プロレス超人列伝第5回「アルティメットウォリアー」
プロレスの世界にはたまに神がいるのではないか、と本気で思ってしまうほどの奇跡がおきることがある。
今回紹介する選手はまさにそんな奇跡ともある意味悲劇ともいえる人生を歩んだ一人の男が主人公である。
男の名前はアルティメットウォリアー、日本語で書けば「究極の戦士」であるが日本では「超合金戦士」という異名が有名であった。
その名前にふさわしく、230㎏以上あったアンドレザジャイアントを持ち上げるパワーや、それらの強さ設定に対して説得力のある筋肉など・・・彼に限っては「究極の戦士」や「超合金戦士」という異名は決してバカにできないものは間違いなくあった。
独自のフェイスペイントとその異様な風貌、そして宇宙意志と通じて悪を倒すと宣言するマイクアピールとキャラクター性・・・まるで「キン肉マン」やMARVELのスーパーヒーローそのものなのだ。
1985年、元々ボディビルダーであったウォリアーはビルダーの世界を辞めプロレスラーの世界の仲間入りを果たした。
その後、彼のパワーと筋肉ボディに目を付けたビンス・マクマホンの手により1987年にはWWFに入団を果たすことになった。
そして、ハルク・ホーガンの後継者として白羽の矢が立ちすぐさま人気者となっていったのであった。
まるで流星のごとくプロレスの世界に降り立った宇宙の戦士ウォリアーはまたたくまに強敵を打ち倒し、1990年のレッスルマニアではハルク・ホーガンを倒しWWF王座とインターコンチネンタル王座の二冠王として君臨することになった。
翌1991年、鬼軍曹ことサージェントスローターにまけてベルトを奪われたウォリアーだったがそれでもまだWWFの主力選手として多い人気を集めていった。
やがて、パパ・シャンゴやジェイク・ロバーツ、アンダーテイカーといった怪奇系の宿敵たちと激闘を繰り広げ90年代初期のWWFを色濃く鮮やかなものにしていったのだった。
ビンスの彼に賭けた期待はこの時点まではかなり大きいものがあった。
栄光をひた走っていたウォリアーであったが、彼にも暗い部分があったのだ。
まず性格に難が多かった。
彼には友人は決して多くなかった。
彼はどうやらリングの上で演じていた「超合金戦士」というキャラクターを自身そのものと思い込んでる節があった。
この性格のせいで当時選手たちのボスであったアンドレ・ザ・ジャイアントも怒らせてしまい、試合の最中に〆られるということがあった。
また、自身と比べても比較的細身のリック・ルードにさえガチの喧嘩で負けてしまうことがあった。
彼はシナリオ内外に敵が多すぎた。
次にステロイド使用について問題であった。
もはや筋肉パワーレスラーがウケた時代は80年代に終わってしまっていた。
彼が活躍した90年代にはWWFは大きくなりすぎていた。
となると、国もWWFのステロイドの使用について注目するようになっていった。
その時真っ先に狙われたのはウォリアーであった、ビンスから薬物の使用を再三にわたり止められていたが、元もボディビルダーであったウォリアーにはこれが理解できなかったのかもしれない。
ビンスとウォリアーの間に軋轢が生まれていった。
これのせいで、ウォリアーは幾度も解雇と再雇用を繰り返していくことになっていった
90年代前半を過ぎるとウォリアーはもはや、ビンスにとってお荷物になっていったのだ。
この時期に流行したアクション映画などをみればわかるが、ジョージ・クルーニーやキアヌ・リーブス、ウィリアム・ボールドウィンのような細身でスタイリッシュでハンサムなスターがアクションをするようになっていった。
筋肉アクションスターは銀幕の世界でも消えていったようにプロレスの世界でもいなくなっていった。
これは一つの時代の流れでもあったのだ。
やがて、90年代半ばになるとアンダーテイカーやDジェネレーションX、ブレット・ハートといった新世代のスターにウォリアーは追いやられて行くようになった。
そして、1996年彼はとうとうWWFを去っていった。
その後、1998年にはホーガンが在籍したWCWに向かっていったが時はすでに遅かった。
彼はプロレスラーとしての旬は過ぎていたのだ。
なんだかんだで長い間続いたWWFとは違い、WCWでは1年程度で在席するだけで終わってしまった。
その後、WWFは急成長しWWEになったがその中でもウォリアーはほとんど黒歴史として扱われていた。
ブレット・ハートでさえたびたび顔を出していたり、ゲームの世界では頻繁に出てきていたのにウォリアーはほとんど試合にすら出てこなくなっていた。
やがて、00年代が過ぎて彼は完全に過去の人になっていた。
しかし、2014年ウォリアーはWWEに姿を再び現した。
彼の栄光の歴史を捨てることができなかったWWEはとうとう、WWE殿堂入りに彼を入れることになった。
2014年当時、WWEは混沌としていた
ベビーフェイスにブーイングが飛び、ヒールに声援が飛ぶ。
混沌とした客席の中ではバレーボールを投げたりと狂乱に酔いしれるものがいた。
そんな中、多くのファンが決まって声援を飛ばすのはかつての選手たちだけであった…。
多くのファンがどよめく中、宇宙の戦士は再び戻ってきたのだ。
最初はマスクを外し、顔を晒した状態で挨拶をしようとしたウォリアー。
だが、こんなやり方は違う。ファンがみたいのは超合金戦士。
最強のアルティメットウォリアーだ。
彼は小さく言った。
「違うな、これは俺のやり方じゃあない。」
彼はボロボロになったウォリアーのアイマスクをつけると唸り声をあげた。
ファンは総立ちで大喜び、20年近くの時を破りそこにウォリアーが戻ってきたのだ。
そしてこういった。
『WWEのスーパースターは誰一人として己が力だけで伝説となったわけではないのだ。人は誰しも、心臓が最後の鼓動を打ち鳴らし、肺が呼吸という役目を終える日を迎える。』
『そして、もし成し遂げたことが人々を躍動し、興奮させ、血潮を熱くさせたのならば、魂は不滅のものとなる。』
『それは諸君の記憶により可能になるのだ。君達一人ひとりがアルティメット・ウォリアーという伝説を生み出したのだ。』
『そして今もバックステージにはそんな伝説になるであろう選手がたくさんいる。ウォリアーの魂を持った者もいるだろう。君達はまた彼らに同じことをするのだ。彼らが情熱を持ち努力をして生きたかを見極めるのは君達なのだ。君達が彼らの物語の語り手となり、彼らを伝説とするのだ。』
『私はアルティメット・ウォリアーである。そして君達はアルティメット・ウォリアーのファンだ。アルティメット・ウォリアーの魂は永遠に走り続けるのだ。』
ファンは大熱狂、ウォリアー自身も大いに喜びに満ちていた。
この回は自分の中でも非常に記憶に残っている。
しかし、この翌日にウォリアーは54歳という若さでこの世を去ってしまったのだ。
もしかしたら彼は自分の死期がわかってしまったのかもしれない。
最後の最後に自分を支えてくれたファンたちの前に現れ去っていったのだ。
プロレスの世界に流星のごとく現れ、そして去っていったウォリアー。
彼は本当に宇宙意志が選んだ戦士だったのかもしれない。
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