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2匹のアリ

今週は書評ではなくて、ある体験を話して書評の変わりとさせていただきます。今、本当に書きたくなった事はこっちなのです。


ある夏の日の体験です。

電車の中に、アリが2匹いました。

1匹は羽蟻で、もう1匹は小さいアリです。

どちらも自分の体に止まって、歩いて、自分の肌に痒みを与えてきました。

初めは風が体毛を動かして、それが痒いと思わせてるのかなと思ったら、アリが歩いていたわけです。

潰すのは簡単です、でも、それはかわいそうだ。息をかけて体から飛ばしてしまえば事足りると思ったわけです。

ところが、羽蟻の方は飛んで行ったけど、小さいアリの方は飛んでいかない。

息をかけるたびに、必死になって踏みとどまり、私の体を上ってくるのです。

そこで思ったのです。このアリは、今とてつもない不安の中にいるんだと。

アリは群で生きる生き物です。目は退化していて、触角で相手のフェロモンとかを感じ、仲間かどうか判断する生き物です。

フェロモンはアリの巣の女王アリのフェロモンに依存するので、同じ種族だろうとフェロモンが違えば部外者です。アリの世界では部外者は敵扱いで、攻撃されてしまう宿命を持っています。

つまり、この、電車の中で自分の体を這い上がってくるアリは、間違いなく仲間から逸れた、もう長い事生きることができないアリなのです。元々の彼の巣から数キロも離れ、そして今も離れ続けてしまっている彼は、この先長く生き残る事はできません。

それがわかっているのかいないのか、彼は自分の体にしがみつきます。自分の体から甘い匂いでもでているのかもしれませんが、ここで風に吹かれて飛んでしまっては、もう自分がわかる匂いの場所には2度といけない。行けるとしても、とてつもない労力が必要になる。そんな労力を払う力は自分には残っていない。ここで留まらないと自分はもうだめな気がする、、、と考えているかのように、私はそのアリを見てしまったのです。

そうなると、私はどうしたら良いのでしょう。本当にちっちゃいのです。2〜3ミリあるかないかでしょうか。放っておいても、服と肌が擦れた時に、偶々そこにいたら潰れてしまいそうなくらい小ちゃいアリなんです。不安だからか、よく動き回って、危なっかしくてしょうがないんです。

でも、このまま自然に任せても、彼は長くは生きられないだろう。それならいっそ一思いに、苦しむことなく潰してしまうのが情けというものなのか?いや、私は昆虫相手とはいえ、これが情けだと言えるだけの人間なのか? 上位存在なのか? 介錯する人は本当に覚悟が必要なんだな。死という事に、命というものに、どれだけ真剣に向き合ったことがあったかな。向き合っていても、忘れてしまっているのかもしれない。だから神様は時々、忘れてないかいと、メッセージを伝えてくるのかな・・・といろいろな事に思いを馳せたのです。

そうしたら、アリは急に反転し、私の体を下り、指先からバッグにうつり、地面にうつり、姿を消したのでした。

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