三六二番の患者さん、意識を取り戻しました」
 若い女の声だ。
「だ……だれ?」
 そう言った途端……何か変な感じが……。
「脳の活動……正常の範囲内。三六二番の患者さんに事情の説明を行ないます。例の書類をお願いします」
 その声の主は、明らかに並の冒険者よりいい鎧を着装つけている……それも、多分だけど、筋力増幅機能付きの奴だ。
 その鎧の色は……派手なオレンジ色。
 風貌は……ぶっちゃけて言えば、女なのに男より女にモテそうな感じだ。
 そして、その女は白一色の服の男から、何かの書類を受け取ると、僕の方を見る。
人命救助レスキューギルドの者です。いいですか? 良く聞いて下さい。あなたの心身は、かなり量の『邪気』に被曝しています。必ず専門の魔法医の治療を受けて下さい。それも至急です。紹介状とこの都市まちの主な魔法医のリストはこちらです」
 そう言って、そのレズっぽい女は紙を3枚、僕に渡した。
 一枚目……医者への紹介状らしい。結構、細かく僕が発見された時の状況や、魔法で僕の体を走査さぐった結果が書かれている。
 二枚目……この都市まちの各地区ごとの魔法医の住所と名前のリスト。
 三枚目……え……えっと……な……なんだよ、これ?
「こ……これ、何ですか?」
「何か判ったという事は字は読めるようですね」
「い……いや、そうだけど……」
「でしたら、書いてある通りです」
「い……いや、その……あの……」
「だから、書いてある通りです。被曝した邪気を除去する治療を受けた後、必ず当局に出頭して下さい。貴方は昨晩の事件の参考人です。それは、その為の召喚状です」
「あ……あ……あ……」
「当局からの伝言です。『貴方には弁護人を選び、その弁護人から法律上のアドバイスを受ける権利は有るが、黙秘権は認めない』」
「あ……あの……昨日のアレって、結局、どうなったんですか?」
「どこまで御存知か当方には判りかねますので、最初から話しますね。まず、この都市まちの一画で放火によるものと見られる火事が発生。その火が冒険者ギルドがやってる見世物の山車だしに引火。しかし、魔法で動いていたその山車だしは延焼しながら、都市まち中を暴走。その山車だしに乗っていた冒険者ランキング1位のパーティーとやらが何故か強力なアンデッドに変貌し、火事から逃れようとしていた無辜の市民を虐殺し始めました」
「え……えっと……じゃあ、そのアンデッド達は……どうなったんですか?」
「2体が同士打ちと見られる状況で活動停止……貴方が発見された辺りですので何か御存知……」
「知りません、知りません、知りません、気絶してました」
「そうですか。残りは鎮圧されました」
 そうか……ローアとシュネが……あの2人、中々すごいじゃん……と思ったら、その人命救助レスキューギルドの奴は、とんでもない事をヌかした。
「あと、『退魔師ギルド』によるアンデッドの鎮圧を妨害して事態を悪化させた冒険者2名が指名手配中です。あなたと同じパーティーのメンバーである事は判明していますよ……自称『聖騎士』ロンメルさん」

次章はこちら。
https://note.com/gazi_kun/n/n47516530f294

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