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貴種

スノッブ(snob)効果は、簡単に手に入らないもの、他人と違うものほど欲しい、という差異化願望のこと。スノッブは、上品ぶったり、教養ありげに振舞う鼻持ちならない奴。  

貴種(きしゅ)は、地位や名声とは関係なく、高貴な家柄に属している人のこと。オイラのような一般人が、どう逆立ちしても手に入れられない称号が貴種

ヨーロッパの人たちにとってローマ帝国は、心の故郷。こだわりは、生半可なものではありません。フランス人に言わせりゃ、ゲルマニア(今のドイツ、ポーランド、チェコなど)なんて、ローマ帝国の属州じゃなかった。それに比べて、ガリア(今のフランスやベルギー、スイスなど)は、ずっとローマ帝国の由緒正しい属州だったってね。ちなみに、ケルト人の一派(ガリア人)が住むガリアに対して、ライン川の東に隣接するゲルマニアはゲルマン人の居住地。

ゲルマン人の反乱によって西のローマ皇帝位は廃位となりましたが、その後もローマ帝国は1,000年続きます。ビザンティウム(コンスタンティノープル ⇒ イスタンブール)に首都が置かれたので、後世の人がビザンツ帝国と呼んだりもしますが、正式名称はあくまでもローマ帝国。そして、皇帝はただ1人。

西暦800年、カール大帝がローマ帝国の帝冠を授かったからって、帝権がアルプスを越えて北に移動した訳じゃありませんからね。そもそも、286年に、皇帝ディオクレティアヌスが帝国を安定させるために、東のギリシャ、西のラテンの2つの宮廷を設置したのとは、意味が違いますから。

第一、蛮族と呼ばれ、ローマ帝国を散々な目に遭わせたゲルマン人に、ローマ皇帝の位を継ぐ正統性など、あったもんじゃないでしょう。それに、ペテロの後継者とされる教皇は宗教的指導者なんですから、皇帝を決める権限を持ってるってこと自体、アン・ビリーバボー。

でも、その理不尽さを貫き通すのが、時の教皇レオ3世。なにしろ、貧民階級出身のレオ3世、教皇になるために、暗殺でもなんでもやっちゃう人品骨柄いやしい人物でしたからね。

レオ3世と対照的なのが、6世紀末に活躍した貴族階級生まれの教皇グレゴリウス1世。彼が大教皇の尊称を持つのは、ゲルマン人のカトリック改宗に成功し、ローマ司教に過ぎなかった教皇の権威を高めたから。

君主制は人間の生きる知恵。狩猟生活から、食糧生産と家畜を飼う定住生活になると、集落ができます。でも、集落や年によっては作物が不出来のことも。すると、集落同志で食料の奪い合いが起こります。それを調停するために国家が必要となりました。そこで、実力者が集まって、代表を決め、その人に運営を任せることに。代替わりごとに選挙をしますが、あくまでも、それは形式的なもの。実際は世襲にした方が無用な争いを避けられていいってことに。そして、一族の世襲で占められる君主国家に落ち着いたって訳。

力があればあったで、力のある王様の保護を求めて領土が増えるでしょうし、国境を接する国と争うこともあります。領土が増えれば、土着性や血縁は希薄になり、新たな紛争の種となるから、困りもの。さらに、ゲルマン人のフランク族には、長子だけでなく、子どもたちに分割相続する慣習があるから、王朝がコロコロ変わる。つまり、王位の簒奪(さんだつ)が日常茶飯事となっていたのです。

王位の簒奪を防ぐためには血統の連続性が有用です。なにしろ、血統は簒奪や変乱の抑止力であり、秩序そのものなのですから。その証拠に、英語のキングやドイツ語のケーニッヒは、古ゲルマン語の kuni (血族・血縁)に由来してるじゃないですか。

「会議は踊る」で有名なウィーン会議(1814年)では、正統主義(レジティミズム)が採択されました。目的は言うまでもなく、王室をフランス革命以前の状態に戻し、秩序を回復させること。王位の簒奪による混乱はもう懲り懲りだってことでね。

福沢諭吉は「わが国の皇統は国体とともに連綿として外国に比類なし」と言いました。ベン=アミー・シロニーは「戦前の日本で天皇の王朝の非常な古さが国家主義的に悪用されたことに強く反発する戦後の歴史家は、日本における皇室制度と皇室の異例な長命さという意義を軽んじてきた。しかし、そうした彼らでも認めざるをえないのは、皇位を占めている血縁集団世界最古の在位の君主家だということである」と指摘。

君主制を例に「血統が大事」って言われても、にわかには信じがたいですよね。そこで、今度は科学的な視点から検討してみましょう。そう、遺伝情報の観点からね。

遺伝情報のうち、性別の決定に関わる性染色体はX型とY型の2種類。受精卵が男性を作る遺伝子を含むY染色体を持つと男性になります。だから、Y染色体は「父から息子へ」引き継がれます。

細胞体の中にあるミトコンドリアは、別の細菌であったものが細胞内に入り込んだものなので、独自のDNA(ミトコンドリアDNA = mtDNA)を持っています。上に貼り付けた『有性生殖』で紹介したように、mtDNA の特徴はミトコンドリアのタンパク質の情報を持つことと母性遺伝すること。つまり、mtDNA は「母から娘にも息子にも」伝わるのです。

父系で遺伝する Y染色体は「父から息子へ」ですよ。そして、母系で遺伝する mtDNA は「母から娘にも息子にも」。しっかり頭に叩き込んでおいてくださいね。

では、10世紀初頭のイタリアにおける相続問題。女系でカロリング家と血縁関係を持つ フリウーリ公 ベレンガーリオ1世(以下、ベレンガーリオ)にお出まし願います。

イタリア王になりたかったベレンガーリオですが、正統な後継者の証であるピピン2世カール・マルテルからカール大帝に続くカロリング家の Y染色体を持ちません。それなのに、母の実家であるカロリング家の女系男子ということで、辺境伯の分際でイタリア王に手をあげたベレンガーリオ

確かに、母のギーゼラは、ルイ敬虔王とヴェルフ家出身のユーディトとの間に生まれたまごうことなきカロリング家のお姫様。なおかつ、西フランク王である「しゃしゃり出る」シャルル2世と、母のギーゼラは、同母の兄弟。もちろん、祖父はあのカール大帝ですし、祖母はヒルデガルト

では、ここで、色分けして、女系mtDNA の伝わり方をご覧にいれましょう。

で示したヒルデガルトmtDNAルイ敬虔王で途切れてしまっています。そして、シャルル2世とギーゼラが受け継いだのは、で示したユーディトmtDNA。いわば、ヴェルフ家からやってきたmtDNA

ここで、叔父のシャルル2世が持っているで表示された mtDNAを、ベレンガーリオも持っているのですから、王位を継ぐのに何の問題があろうか、と思う方も出てくるはずです。

ところが、男系のシャルル2世が、祖父のカール大帝や父ルイ敬虔王Y染色体を引き継いでいるのに対して、ベレンガーリオは曽祖父や祖父のそれを持っていないのです。さらに、曾祖母であるヒルデガルトカール大帝の妻)ので表示される mtDNAすら持っていない。つまり、カロリング家に関する遺伝情報は何ひとつ持っていないのです。

くどいようですが、ベレンガーリオが持っているのは、ヴェルフ家から輿入れした祖母ユーディトから母ギーゼラが受け継いだmtDNA(赤)と、父エーバーハルトから引き継いだ Y染色体でしかないのです。

いかがでした。「Y染色体の継承なんてナンセンス」という方が根拠とする母親からの mtDNAでは、希少性を論じることなど、できないんです。 

ベレンガーリオのような例は、ヨーロッパでは枚挙にいとまがありません。でも、振り返ってみれば、ヨーロッパの人が愛してやまないローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスも、妻の連れ子のティベリウスを、娘の婿にした上で帝位を引き継がせていました。その後も、養子だけじゃなくて、実力者が武力闘争やクーデターで皇帝となることも。

これに対して、わが国の皇室は万世一系であり、女性天皇はいても、女系天皇は存在しません。126代の内、116代は全て初代 神武天皇由来の Y染色体を持つ男系男子ですし、女性天皇 10代 8人はすべて男系女子。それも、女性天皇は寡婦か未婚ですから、わが国の皇室は神武天皇以外のY染色体を持ち込んでいない「世界に一つだけの貴種」なんです。

どうです、ベン=アミー・シロニーが皇室の異例な長命さ、そして、皇位を占めている血縁集団世界最古の在位の君主家だということを、戦後の歴史家はわかっていない、といった意味、おわかり頂けました?

天皇は、女性でも男性でも構わないのです。貴種であるために重要なのは、皇族の父親と一般女性の間に生まれた男系天皇であること。男系天皇こそが、神武天皇Y染色体を受け継いでいる貴種なのですから。

ヨーロッパでも日本でも、女系になってしまうと、今まで引き継いできたY染色体は消滅します。

仮に、愛子さまが即位されれば、第126第 令和天皇のお子様ですから男系の女性天皇となります。問題はこの先です。もし、女系天皇を認めるようなルールに変更されたらどうなるかについて考えてみまょう。

愛子さまが一般男性と結婚すると、生まれた子は性別にかかわらず、女系天皇です。そして、愛子さまともども、曾祖母である美智子さまの mtDNA を持つことに。たとえ、男子が天皇になったとしても、それは令和天皇、ひいては神武天皇Y染色体ではありません。

最悪、日本のことが嫌いな国の人と、女性天皇が結婚した場合、どうなってしまうのでしょう。皇室が乗っ取られたとしたら、わが国の伝統やアイデンティティはどうなりますか?

この危機を予想させる事態は、現在進行形です!!

これまで民間女性を迎えて皇族にしてきた例から言えば、男系継承が女性を排除するものでないことは明白です。むしろ、民間男性を皇族にしてこなかったのですから、男性を排除するための仕組みそのものじゃないですか。

人間は悲しいかな、限定性希少性に価値を求める生き物なのです。

どんなにスノッブを気取ってみたところで、あなたもに行けば、手を合わせているに違いありません。骨壺の上に乗っかっているただの石に向かってね。

謝辞:もともと、記事の構想はあったのですが、まとめるのが大変で、いつになるか自分でもわかりませんでした。そこに、かなこさんがお声掛けをしてくれちゃったから、さあ大変(笑)。

躊躇しているところに、愛加さんから、背中を押されたものですから、引くに引けなくなっちゃいました(笑)。

てな訳で、みこちゃんの手の上で踊らされることになったって訳(笑)。

改めて、かなこさん、愛加さん、みこちゃんに深謝します。そして、お手柔らかに(笑)。

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