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言葉狩り(2)

英国の作家 ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説1984年』とTwitterのコミュニティノートを嫌悪する人たちとを重ねてみた時、どんな景色が見えるでしょう。
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かつての専制国家や全体主義国家は様々なことを禁止し、人々に理想を押し付けようと、「汝、すべし」と命じた。現実の社会だって、非理性や感情が支配するディストピアの域を出ていない。だから、お気持ち表明する私たちと一緒に、権力者を一方的に非難して、対案も持たないままユートピア作りに邁進しよう(笑)。

ユートピア


 ユートピアは「平等自由で、貧困も紛争もない理想的な社会」だ。ユートピアに必要な政党は、ビッグ・ブラザーによって率いられる社会党だけである。ビッグ・ブラザーは国民が敬愛すべき対象だ。彼の肖像画は町中の到る所に張られており、「ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている」という言葉が添えられている。
忘却や歴史の改竄のせいで、誰がそれを唱えたかは明らかではないのだが、党のイデオロギーは「少数独裁制集産主義」を志向するためのもの。もちろん、それは過渡的なものではなく、「共産主義の原理をすべて否定しておきながら」永遠に社会党を維持し続けるためにある。 

https://note.com/gashin_syoutan/n/n05429e449d38

人民の敵


 中層階級が下層階級を味方につけて社会党の一党独裁を終わらせようとする事態を(永久に)防ぐために、国民は党の監視下に置かれる。表面上、自由と平等を制限され、人としての尊厳や人間性が否定されるように見えるのは、その陰謀の背後に「人民の敵=「お気持ち表明でなく、正論を言う人」がいるからだ。
だから、国民は毎日、テレスクリーンを通しての「二分間憎悪」で人民の敵に対する憎しみを駆り立てられるよう教育される。さらに、国民には「現実認識を自己規制により操作された状態」すなわち、「1人の人間が矛盾した2つの信念を同時に持ち、同時に受け入れることができる」という思考能力が求められる。

2足す2は5である(2+2=5(Two plus two makes five)


 党が精神や思考、個人の経験や客観的事実まで支配するということに嫌悪を感じたり、「自由とは、2足す2は4だと言えること。それが認められるなら、他のこともすべて認められる」と考えてはいけない。もし、そのような状態になったと党が判断した時点で、愛情省二重思考ができるよう再教育され、拷問を受け、最終的に「自由意思」で屈服することになるか、さもなくば党に逆らったことを心から後悔しながら処刑されることになるだろう。

犯罪中止


 党が過去を改竄し続けているのは、党員が過去と現在を比べることを防ぐためであり、そして何よりも党の言うことが現実よりも正しいことを保証するためである。なぜなら、「過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する」からだ。党の誤謬(ごびゅう)を見抜かないのが、「犯罪中止」というものであり、党員も国民も党の主張や党の作った記録を鵜呑みにしなければならない。
万一、誤謬に気づいて一時的に認知的不協和が起こったとしても、「二重思考」を身につけていれば、自分の記憶や精神を改変し、「党の主張は、正しい誤謬だ」と認識できるようになるから安心していてよい。

要するに、犯罪中止二重思考を身に付けさえすれば、「2足す2は5である、もしくは3にも4にもなりうる」という党の主張に違和感を感じなくなるということ。

ニュースピーク


 
bad を表すのに、good に否定の接頭語 un- をつけた ungood としたり、イデオロギーを含んだ合成語は、思考の単純化と思想犯罪の予防のために goodthink(正統性)、crimethink(思想犯罪)などのように簡素化する新語法のことをニュースピークと呼ぶ。語彙の量を少なくし、政治的・思想的な意味を持たないようにしておけば、反政府的な思想を書き表したり、考えられなくなるので、平和な社会になる。
意味は単純なものに限定され、文学や政治談議に使用しにくいものだけが残され、ニュースピーク辞典が改定されるたびに語彙は減る。だが、間違ってもこれを言葉狩りと表現してはいけない(笑)。なぜなら、改訂のたびに過去の文学作品は党にとって都合のいいように書き換えられ、原形を失うことがユートピアには欠かせないからだ。
free も「free from-(〜がない)」という使い方以外ができないので、自由や平等を謳う政治宣言は、ニュースピークに翻訳できず、「政治的自由」や「個人的自由」は意味をなさなくなる。
また、暗号名やコードネームが多用され、支配者は「ビッグ・ブラザー」で、政権第2位は「ブラザー・ナンバー・ツー」と呼ばれる。

誰もが、ニュースピーク二重思考を通じて「汝、すべし」と禁止や命令されなくても、心から党を愛し、党の理想通りの考えを持つようになれるのである。これこそが、平和で寛容な社会ユートピアだ。

二重語法


 「戦争は平和である」のように矛盾した二つのことを同時に言い表す表現が二重語法だ。二重語法を身につければ「中国は自由に武力行使できる」と「日本は憲法9条を改正して武力行使をするようになってはいけない」とがイコールでないように、思えるから不思議だ。
二重語法を用いた例は他にもある。たとえば、戦争をつかさどる「平和省」、物資配給をつかさどる「豊富省」、自由平和表の意味を無邪気に信じられるように洗脳するためのプロパガンダを行う「真理省」などだ。

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ヒトラー、スターリン、ポル・ポト・・といったサイコパスの毒牙にかからないようにするために、大衆には何が求められている?

多様性や表現の自由を訴えながら、お気持ち表明だけで世論誘導してきた人や記者が、コミュニティノートを嫌う理由を推察できるだけの思考力と言葉を持っていれば、平和省真理省のあるユートピアに憧れないで済むかも(笑)。


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