マンションの管理費とは何なのか

タワーマンションと管理費・修繕積立金・資産価値(1)(https://note.com/garibenz/n/nb36c552a449e)の続きを書こうとしたら、内容が取っ散らかりすぎたので、各項目を外出しします。

1.「マンションの管理費」とは何か

そもそも、住宅というものは戸建であれ、マンションであれ、そこに住むためには手入れが必要です。庭がある戸建であれば、定期的に雑草を抜かないといけませんし、玄関先、車庫は定期的に掃除をしないといけません。玄関灯の電球が切れたら交換も必要ですし、ヒンジの動きが鈍くなれば油を差す必要があります。海外だと、旅行中・出張中なのが分かると窃盗に入られる確率が高くなるということで、家を留守にするときも電気つけっぱなしにしたりしますね。これもセキュリティ対策、手入れの一つです。

マンションも同じです。玄関から先、共用廊下やエントランス、敷地内は定期的な掃除が必要です。ゴミも敷地内に出せるのであれば、敷地内のゴミ置き場を整理する必要があります。電球が切れていたら交換しないといけません。エレベーターがとまったり事故を起こしたりしないよう、定期的に点検も必要です。

こうした作業、戸建の場合には基本的に所有者のマンパワーを割いて対応しています。マンションの場合にも、区分所有者全員が分担して作業をしても良いのかも知れません。ですが、「俺はいそがしい」「私は年で体が動かない」等様々な理由で、平等に負担して作業をするというのは現実にはなかなか難しいです。
そこで、マンションの場合には、区分所有者が平等に金銭的負担をして、第三者に外注して作業をやってもらうことが一般的になっています。

この金銭的負担が「管理費」、区分所有者に代わって管理業務の一部を受託しているのが「管理会社」です。

タワーマンションでは、多くのケースで各階に24時間捨てられるゴミ置き場があり、居住者はゴミをわざわざ下まで捨てる必要がありません。子供のおむつも、キャッチ&リリースできます。エントランスや廊下にはゴミひとつ落ちておらず、災害発生時や救急時には防災センターに24時間いるセンター員が建物チェック、メンテ会社への連絡や施設案内をしてくれます。マンション内各所には防犯カメラがあり、何か事件があれば警察に証拠として提出する準備ができています(抑止力にもなっています)。

区分所有者が自分で、あるいは持ち回りではとてもやってられないサービスを、「区分所有者全員が月々数万円を出すこと」で実現しているのがマンションの管理です。

2.「管理費の削減」が意味すること

管理費を削減するのは月々の負担が減るのでとても良いことです。多くの人が「月々の管理費+修繕積立金+住宅ローン返済額(+固都税)」の支払額を念頭に入れて住宅価格を決めています。管理費が下がったら、その分だけ他に回す余地が出てきます。住宅ローン返済額に回すことができれば、もう少し高いマンションが買えるかも知れません。それは、売り手からすれば高くマンションを売れる可能性があるということでもあります。それなら、管理費は低ければ低いだけよい。全くそのとおりだと思います。

ですが、管理費を下げるために管理内容を見直すというのは、「各自個人ではやっていられないサービスを、各自が少しずつ金銭を負担して外注する」という経緯の逆をいくわけですから、「各自が少しずつ金銭を負担して外注していた作業を、各自の実負担に戻す」ということを意味します。言い換えると、そのマンションの居住満足度を下げるということです。

改めて、初期の条件に戻ります。「月々の管理費+修繕積立金+住宅ローン返済額(+固都税)」の支払額が同じであれば、管理費が下がれば住宅ローン返済額を増やすことができる。あるいは、住宅ローン返済額が一定であれば、月々の負担額を減らすことができる。これは事実だと思います。

3.管理費を下げるとマンションの売却価格は上がるのか?

それでは、「管理費が下がればマンションの売却価格は上がる」、これは事実でしょうか?

1人の購入者に着目すると、その人にとっては、管理費が高い物件よりも安い物件の方が、より分譲価格の高い物件にもチャレンジできることになります。そのため、管理費が低い物件の方が「多くの人の購入対象となる」ことになります。
それならば1億円の物件は「高すぎて多くの人の購入対象とならないという理由で、物件価格が下がる」のでしょうか?
実際には、1億円の物件を買える人が、1億円で売られている物件の中で、それに見合った価値のものを買っていきます。当たり前ですが、高額物件は高額物件という理由では値下がらないのです。

ランニング費用があがることは購入対象層が絞られ、流動性が下がることにつながるのは事実です。ですが、それは建物価値が下がることには直結しません。逆に、特に一定価格以上の物件では「その価格に見合った管理サービスが得られているか」が重要になります。

セキュリティが低い、ゴミが落ちていてその辺に虫が湧いている、玉切れが放置されている、ゴミ回収が杜撰でゴミ置き場周辺が汚い・臭い。そういう物件に"管理費が低い"という理由で1億円を投じてくれる人は、"管理費云々以前にマンションとしてあり得ない"という理由でその物件を見送る人よりもレアな存在でしょう。

つまり、「建物価格と管理サービスのバランス」が主にあるのであって、その次に「管理費」という管理サービスの対価の位置づけがあると考えています。

管理費が下がるのは良いこと。これを否定するものではありません。ですが、これは建物価格の大前提ではなく、付加的な論点に過ぎないと思います。

言い換えると、「管理費が下がるとマンション売却価格が上がる」という通説(誤解)は、「予算が決まっている1人の購入者の視点」と「建物が実際に呼び寄せる購入検討者の視点」とが錯誤されたものだと考えます。

4.管理費を上げるとマンションの売却価格は下がるのか?

それでは、ダイヤモンド・オンラインのコメント「管理費を上げると、資産価値は下がる」のでしょうか?
これは、3.「管理費を下げると、マンション売却価格は上がるのか?」の逆です。
管理費を下げてもマンションの売却価格は上がらない(そのマンション価格に見合ったサービス・品質が維持されていなければ、下がる可能性すらある)以上、管理費を上げてもマンション売却価格は下がりません

これを裏付けるデータは、(元データは)当のスタイルアクトが出しています。
出典:「高すぎも、安すぎもNG!マンション管理費の「相場」とは?」
https://hikarinobe.com/contents/mansion-management-expenses-average-3928

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管理費と物件価格は正の相関関係になっています。もし、管理費を下げた分だけマンションの価格が上がるのであれば、誰よりもマンション分譲価格を上げたいと考えているマンションデベロッパーは、高級物件ほど(管理サービスを削ってでも)管理費を極限まで低く設定するはずです。

5.混同してはならないこと(管理費と管理費用は違う)

1点混同してはならないのは、「管理費(区分所有者が支払う費用)」と「管理費用(管理組合が外注する費用)」は別物であるということです。

区分所有者が支払う費用である「管理費」は、マンション売買価格を直接的に左右する主要因ではないという説明をしてきました(少なくとも、管理費よりは管理サービスの内容の方がマンション売買価格を左右しやすい)。

重要なのは管理サービスですので、言い換えれば、管理サービスが維持されるのであれば、その費用(管理費用)は低ければ低い方が良いです。管理費用を削減した結果、管理費が下がることも期待できるでしょう。(繰り返しですが、管理費の多寡というのは結果であって、目的ではありません)

ただし、この費用というのは実に見えにくいのも事実です。管理委託費が低い代わりに修繕費が何故か高いとか、管理会社から見れば「儲からず、会社としてのノウハウ蓄積も難しそうな物件に一流の人材を送るのは無駄」ですから、派遣される人材もそれなりになる可能性があります。管理サービスが脅かされる可能性があるわけです。

それでも、多くのマンションの管理組合理事会は、「同じ管理サービスで如何に管理費用を合理化するか」、そしてそれ以上に「同じ管理費用で如何に管理サービスを向上させるか」に日々頭を悩ませています。

管理費という結果の多寡に固執するよりも、そうした理事会の努力こそ多とすべきだと思っています。

まあ、ぼくは理事会に入ろうとすると妻に殺されるのだけどね。

6.結論(管理費とは)

以上をまとめると以下のとおりです。

・管理費というのは、多少のお金で自分の苦労を減らす合理的なシステム。
・マンション価格で重要なのは、管理費の額以上に、管理サービスの質。管理費を下げることによる流動性の増加よりも、管理サービスを下げることによる購入検討者の層の変更のリスクを懸念すべき。
・1人の購入検討者の視点と、マンションが対象とする購入検討者の視点を混同してはならない。
・管理費と管理費用は別。管理費用の合理化は重要。
・ぼくは理事会役員になれない。

7.最後に

これに対し「でも、実際、近隣の管理費が高い物件と安い物件とで、売却価格には差がない。ならば、OPEXが低い方が有利ではないか」という反論もあるのじゃないかと思います(というよりも、そういったデータがあるからこそ、沖氏は管理費を下げた方が良いと主張しているのではないかと推測しています。)

ですが、肝心なのは「それは永続的な話なのか、ここ数年の急激な人件費高騰の流れの中で管理会社がそのコストを委託費に転嫁しきれていない移行期の話なのか」という点の整理だと思います。

マンション住みながら投資(仮にやるとして)は、10年超という長いスパンで行われるものです。一過的・一時的な市場の歪みをもとに判断を見誤るのは5年後、10年後に大きなダメージとなって返ってくる可能性があります。

息の長い投資だからこそ、市場の隙間を突くよりも原理原則論に立った投資判断の方が、失敗しないためには重要になってくると考えます。