列車

旅をしようと思った。
自分探しの旅とかそういうことではなく、ただ単純に女の子に振られたからだ。
自分探しの旅より恥ずかしい。
半同棲状態だったのもあって、近所のスーパー、コンビニ、踏切の音、電車の音。
全てが彼女を思い出させる。
もっと言えば部屋自体。
近所を歩いていると彼女を思い出させるきっかけがありすぎる。
いろんなところに彼女がいる。

何故彼女が離れていったのかはなんと無く分かってる。
けどLINEで『もう会えません』では心の整理がつきません。
別れ話ってもっと面と向かってじっくりと話すものじゃ無いの?
俺の意見はいらないのかよ。
『わかったよー』大人ぶった俺はそんな返信しかできなかった。『よー』が情けない。
そんな対応が大人なわけないよな。
馬鹿か俺は。
というか馬鹿だな。
毎日頭の中は彼女の事ばかりだ。

どこに向かってるかわからない列車に乗った。
ほんとにどの駅も聞いたことない。
すごく不安になった。
やめとけば良かった。

乗客は点々としている。
しかし俺の横にはガキがひとり景色を見て、たまに俺に足をぶつけたりしながらキャッキャしている。
他にも空いてる席はいっぱいあるのに。
どっか移ってくれないかな。
イライラしてきた。
このガキの親は何してんだ。
ひとりで乗ってんのか?

そんな事を思ってる間も列車は進み、俺は少し眠ってしまった。

ふと目を覚ます。
外は真っ暗だ。
あの子供はまだ俺の横にいるが眠っている。
寝顔は天使だな。
と覗き込んでいると。
突然パッチリ目を覚ました。
背負っていた小さなリュックからストローを取り出し口にくわえた。
『すぅー、すぅー』と吸って遊んでる。遊んでる?楽しいのかそれが?
『ねえ、おじさん、なんか落ち込んでるみたいだけどなんかあったの?』
なんだ唐突にこのガキは。
俺の苦手な生意気な奴に違いない。
『そんな風に見えたかな。けどお前には関係ないよな?それに俺はおじさんじゃない。まだお兄さんだ。シワとかあんまりないだろ』
ガキは聞いてなかったみたいな表情で
『嫌な思い出消してあげようか?』
と言った。
何言ってんだこいつ。
『大人をからかうな。どういう意味かわかんないけど、これだからガキはめんどくせーんだ。お母さんはどこ行ったんだ?』
ガキは得意げな顔をして
『じゃあ見ててよ』
と車窓に映るぼんやりとした街灯の光を『すぅー、すぅー』っといくつか吸い込んでしまった。
その光を飴玉みたいに口で転がしながら。
『ね、光ならなんでも吸い込めるんだよ、このストローで、ほらあそこにある月だって』『すぅー、すぅー』と吸い込んでしまった。
と言っても実際の大きさじゃなくて、俺が見ている月の大きさ。
ガキは俺の掌に置いた。

『光ってるものは全部吸い込めるんだよ。だからおじさんのその頭の中で光ってるその嫌がってる思い出も吸い込めるよ』
なるほど!
なるほどじゃないか、騙されるな俺。
しかし実際に、これは納得せざるを得ない。
だって月がほんとになくなってるんだから。
『わかったんだけど、とりあえず月は戻せない?』
『わかった』
シャボン玉の液が入ってるっぽい容器をカチャカチャやって
『ふぅー、ふぅー』っとやるとシャボン玉の中に月を入れて飛ばし、定位置に戻ってシャボン玉がはじけた。
よかった。なんか凄い怖かった。
街灯も多分困ってる人がいるんだろうな。
でももう通り過ぎてどこなのかわからん。

『光ってるものを吸い込めるのはわかったんだけどさ、俺の嫌な思い出はちょっと違うんじゃない?』
『おんなじだよ、光ってて、いい匂いがしてほんの少しっていうか随分といやらしくて、、、』
『それ以上は言わなくていいよ、うん、ありがとう』
『まあ、とにかく吸い込んだら甘くて美味しそうだよ、最後の方がちょっと苦そうなのが大人の味っぽくてよさそう。』
『最後の方はちょっと苦そうか、、、』

考えてみれば、楽しい事ばっかりだったな。
俺が彼女をなんとなく好きになって、話したらもっと好きになって、好きなものも似ていて、俺みたいなバカよりも数倍頭が良くて、
髪を切りすぎた事を気にして『今日は会えない』とか言ったりして、かと思えば『突然会いたくなった』なんてLINEしてきたり、なんで俺みたいな奴と一緒にいてくれるのか不思議だった。
奇跡みたいな毎日だったんだな。

『じゃあちょっと味見だけしてっと、、、』
『おお!ストップストップ!!』
ストローを手で払った。
『ええー、だって嫌なんでしょ。無くなったら楽じゃん』
『いやまあ楽かなぁとか思ってたし、なんで居なくなったんだろうとか、俺のせいだとか彼女のせいだとか、ぐるぐる頭の中でよくわかんなくなってたけど
この思い出がまだ綺麗に光ってるって言うなら、もうちょっと覚えててもいいかなとか思ったりして、、、』
『あーそうなの、過去よりも未来を見たほうがいいよおじさん。まあいいや残念だけど、新鮮で甘くて美味しそうだったのに、暑い日にのむセブンイレブンのカフェラテ みたいなさ』
『なんか安くない?その例え。美味しいけどさセブンのやつ』
『そんなことよりおじさんここどこかわかるの?』
『わかんないけど次の駅でとりあえず降りてみてなんとかするか』
『そうしよう』
『お前も来る気かよ』

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サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。

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シュリスペイロフというバンドのボーカルとギターをやっている。
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