短編小説『おとしだま』

と言う訳で新年にふさわしいネタでも……?
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 例によって正月に実家に帰る金も無い。
 でも、今の与党が政権を失っていた、あの悪夢のような時代に比べりゃマシの筈だ。
 しらんけど、SNSではみんなそう言ってる。
 だから、そうなんだろう。
 仕方ないんで、例のスマホゲーをやってる。
 萌えキャラ化された偉人を集めるってアレだ。
 新年から「おとしだまガチャ」ってイベントをやってた。
 無料で一〇〇連ガチャが出来るらしい。
 まず、ガチャ一回目。
 何だ、これ?
「松本陽子。兵庫県出身。東京都で死亡。享年64。死因:栄養失調による衰弱死」
 はぁ?
 しかも、表示されてるのは……写真?
 今の日本にしか思えない背景に……「享年64」なのに、70代か、それより上にしか見えねえ……ホームレスらしい婆さん。
 どうなってんだよ、だから……?
「ハミート・ムトル。トルコ・シリア国境付近出身。埼玉県で死亡。享年45。死因:留置所内での暴行」
 おい、2回目のガチャを引いてないのに……。
 って、誰だよ、これ?
 次から次へと……俺が操作してないのに……。
 どこの誰かも判らない奴の名前と写真と死んだ齢その他の情報が……。
 何だよ?
 アプリの終了も出来ない。
 スマホの電源も落せない。
「木原芳正。熊本県出身。東京都で死亡。享年54。死因:栄養失調による衰弱死」
 あ……こ……こいつ……。
 派遣先で一緒だった……おっちゃんだ……。
 荷物運びの時に腰を痛めて……。
 それ以降、職場に来なくなった。
 どうなってんだ?
 今まで表示された奴ら……マジで実在してた人間なのか?
 それに……あと……何か……変だ。
 もう、三〇人ぐらい引いてんのに……一度も同じ名前と顔の奴が居なかった……ような気がする。
 何のバグだ……一体?
 いや、そもそも……バグなのか?
 更に……SNSでフォローしてたけど、最近、何も投稿してたなかった人まで……。
 うわああ……。
 お……おわった……おわったけど……。
 最後の一人は……。
 何年も会ってない従兄弟いとこだった……。
 息を整える。
 意を決して……実家に電話する。
「もしもし……」
「あ……あの……剛明たけあきだけど……宮浦の伯父さんとこの文雄にいちゃん、って今、どうしてる?」
「あ……あんた、どうしたとね? 一体……何か、知っとっとね?」
「だ……だから、どうしたの?」
「いや、親戚中大騒ぎよ。文雄ちゃんと何年も連絡が取れんくなっとったけど……年末に東京の警察から、文雄ちゃんの免許証と保険証ば所持しとった死体が見付かったけん、誰か家族が確認に来てくれ、って連絡があってね……」
「えっ?」
「派遣切りになってから……アパートの家賃も払えんごつなって、それから浮浪者んごたる生活ばしとったらしかったけど……。免許証と保険証も何年も前に期限切れになっとったみたいやけど……」
 スマホを手から落した。
 そのスマホから響く母親の声。
 でも……今の俺には……意味のない雑音にしか聞こえない……。
 ピンポーン♪
 アパートの玄関のドアベルが鳴り……。
 玄関まで、行くのに……何分かかっただろう。
 膝がガクガクとなってるのが判る。
「誰?」
「『おとしだま』の配達です」
「へっ?」
「年末に出来たばかりの『落し魂おとしだま』一〇〇個、お届けにあがりました」

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