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出会いは必ず用意されている

興味がなければいちども聞いたことがないであろう「カミーノ・デ・サンティアゴ」という言葉。直訳すると「聖ヤコブの道」。通称「カミーノ」と呼ばれるその道は「フランス人の道」「北の道」「ポルトガル人の道」などいくつもの道があり、そのすべての道はスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへとつながっている巡礼路である。
サンティアゴ・デ・コンポステーラは、キリスト教の三大巡礼地のひとつ。土地の名前にもなっている、聖ヤコブのお墓の上に建てられたという大聖堂を目指して、巡礼者は各々のカミーノを歩く。

カミーノはすべてのひとに開かれた道

特定の宗教を信仰していないわたしは、本来の意味の巡礼者とは言えないかもしれない。それでも、人生に行き詰まりを感じていたわたしは、巡礼を終えたとき、まるで生まれ変わったような気持ちになると聞き「巡礼者」になった。いずれ、死の足音が聞こえてきたら、何かを信仰したくなるかもしれない、歩きながら出会う人の宗教観に触れ、遠い存在に感じているものを知りたいとも思っていた。


ホタテ貝は聖ヤコブの象徴のひとつ 巡礼者のしるし
わたしもお気に入りをザックにつけて歩く

はじまりの町 サンジャン・ピエ・ド・ポー

サンジャン・ピエ・ド・ポーは山あいにあるちいさな町。ここをスタート地点にする巡礼者は多く、はじまりの香りのする町だなと感じた。わたしは当時暮らしていたドイツから空路でフランスに渡り、ボルドーで1泊しカヌレを満喫したあと、翌日バイヨンヌを経由しこの町に辿りついた。

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はじまりの香りのする可愛らしいまち

バイヨンヌまでは立派な列車だったが、バイヨンヌ駅では2両編成の可愛い列車が巡礼者たちを迎えてくれる。この列車の色合いがなんとも可愛らしく何枚か写真を撮ったあと、二人掛けのシートに座って出発を待っていた。

出発時間も近づいた頃「韓国人の方ですか?」と韓国語で話しかけられた。見ると韓国人の男の子だった。「ちがいます、、日本人です。」と答えると少し残念そうにするも、彼は隣に座って、そのうちに列車はサンジャン・ピエ・ド・ポーに向かって出発した。

なにかお話した方がいいかな、、と思いつつも、カミーノでは、誰かの居心地の悪さを解消することに気を遣って、自分が居心地が悪くなったり、無理をすることはしないと決めたしなあ、、と思い、心はオープンにしたままだまっていると、彼の方から話かけてくれた。その会話をきっかけに、ぽつぽつと互いに質問をしたり、だまって車窓を眺めたりしながらはじまりの町までの時間を過ごした。

なんとなく、出会いは用意されている、と感じた。

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巡礼者として登録をしてもらい
歩いてきた道のりを証明するための
クレデンシャルをもらう

サンジャン・ピエ・ド・ポーに着いたあとも、なんとなく、彼、韓国人のチョンヨルと巡礼事務所まで向かう。ほかの巡礼者たちもぞろぞろと続いた。巡礼事務所で、巡礼者として登録し、クレデンシャル(巡礼手帳)を発行してもらう。ここで巡礼者の印のホタテ貝も手に入れた。願いを込めて、ほんのりピンク色の貝がらにした。

あらかじめその日のお宿は決めていたので、そのことをチョンヨルに伝えると、彼は予約していなかったらしく、わたしの予約している宿が空いていればということでついてきた。

運良く空いていて同じお宿に泊まることになった。まだ、カミーノスタイルの宿泊に慣れていなかったので、なんとなくお互いに気を遣い、同じフロアの端と端のベッドに選んで、寝袋をひろげて寝床を作った。
カミーノでの初めての夜、ちゃんと眠れるだろうか。

出発前夜 キキの気持ち

少し休憩をしたあと、チョンヨルと一緒に町を散策することになった。
まず、明日の朝ごはんと行動食を買いに近くの商店へ。そのあと、教会へ。チョンヨルが、ふたりのために、とマリア様の像の前にキャンドルを灯す。坂の上から坂の下まで歩きながら、カミーノのサインや水場を見つけてはわくわくしていた。坂の下にある町の門までたどり着くと、明日ここから出発するんだね、と話した。

このあと、もうひとり韓国人の女の子ミカエラと出会い、3人で一緒に晩ごはんを食べた。
ミカエラとはまたちがう場所で運命的に再会する。特別な出会いのひとつ。

晩ごはんを食べたあと、少しお茶をして、お宿に帰る。
出発前夜のドキドキとワクワクと少しのソワソワ。
心配をよそにいつの間にか眠りにつき、ついに出発の日の朝を迎える。


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優しい火が灯った白くて長いキャンドル
みんなの願いが込められている

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ボルドーに立ち寄った理由をきかれて
カヌレだよと答えたらチョンヨルは知らないと
カヌレのお店を見つけて「これだよ」と教えたら
そんなに好きならとプレゼントしてくれた

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歩くあいだもこれからも透明でいたいと思い
透明な器のちいさなキャンドルに火を灯した

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