交渉と感情|論理はココロを動かせない!?
〈交渉〉というスキルは、私が知るかぎりもっとも身につけるのが難しいスキルです。私が個人的に苦手という事情もありますが、「なぜ交渉が難しいか」は、できないなりに説明できます(説明だけなら!)。
今日は、考察というよりは体験談に近いかもしれません。
●個人的な話ですが…
(猫設定はまたもお休みで笑、)私は、仕事においてしばしば交渉をします。職能として本来なら求められていないのですが、実情は、交渉スキルが不可欠です。少なくともチームの誰かがやらねばなりません。
私たちが交渉する相手は、公的機関全般です。要するに、公務員です。
私たちと公的機関の関係は、例えるならば「弁護士と検事」みたいなものです。弁護士と検事のように犯罪を扱うわけではありませんが、同じ「法律」の解釈について、逆の立場から争う──という点が似ています。
「法律」というのは、普通の方はあまり目を通さないかもしれませんし、目を通してもよっぽど読み込まないとわからないと思うのですが、隙間がとても多いものです。その隙間の解釈について争います。隙間を無くす努力は日々為されていますが(=法改正)、実情に追いつく日はきません。だからいつまでも交渉が絶えないのです。
「隙間」とはつまり「定義されていない部分」のことです。定義されていないからこそ、Aと解釈することもできるし、Bと解釈することもできる。そういう議論を常にしています(法の読み込みが比較的好きな私でも、うんざりします笑)。
●論理<感情?
いま交渉している相手も例によってある公的機関の人なのですが、その人は、一見して論理的なように見えて実は、とても感情的な人だったのです。
(これは私感ですが、男性でその職業に長く就いている人の場合、感情的なタイプかどうかがカモフラージュされていてわかりにくいことが多く、交渉に苦労します。特に、30代後半〜40代前半の人が最も交渉しづらいです。それより若い場合はスタンスがそのまま態度に現れているし、それより年上の人は決定権が強いため迷いが少ない傾向にあります)
私たちは2〜3回会った結果、彼が感情的でブレやすい人であり、かつ、自分の立場上の決断に一抹の不安があるだけだ──ということが、わかってきました。
でも私は最終的に彼を丸めこむための力になれず、結局、上司に丸めこんでもらいました。笑
その原因の一つに、私の思考回路が論理的すぎて融通がきかないというものがありました。
先ほど書いたように、交渉相手は感情的な人であり、かつ、「不安」を抱えていました。彼はただ法の隙間が怖かっただけで、隙間を埋めるきっかけがほしかっただけなのです。大きな組織(公的機関)の責任を背負う人は、立場上、不安を感じてしまうと厳しくなるものです(「疑わしきは被告人の利益に」の逆バージョンかな)。
最終的に彼を丸めこんだ上司の説得は、私からすれば「うーん、何言ってるかよくわからない……」というものでした。論理的に法律を読み込んだ場合には、言っていることがおかしいのです。でも彼は上司の(非論理的だけど力強い)言葉に安心できたので、結果としてうまくいきました。
私は、論理的に正しいかどうかが気になるあまり、「交渉に不利でも論理的に正しいこと」を言ってしまう。という悪い癖が抜けません。
●交渉では、論理を感情でラッピングせねばならない
今回はたまたまうまくいってホッと一安心でしたが、たぶん超一級の交渉というのは「正しい論理を感情でラッピングする」ものなんだろうな。と、私はあらためて学びました。
こちらが投げたボールを相手がどう打ち返すかは、事前にシミュレーションしても読めないものです。「そうきたかー!」という返しがほとんどです。そんな時に、瞬時に対応するためには、すばやい論理的な思考が必要です。相手の誤りや隙を一瞬で理解せねばならない。
でも、誤りや隙をそのまま突くと、相手はなんだか嫌な気持ちになってしまいます。なんだか嫌な気持ちになってしまった人は、まず良い返事をしません。
本当はビジネスの場でそんな風に感情でコロコロ態度を変えるべきではないのですが、人間ってそんなものです(自分もそうですが)。
つまり、感情的には相手に寄り添いながら、同時に、論理的に誘導しなければいけないのです。言い換えれば、論理的に思考をすばやくまとめながら、同時に、相手の感情を動かさねばならないのです。
●相手の感情にタッチする
これはユングのタイプ論の場合ですが、「感情」を検討のベースとして上手に使える人と、「(論理的)思考」を検討のベースとして上手に使える人は、逆のベクトルに位置していることになります(下の参考記事)。
だから、難しい。
論理だけでココロが動けば、苦労はしない。
感情だけで説得できれば、苦労はしない。
超一級の交渉術をもつ人に、弟子入りしてみたい気分です。笑
参考記事
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