登記識別情報と,登記済証について

・登記識別情報
 登記識別情報とは,登記を完了した場合に,登記官から登記名義人となる申請人に対して通知される符号である(不動産登記法2条14号,21条)。登記識別情報は,アラビア数字その他の符号の組み合わせからなる一種のパスワードである。登記識別情報は,目隠しシールを用いたり,公開鍵暗号を用いたりするなどして,申請人にしか知り得ないように工夫がなされて通知されるので,登記識別情報の提供を求めることにより,当該登記申請が登記名義人本人の真意に基づくものであることを確認できる。このため,登記名義人が次回登記を行う際には,原則として登記識別情報を登記官に対して提供しなければならないとされている(同法22条本文)。
 しかしながら,登記識別情報は,失念,盗用,漏えい等の危険があるし,他人に知られてしまったこと自体本人にはわからないことも多く,リスクを伴う。このため,登記識別情報の通知を希望しない旨の申出(同法21条ただし書き,不動産登記規則64条)や,いったん通知を受けた登記識別情報を失効させる旨の申出(同法65条)が認められている。これらの申出がなされた場合や,登記識別情報を失念してしまった場合には,登記識別情報による本人確認ができない。この場合,事前通知制度(不動産登記法23条1項)か資格者代理人等による本人確認の方法(同条4項)がとられる。

・登記済証(権利証)
 平成16年の不動産登記法改正前は登記識別情報の制度はなく,代わりに登記済証(権利証)による本人確認が行われていた。登記済証(権利証)とは,登記義務者たる登記簿上の登記名義人が,権利の保存又は取得の登記をしたときに,登記所によって登記原因証書又は申請書副本に「登記済」との登記所の印が押なつされ,登記権利者に還付(交付)されていた書面である。
 登記済証は,登記所から直接申請人に交付され,かつ再発行されないので,登記名義人が所持しているはずのものであり,登記済証が申請書に添付されていれば登記の申請が登記義務者の真意に出たものであると推測できる。そこで,平成16年改正前の不動産登記法では,次回の登記申請の際の必要書類として,登記済証の添付を義務付けていた(旧不動産登記法35条1項3項)。
 現在では,登記済証の制度は廃止されているが,旧法下の登記済証は,現在でも,一定の条件の下,引き続き利用可能とされており(不動産登記法附則7条),不動産取引においては,登記識別情報と登記済証が混在している状況といえる。

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