きみの世界に、青が鳴る(初回読後感想)

世間的に評価されるなにかに何一つ合致しているとは思えません。
世界観、キャラクター造形、リアリティ、テンポ、恋愛描写……。
私の大好きな、明度の高い美しい世界です。
でも私はその世界が美しさにごまかされた死体の山のようなザラリとしたものと感じました。
ここまで書いていますが一つもけなしてません。素晴らしい作品でした。
その素晴らしさを評価し、他人に伝える指標が私の中に無いだけです。

端的に言えば、取り繕ってハッピーエンドを装っていたサクラダリセットと異なり、はっきりとメリバです。
最初に読んだときには何一つ理解できなくて、でもなんというか宗教画でも見たあとのような晴れ晴れとした美しさに心打たれて、それだけでこの作品を買ってよかったのだと思いました。

しかしレビューを書くためにまとめていたところで気づきました。
階段島はメリバです。本人だけが幸せ。世界には何も影響を与えず、対外的にはなんの幸せもない。そんなの最初の最初からそう書いてありました。

自らの信念に殉じていること、信じることは美しい。
何も捨てずに、大人になりたい、と七草は今回繰り返し書いていましたが、それは少年の理想です。多分それは大人のすることじゃない。
何も捨てずに大人になりたいと思い、それに殉じて生きた七草は、とても美しい。
多分本人は幸せだと思っているんでしょう。

でも客観的には七草は結局自分の信仰のために何もかも捨てて、何も幸せじゃなさそうです。

河野裕さんの作品は大体キャラクターは信念に殉じて生きています。
なので私には美しく感じ、だからなんにもリアリティがなくて、客観的には誰も幸せそうじゃない。
ただ透明な世界の中で光がキラキラしていてそのせいで美しく見えているだけです。

私はサクラダリセットという作品が今までずっとハッピーエンドを迎えたのだとごまかされていました。
今回レビューを書いていて初めてごまかされていたことに気づきました。

客観的に見れば、ケイはあの後幸せになるはずが無い。自分の信念を忘れることができず、折れることができず、諦めることができないのに自分の限界だけが見えていくのは辛い。
ケイは幸せです。七草と同じです。
でも階段島はその偽りのハッピーエンドすらも捨て去って、はっきりと読者にメリバを突きつけました。
はっきりと突きつけられたのに、あまりの美しさに目がくらんで私にはそれすらわかりませんでした。

とりあえず初回読後の感想はこんな感じです。
多分何度も読み返すでしょうが、初回に何もわからなかったのにぼんやりとこれでよかったのだと思ったのが、結局の所この作品の全部だったのではないかと思います。

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