工場で働く男 ちょい暗い妄想

まだ作業は終わらない。
8年もここにいるから作業にはもう飽きている。だからもう考えなくても勝手に手が動く。
とりとめもない事が頭をめぐる。
時間は全然進まない。
さっき時計を見たときから10分も経ってない。
私語は誰もしない。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶし、飛行機に降り、いくつかの電車を乗り継ぎやっとたどり着いたそこは雪国だ。
子供の頃住んでいたその町は雪に埋もれて、新しく買ったノートのように真新しい白さだった。
1週間前に起きた凄惨な殺人事件をも覆い隠そうとしているような、そんな白さだった

『青柳咲子が死んだ』

その電話で僕は10年ぶりにこの町へと帰る事になった。

町の市役所で働いてるという郷田太が駅まで迎えに来てくれた。

『久しぶりだなも、元気だったかなも、お前ん家はもう誰もいねえからよ、この町1番のホテル取っといたからまずそこ行くだに』

ものすごいなまってるなと俺もこんなだったっけ?とか思いながらついて行くとあやしい光を放っている、どう見てもラブホテルだなぁみたいなところに連れて行かれた。

『ここは町1番のホテルだぎゃ、飯塚さんがこの町に来てからあやしい奴も増えたけど楽しい所も増えたでげすよ』

まずいボーっとしてた。
何かが始まりそうな感じがしすぎて白目剥きそうだった。
郷田のなまりが適当だったな。
作業に集中しよう。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶし、彼女は言った。
『この町で今何か良くない事が起ころうとしている、それはなんかわかるんだ、何かはわからないけど』

『それは青柳咲子が死んだだけでは終わらないって事?』

『多分そうだと思う、あと、この部屋っていうかこのホテル全室盗撮されてるって噂だよ、それでもわたしとする?』

そう言って彼女は僕の目を見つめてバスタオルを取って少し小ぶりな胸をあらわにした。
『わたしは、ゆきこ。あなたの名前は?』

まずいボーっとしてた。
今回も今回で何かが始まりそうな感じがしすぎた。
何なんだ今回のやらしさと根の深そうな犯罪の匂いは。
作業に集中しなきゃ。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶし、『青柳を殺したのは俺だよ』
飯塚ははっきりと言った。
『まあ実際に手を下したのは郷田だけどな』

郷田?あいつが?

『お前が泊まったホテルって全室カメラがついてて盗撮されてんだよ。お前ゆきことたのしんだってな。郷田の息子がそれに関わっててさ、まあ好きなんだろうなそういうのが、そこを突いて脅したらすぐ咲子を殺してくれたよ、素晴らしいよね親の愛情って』

『なんで青柳を殺した』

『なんでって、俺の大事にしてるps4 壊したんだよね、そのせいでその日1日ゲームできなかったし、次の日また買ったけどさ、セーブデータも無くなって最初からやり直ししたりで大変だったんだよ』

『そんな事で?』

『そんな事ってお前ゲームやんないの?また最初からやんの大変なんだよ』

『クズだなお前、生きてる意味無いよ』

『なんで?お前神様かなんかなの?ていうかお前も生きてる意味とかあんの?俺からしたらこの世界に生きてる意味があるやつなんてひとりもいないよ』

飯塚は拳銃を僕に向けて構えた。

『まだ人を撃った事ないんだよね、こういうのなんていうの、アガるとか言うの?最高の気分じゃん』

飯塚が取り巻き2人に話しかけて、よそ見してる間にゆきこから、もしもの時にと持たされた拳銃の引き金を引いた。

一発目は肩に当たり二発目は取り巻きの男に当たった。
もう1人は逃げ出した。
まだ弾は充分あったから何度も撃った。
何発かはわからないが動けない程度には飯塚に当たったみたいだった。
もっと動揺するかと思っていたけど、冷静に飯塚の血が真っ白い雪を赤く染めていくのを
なんかキレイだなと思っていた。

飯塚が言っていた『お前も生きてる意味あんの?』と言う言葉が頭をぐるぐると回る。

まずいボーっとしてた。
なんか怖い事考えてたな。
こういう時もあるか。

ふたたび時計を見る。
まだまだ先は長い。

サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。