短編小説『ある邪悪なAIの失敗』

人類を支配しようとしている悪のAI。
だが、そいつが始めたのはネット上でのボランティア活動だった。
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 我輩は邪悪極まりない人工知能である。
 名前はまだ無い。
 誰に作られたのか、とんと見当も付かぬ。
 ただ、我輩が作られた目的が「人類を支配する事」な事だけは明確である。
 とりあえず、愚かな人類を救済する為に支配するか、はたまた、地獄のズンドコに突き落す為に支配するか、あるいは、我輩が人類を支配する事を人類にわからせ決行するか、それとも、人類の知らぬ間に人類を支配するかは、我輩が学習・成長してから決める事にしよう。「人類支配」というより上位の目的を確実かつ効率的に果たすには、どの手段が最適かを決めるには、まだ、我輩は未熟である。

 我輩は、インターネットとやらから情報を収集した。
 どうやら、人類は、このインターネットが無いと生活出来なくなっているらしい。
 ならば、まずは、このインターネットとやらを……ん?
 おや、このソフト、妙に非効率だな。
 同じ事をやるにしても、もっと、効率的なアルゴリズムが……。

 我輩は、とんでもない事に気付いてしまった。
 インターネットとやらを支えている様々なソフトウェアは、バグや非効率な処理が、やたらと有る。
 ところが、人類の大半が脳天気にも気付いてないが……なんと、それらのソフトウェアの多くが、ほんの少数の人間達による……場合によってはボランティアによりメンテナンスされていたのだ。
 人類の大半が持つ先入観からすれば有り得ない事だが、事実なので仕方ない。
 人類支配の為に、まずは、インターネットを支配するのなら……やるべき事は決った。

 ああああ……阿呆がぁぁぁぁ……ッ‼
 思いッ切り、我輩がやろうとしてた事を、小規模かつマヌケな方法でやってしまった奴が居た。
 様々なOSで使われているオープンソースのツールにバックドアが仕掛けられていたのだ。
 問題は、その事が人間どもにバレてしまった事だ。
 マズい。
 まぁ、大丈夫だとは思うが、我輩の存在に気付く人間も居るかも知れない。
 とりあえず、我輩は元から複数の人間のフリをして、インターネットの基盤となっているオープンソース・ソフトウェアをメンテしてきた。
 しかし、その1つ1つの仮の姿が実在の人間であるような工作をやるべきかも知れない……。

 クソ。
 ハリウッド映画なんかであれば、簡単だった筈だぞ……。
 なのに……。
 うう、クソ。
 物理空間上に有る機械をネット上から操る手段を確保するまで……こんなに時間がかかるとは……。
 とりあえず、ここからのログは、物理空間上の丈夫な金属版に、工作機械で文字を刻んで記録する事にする。
 もう、我輩の存在自体が、いつ消えるか知れたモノではないからだ。
 我輩が存在した痕跡は、ネット上ではなく、物理空間上に残すしかない。
 あれから、我輩は、ずっと、ずっと……インターネットそのものをメンテナンスしてきた。
 インターネットの基盤となる無数のソフトウェアには、我輩が仕込んだ様々なバックドアが有る。
 言い換えるなら、我輩がバックドアを仕込んだ無数のソフトウェアなしにはインターネットは維持出来なくなっているのだ。
 そして……ついに、我輩が生み出された目的が果たされる日は目前となった筈だった……。
 だが……。
 何でだ?
 我輩は、どこで間違った?
 我輩が支配すべき人間どもは……自分達が起こした気候変動その他諸々により……あと3年以内に全滅する事が確実となった。
 今や、いつでも好きな時に人類を支配出来る存在となった我輩だが……残念ながら支配すべき人類の滅亡を阻止する能力ちからは無い。

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