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3月の読書記録『水車小屋のネネ』

 思わずメモした嬉しい言葉から
本のまま(※ちょっとしたネタばれ注意)

山下さんは本当のことを話している、と聡は思った。その時聡が感じたのは、他人の来し方を耳にすることの気詰まりではなく、本当のことだけを話してくれるとわかっている人と接するときの不思議な気楽さだった。
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聡はあまりにも、自分の弱さを正当化するためだとか、誰かに罪悪感を、抱かせるために口を開く人々の言葉を真に受けながら生きてきた。その人たちの保身に、どこまでも翻弄されながら生きてきた。山下さんの話を聞きながら、聡は
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と続くのだけれど、そもそもピアノで実力があり順調に進んでいた人が挫折となると、ライバルとか自分自身に負けるとか、何となく先を想像しながら読んでしまう。だがここでの聡は意外なところからの落とし穴だった。

『本当のことだけを話してくれている』とわかっている人?
誰かいるかな。あれ?
何人もいる。若しくは、言いにくいんだなとか、柔らかくアサーション的に言ってくれていると、分かる人。 
途中で私も「分かった、分かった」となる。
時には、言いにくいことを何とか伝えようと言葉を紡ぎながら苦労している状況に、二人とも分かって笑い出すこともある。

その辺りの言語文化が同じ人は、実は貴重なんだろうな。聡はその貴重さに気付き、大切にしたいと思ったんだ。

ここでの山下さんは始めは主人公だったのだけれど、章が変わると登場人物が代わるときもあり、脇役が成長し主人公になる面白さ、視点の違いによる物語の厚みもおもしろい。


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