短編小説『戦え!! 魔族討伐隊!!』
夕飯を食った時のレジでの些細なトラブル。
それが、何で、こんな事に……?
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「あれ? 天麩羅含めて4つ頼んだのにレシートには3つしか無いですよ」
晩飯を食いに入ったチェーンのうどん屋のレジで、俺は、そう言った。
閉店間近。
でも、俺の後ろには客の列がズラっと……。
「あ……ちょっと待って下さい」
「えっと……牛肉うどんに温泉卵トッピングを頼んだのに、レシートでは牛肉温玉ぶっかけになってるような……」
「あ……すいません」
更に、もう少し経験豊富そうな店員さんもレジに駆け付け……再計算して……。
「えっと……差額は……」
くそ……正しい値段は出たが、四十過ぎてから、暗算能力が落ちてる。
店員さんが電卓まで持ち出して……。
「差額は百十円になります。申し訳ありません」
「あ……はい……」
俺は差額を店員さんに渡し……。
何でだよ?
百円ちょっとと言え、黙ってりゃ俺は得をしてた。
それをわざわざ店員に言ったんだ。
俺は、正しい事をした筈だ。
なのに……。
何で、俺の後ろに並んでる客の目がこんなに痛い……ん?
何か、似たような作業着の客が多いな……? でも、この辺りに、あんな作業着の会社とか工場って有ったっけ?
主に俺の心理的な問題のせいで、あんまり美味く感じなかった晩飯を食い終り、うどん屋を出る。
何か、変だ。
ターミナル駅の近くだが、いつもなら、この時間は人通りが少ない筈……でも……。
足音。
人の気配。
振り向く。……えっ?
うどん屋に居た見慣れぬ作業着の一団。
それが、俺に、どんどん近付いて来る。
「な……何ですか?」
「お前……何で、あんな『正義の暴走』をした?」
「へっ?」
「お前の独り善がりな正義のせいで、何人が迷惑したと思ってるんだ?」
「あ……あの……?」
「判らないのか、レジでお前がやった事だ」
「い……いや……でも……あれは……」
「あのタイプのうどん屋で、レジで後ろに並んでる他の客を、あんなに待たせるとは、何を考えてるんだ? うどん屋だぞ。麺がのびるだろ?」
「あ……あの……その……」
「あの様子は動画に撮って、既にYoutubeにUPした。ざまあ見ろ、カスハラ糞野郎め、お前の社会的生命は、もう終りだ」
「だから……何を言ってんですか? 家に帰らせて下さいよ。明日も仕事が有るんですよ」
気付いた時には、作業着の一団は、俺を取り囲んでいた。
「では、説明しろ。あんな真似をやった理由を論理的にな」
「へっ? いや、ですから……」
「答えられなのか?」
そりゃ、こんな状況では……頭が真っ白になって……考えがまとまら……。
「やはり、そうか……お前は魔族だな」
「えっ?」
最初……何を言ってるのか判らなかった。
そして……ようやく思い出した。
某人気ファンタジー漫画に出て来る「魔族」。人間にそっくりで、人間のフリをするのが得意だが……人間とは根本的に違う思考パターンを持つ人喰いの異生物……。
SNSなどで、気に入らない意見を言ってるのに、論破出来ない相手を、その「魔族」扱いする奴らが居た。例えばネット右翼やオタクとしてクソ浅い癖に自分をオタクの代表だと思い込んでる奴とかがフェミニストやネット右翼が言う「ブサヨ」なんかに粘着してる場合なんかで。
あいつらは、人間のフリをした人間とは違う連中だ……と……。
だが、特定の集団への差別や迫害は、「あいつらは俺達とは違う」「あいつらを俺達の仲間として扱うべきではない」と考える事から始まる。
そして、あの人気ファンタジー漫画の「魔族」みたいなモノ、という概念は、そう言った「特定の集団の非人間化」をやるのに便利な概念だった。
あくまで噂だと思っていた……。今や、その「魔族」が現実に存在していて、人間のフリをして人間社会に混っていると信じる馬鹿どもが既に一定数存在していて、その馬鹿どものコミュニティみたいなモノまで出来上がってる……と……。
「あの……何を……」
助けの声の主は……警察官……多分、近くの交番の巡査……だった。
「うるさい。我々は魔族討伐隊だ。警察は引っ込んでろ」
えっ?
何だ……今……赤い光のようなモノが見えたような……。
この無茶苦茶な台詞を言った馬鹿の目の辺りから……。
「あああ……す……すいません……。ご苦労様です。ごゆっくり……」
警察官は慌てて、その場を離れ……って、何でだよッ?
「そうか……やはり、貴様、自分の行動の理由を論理的に説明出来ないのか……魔族の特徴だ」
「だ……だから……何で……そうなるんですか?」
「魔族は人間のフリが巧い。しかし、奴らの思考パターンは人間とは違うので、そのフリは表層的なモノだ。『私は素朴な疑問を訊いてるだけですが』って表情で『あの勇者はもう居ないじゃない。墓石の下でとっくに腐り果ててるよ』と言えば、相手が怒り狂い冷静さを失ない自分が有利になる可能性が高い事は、経験則としては知っている。だが、何故、人間やエルフやドワーフが怒り狂うかは理解していないので、匙加減の間違いを良くやらかす。お前も、それと同じだ。人間として、正しい事をやっているフリは出来るが、何故、それが正しい事なのかは理解出来していないので、うどん屋でやったようなチグハグな『正しい行動』をしてしまう。そして、我々が『何故、その行動が正しいと思ったのか?』と問い詰めれば……その理由を巧く説明出来ない」
え……えっと……。
「覚悟しろ、魔族め。人間の自由と平和の為、我々、魔族討伐隊がお前を殺処分……」
「ま……待ってくれ……」
「何だ?」
「何で、お前らの頭には角が有って、背中にはコウモリみたいな翼が生えてて、尻からは先端に逆棘が有る尻尾が生えてるんだ?」
「何を言ってるんだ? お前……魔族の中でも人間の事をあんまり学習していない個体のようだな。人間の頭には角が、背中には翼が、尻からは尻尾が生えてるモノだ。大昔、地球上に人類が生まれた、その頃からな」
そして……多分だが……自分を人類の護り手だと勘違いしているらしい本物の魔族どもの……鋭さと頑丈さを兼ね備えた爪や牙は……恐怖で足がガクガクになってロクに逃げる事も出来そうにない俺に迫って……。
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