自分のアカペラアレンジを振り返ろう #1 ありがとうの輪

僕は、アカペラをこれまで6年間やってきました。最初はただひたすらボイパをやってただけでしたが、途中からアレンジを行うようになりました。
アレンジした曲は決して多いわけではありませんが、どの曲も自分が費やせる限りの時間をかけてアレンジしてきました。
そこで、これから自分がアレンジした曲を振り返ってみたいと思います!今思えば、自分のアレンジを振り返ることはあまりしてこなかったのですが、これからなかなかアレンジする時間もなくなってくると思うので、この機会に振り返ろうと思います。
といいましても、この記事で全曲振り返ることはできません。もしそれをやろうとすると、かなりのボリュームになってしまい、読みづらいはずです。そこで、この記事では自分が初期にアレンジを手掛けた楽曲である、絢香さんの「ありがとうの輪」に触れていきます。
原曲はサブスク、Youtube等で聞いてみてくださいね。

それでは、まずこれで曲の全体像をつかみましょう!

それでは、曲の最初から楽譜を見ていきたいのですが、その前に「シラブル」というものについて説明します。「シラブル」とは、簡単に言えばコーラスにおける歌詞のようなものです。例えば「hoo」と書いてあったら「フー」と歌い、「fon」と書いてあったら「フォン」と歌い、「ha」と書いてあったら「ha」と歌います。

ありがとうの輪1

これは前奏ですね。前奏のアレンジで注意したのはうるさくしないことです。例えば、この楽譜ではコーラス1のみピアノの旋律を歌っていますが、この旋律をコーラス2,3も歌ったらどうなるでしょうか。想像してみると少しうるさい感じがしますね。実際楽譜作成ソフト上で音を鳴らすと、うるさく聞こえます。そのため、コーラス2と3はベースと同じくロングトーンとしています。こうすることで、うるさく聞こえなくすることができます。ボイパ(譜面でドラムセットと書かれたパート)はここでは入ってきません。原曲にもここにボイパはないので、原曲に忠実にアレンジしています。ボイパはいつでも打っていればいいというものではありません。打たないでいることも重要なんです。
次、見ていきましょう

ありがとうの輪2

ここからリード、ボイパが入ってきます。リード、ベース、ボイパはここからずっと原曲に忠実にしてるので、特にコメントはないですが、ベース、ボイパは周期性が大事ですね。この2つのパートは楽曲のリズムの礎となるパートです。なので、1小節ごとにリズムが変わって周期性がないというのはダメなんです。この楽譜を見ると、ベースとボイパに周期性があることがわかると思います。
コーラスに関しては、ベースと同じくロングトーンにするというパターンも考えられますが、それだと前奏と変わらず面白くないので、2拍目、4拍目に音を入れています。ただ、12小節目の終わりと16小節目の終わりは少し変わっていますね。コーラス3,2,1が同時に音を鳴らさずに、低い音から順に積み重ねるように歌っています。これを「ベルトーン」といいまして、アカペラのアレンジではよく使われる手法です。非常にきれいな響きになるので、個人的に好きで、「ありがとうの輪」以降のアレンジでも多用しています。
次見ていきましょう。

ありがとうの輪3

ここからベースのリズムが変わります。8分音符で刻む形ですね。サビにむけて緊張感が高まっていく雰囲気が出ていると思います。ボイパのリズムは21小節まで変わりませんが、22小節目からベースと同期して8分を刻む形になります。
ここで、少し細かい点を解説しますと、21小節目までは、ボイパの楽譜で5線譜の中心付近に×みたいなのが書かれていて、22小節目からそれが普通の8分音符に変わっていますね。この×みたいなのは、リムショットを打つことを意味しています。リムショットというのは、ドラムの縁をたたくことで出る音でして、「カッ」というちょっと高めの音が出ます。普通の音符が5線譜の中心にある場合、それは、スネアドラムを打つことを意味しています。ボイパ譜はかなり特殊ですが、1回読めるようになれば後は簡単です。ちなみに、22小節目の最初にある×に横線がついているやつは、シンバルを打つことを意味しています。シンバルは、小節の最初にアクセントとして打つことが多いですね。実際、ここでもサビの最初にこの音を入れることがアクセントになっています。5線譜の上に×がついているのは、ハイハットを意味しています。ハイハットは舌打ちを打つようにすれば再現できる音で、ボイパの音の中では一番最初に習得できる音です。ですが、この音がしっかり出せないとリズムが不安定になるし、今いちパッとしないので、非常に重要な音です。
ボイパ譜の解説が長くなってしまいました。次にコーラス見てみましょう。ここでは、先ほどとは変わってベルトーンを多用しています。ベルトーンの後にロングトーンの繰り返しです。さっきベルトーン使って結構きれいに響いたもんだから、味を占めてしまったんでしょうね。20小節目では、リードの「このうた」という歌詞に合わせて、コーラスも一緒に歌っています。このように、コーラスがリードと同じ歌詞を歌うことを「字ハモ」といいます。これもアカペラアレンジでは典型的な手法です。「このうた」というところのリズムは、付点8分音符の連続で強調しているように聞こえたので、さらに強調してやろうという思いで字ハモにしました。字ハモは歌詞を強調できるので、強調したい歌詞がある場合積極的に使うべきだと僕は思っています。
次に23小節目にいきますと、コーラスが「伝わる」という歌詞を歌っていますが、これはさきほどの「このうた」と違って、リードの「伝わる」とはずらして歌っています。この字ハモをずらすパターンも、アレンジではよく使われます。また、リズムも若干変えて歌っています。こうすることで、雰囲気を変えることができます。ここでは、「伝わるかな」という疑問形の歌詞の次に「伝わる」と入れることで、「思いは伝わるよ」というメッセージも発信できているのではないでしょうか(当時はそんなこと一切考えていなかったと思うのですが、今見るとちょっとそういったメッセージを感じてしまったりします。考えすぎですかね。)
それでは、次見ていきましょう。

ありがとうの輪4

ここでも「ひとつで」の歌詞のところで、先ほどの「伝わる」と同様のアレンジをしています。リズムパターンも全く一緒です。今思えばリズムパターンを少し変えてもよかったかもしれませんね。
30小節目からはリードが2分音符の繰り返しで語りかけてくるような形になってるので、コーラスも字ハモで語り掛けるように歌います。

ありがとうの輪5

コーラスは、「おもいあって思いやって」の部分は、「思いあって」はリードと同じリズム、「思いやって」はリードとずらして歌っています。別にずっとリードと同じリズムでもよかったのですが、思いあうと思いやるはニュアンスが少し異なるので、リズムも少し変えました。
38小節目からはどうしようかすごく迷いました。最初はコーラスは8分音符をずっと繰り返していたと思うのですが、何となくはまらなかったし、友達にも直したほうがいいといわれ、このような形になりました。コーラス1と2・3のかけあいの形になっていて、8分音符をただ繰り返しているより、ずっと洗練されたと思います。ちなみにここのシラブル「tm」(トゥンと発音)していますが、練習する過程で「fon」に変えました。シラブルは実際歌っていくうちに結構変わっていったりします。

ありがとうの輪7

さっきのかけあいゾーンが終わると、ロングトーンゾーンになります。ここは、リードが、歌詞はないのですがメロディーラインを歌ってるので、コーラスはそれを邪魔しない形にしています。48小節目から、リードとベースだけにすることで静かな感じを出しています。最初の方で、ボイパは打たないことも重要と書きましたが、コーラスもあえて入れないという選択肢はあります。

ありがとうの輪6

52小節目からコーラスが入ります。ボイパはまだ入りません。ラスサビの前で、ラスサビで一気に盛り上げる感じを出したいので、とことん静かに行きます。
56小節目から転調なのですが、ここのアレンジは結構迷いました。リードが入るまでに空白があるので、ここをどうしようかと思ったんです。コーラスを入れようとしたのですが、今いちハマらず、結局ボイパのフィルイン(楽曲のつなぎ目の1~2小節で即興的な演奏を入れ、変化をつけること)を入れました。フィルインとしては典型的なリズムかなと思います。

ありがとうの輪9

ありがとうの輪10 (2)

転調後は、転調前のサビをそのまま転調させただけです。せっかく転調するんだから、転調前と変えたアレンジを今ならすると思いますが、当時はそういう考えはなかったんでしょう。

よし、これで楽譜全体を見ることができましたね!久々にこんな長い文章書きました。疲れた...

この楽曲は、4年次の学外ライブのオーディションに出して通った曲なので、非常に思い出深い一曲です。バンドの代表曲にもなったので、作ってよかったと思っています。
実は「ありがとうの輪」は、アレンジを始めるまで一回も聞いたことがありませんでした。アレンジしてほしいという依頼があって初めて曲を聴き、優しくて素敵な曲だなと率直に思いました。
楽譜のアレンジに携わると、新しい曲との出会いがあります。また、アレンジした楽曲が実際に歌われるときの感動は大きいです。
アレンジには膨大な時間がかかります。実際僕はこの楽譜に10時間以上かけました。ですが、それ以上に得られるものも大きいと思います。だから、この1曲だけに終わらず、細々とはしていますが、アレンジを今まで続けることができています。

この記事は#1ということで、これからも他のアレンジした楽曲を紹介していく予定です。

長くなってしまいましたが、見ていただきありがとうございました!

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