タワーマンションと管理費・修繕積立金・資産価値(1)

ダイヤモンド・オンラインで、しびれるツイートを見ました。曰く、「修繕積立金も管理費も増額すると、資産価値が下がってしまいます。」。え!そうなんだ!しらなかった。

これが何を言っているのか、結局どうなんだ、というのをツラツラと書き連ねたいと思います。

1.その前に:沖氏の住宅投資理論

沖氏はこれまでもマンションに関する様々な書籍を書かれています。これからマンションを買う方には、まず氏の本をどれか1冊買って熟読することをいつも勧めています。

この本が一番分かりやすいでしょうか。マンションを買うとはどういうことなのかが分かる良書だと思います。

この本、ものすごくアッサリと解説しますと、住宅のネット収支は「購入価格」「維持費」だけではなくて、「売却価格」も考慮する必要があるというものです。同じ5,000万円の物件でも、正味の住居費用はマンションと戸建では違います。同じマンションでも、都心の物件と郊外の物件では違います。

5,000万円で買った物件が10年後に4,000万円で売れれば「10年で1,000万円」、10年後に2,000万円で売れれば「10年で3,000万円」の費用がかかる算段です。住宅の費用は、購入価格で決まるのではなくて、購入価格と売却価格で決まるのです。

この点、よくヤフーで出てくるファイナンシャル・プランナーが「年収▲▲万円で●●万円のマンションを買って大丈夫か」みたいな記事を載せたりしていますが、答えは「買うマンションによって違う」はずです。ですが、そこに触れるファイナンシャル・プランナーは見たことがありません。彼らにとっては5,000万円のマンションも5,000万円の戸建も5,000万円の野山も同じ価値なのでしょう。

逆に、株式投資を行った経験のある人であれば、「5,000万円分の株」というのが、5,000万円で買ったJT株と、5,000万円で買った日産株と、5,000万円で買ったGAFA銘柄が将来にわたって同じ価値だとは考えないでしょう。

住宅購入という、一見消費活動に見える行動を投資の視点でみたのが沖氏の本(上記に限らず、氏が出している本はどれも根底は同じ主張となっています)の特徴です。こうした話をケーススタディとともに具体的に説明し、マンションの中古価格の傾向、新築価格では考慮されるが中古価格では考慮されない要素等を過去のデータ等を基に分析しています。

少し脱線しますが、氏が提唱していたタワーマンション節税も思想は同じです。

元々不動産というのは「価格があってないようなもの」です。田舎の田んぼのど真ん中にある住宅の適正価格、分かりますか?1,000万円で買う人がいるかも知れないし、100万円でも買う人がいないかも知れない。家賃から収益還元して推定しようにも、田んぼのど真ん中の住宅を借りる人がいないんじゃ適正家賃も分からない。

そんな中で相続の際にそのような住宅の価値をやたら高く見積もられると、相続税がえらいことになって誰も相続しなくなってしまいます。ので、住宅の相続税評価額というのは基本的に凄く低めに設定されます。日本の大半の住宅は適正価格が分からないわけですから、ここは甘めにしておかないとやってられないよね、という手心が多分に加えられています。

一方で、都心のマンションやタワーマンションというのは中古でも流通量が凄く多いです。常に売りたい人が一定数いて、買いたい人も一定数いて、取引事例も積みあがって「買える価格」「売れる価格」が精度よく分かるようになっています。

となると、そんな都心のマンションやタワーマンションを買っておけば、何かあってもすぐに適正価格で現金化できる上に、相続時には評価額が著しく下がり、相続税を減らすことができるわけです。

こうした、「市場価値」と「税制価値」の差異を利用して利潤を得るのも住宅を投資という目線でみた一つの事例です。

このタワーマンション節税は、氏が大々的に本件をアピールした結果、国税庁の目に留まり、明らかに脱税目的でのタワーマンション節税は追徴課税されるケースも出てきたと聞きます。このように「あまり知られていなければうまく稼げていたものも、広く知られることで外部環境が変わる」ということはままあります。

前書きがかなり長くなりました。ここで言いたかったのは、「今はそれで稼げていても、将来も稼げるとは限らない」ということです。この点は、この後本題の管理費・修繕積立金と、資産価値の話に敷衍することなります。

2.マンションは、築10年目までに売るのが得なのか?

上記のとおり、住宅の正味費用は
「購入価格」-「売却価格」+「維持費(管理費・修繕積立金・固都税)」
で決まります。この売却価格と築年数の関係については、様々な資料で言われていますが、
・築5年目までは新築時よりも大きく値下がる(新築プレミアムの剥離)
・築5年目から築10年目まで値下がりは落ち着く
・築10年目から築20年目まで値下がりが続く
・築20年目以降は値下がりは緩やかになる
傾向にあるようです。(市況が変わらない前提です。今はどの築年数でも値上がっていますが、これはイレギュラーだと考えた方が良いと思います。)

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引用元:「築15年目以降の中古マンションは値下がりしにくいのか?」
https://www.sumai1.com/useful/plus/market/plus_0158.html

この傾向を見ると、
・築5年目から築10年目まで値下がりは落ち着く」というのが一つのキーになるのが分かります。値下がりが落ち着けば、その分だけ「年間の正味住宅費用」は安くなるわけです。
また、多くのデベロッパーの物件では、新築~築10年目までは修繕積立金の額が著しく低く抑えられています。(※新築~築10年目まではマンションの劣化速度が遅いということではありません。あくまで、新築を売りつけやすくするためのデベロッパーの作戦です。)

・売却価格の低下が遅くなる築年数の時期がある
・築15年を過ぎると、専有部内装の痛みも目立つようになり高く売れなくなる
・修繕積立金、固都税に代表される維持費が築10年目までは低廉
・大規模修繕期間中は工事の足場等で建物の外観を確認しづらく、売りづらくなる
等の点から、氏は「築10年目前後まで(大規模修繕前まで)にマンションを売るのが合理的」という見方を上記著作ではしていました。

この点は、過去のデータ等からは確かにそのように言えると思います。

一方で、本書を読んで私が最初に感じたのは「皆がその知識を得て、皆がその行動を取れば、築10年の物件を高く買う人間は存在しなくなるのじゃなかろうか」という点でした。

築10年で売るのが得=築10年の物件を買うのは損
と同義です。築10年の物件を買うのが損という認識が広がれば、築10年の物件価格はその分だけ下がるでしょう。結果、築10年で売るという行動に特段の意味はなくなるでしょう。

リテラシーの偏りによって生じる利潤は、長期的には希釈される方向に動きます。声高に「築浅のうちに売れ!」と言えば言う程、それが事実であればある程、築浅の市場価格、資産価値は下がり、「どの築年数で買っても、どの築年数で売っても同じだけ損をする(あるいは得をする)」方向に平準化されます。エントロピー非減少の法則です。

3.(1)のまとめ

序論だけでクソ長くなりましてすみません。管理費・修繕積立金の話全然出てこないですね。すみません。長いので(2)に続きます。(1)のまとめです。

・築浅で売るのが儲かる仕組みが機能するのは、築浅を高く買う人がいる間だけ。超fragile。
・築年数による市場の歪みが広く認識されると、市場は「築年数による住宅投資回収率の有利不利」が解消される方向に動く
・そのとき、資産価値は使用価値に収束する

最後に出てきたフレーズ、このフレーズを言いたかったんです。「資産価値は使用価値に収束する」。

これが(2)のテーマであり、冒頭のダイヤモンド・オンラインに対する私の見解です。(つづく)