2021.3.9

この日記はシン・エヴァのネタバレを含みます。








僕の文章では解像度がいろいろあって、解像度の違いでリズムを形成する書き方をしている。…千葉雅也

9時半起床。

昨晩のジンギスカンの残りで朝食にする。歯内のサイドリーダーを読み込む。昨晩から嫁とは一言も話さないまま家を出た。社会が嫌すぎて負の感情で人に当たり散らすほかなかったんだと思う。やることなすこと裏目がつづき、もう人と関わりたくなかった。そういう意固地さがある。

シンエヴァを目当てに映画館へ行く。

僕の日記では解像度がいろいろあって、解像度の違いでリズムを形成する書き方をしている。

この二ヶ月間、こうして日記を書くにあたり、とくに無理がなく書けるようになってきた。体操を繰り返すことと同じ、関節に柔軟さが生まれてきたようで、今は字数を伸ばすことに苦がない。文字をタイプすることそのものが楽しい、という気持ちへとどこかで変化があった。千葉雅也が勧める文章術であるところの日記から小説への離陸を気負って狙うことを止めにした。それは、難波さんの神宮前日記を読んでそのやり方を真似してみたくなったのだ。書かれるのは建築家の日常。実務・読書・散歩の内容が日記然とした文体と600字程度のほどよい量感に収まり、その並びが膨大な日数だけつづいているという事実。クリックしても尽きることのない単純な数の多さには、きっとなにかを感じ入ることができるので、人の日記を読むのが好きな向きにおすすめしたい。それにしても、日記を書いていると脇道に逸れていくものだ。考察や書評に毛の生えた散文になりがちで、日記らしい日記とは実はインターネットに少ない。年月を経て構築された無駄のない文体と話題運びの洗練は、難波さんの作品群である箱の家シリーズにも通じている。建築と文章が同じかたちをしている。それはいろんなかたちがあるものだ。千葉さんのような、かっこいい散文の形式をただ暮らす内に日記で書けてしまう……書くのではなく書けてしまう……という自動性については、これからも気負わずに気にしてみたい。

なんでそんなことをするのかというと、庵野に作品をつくれと言われている気がするからだ。本当に。

走馬灯みたいなフィルムがシンエヴァである。シンエヴァでエヴァは亡くなるけども、その走馬灯をあなたは生きながら観ることができる。死の間際が大変に気持ちいいという言説がしめすとおりに、それはすごくよかったとだけ伝えておきたい。

はじまって1時間ずっとシンジくんは誰とも喋らなかった。シンジくんは何もしなかった。みんなは社会の中で自分の場所を見つけていたから、代わりにシンジくんはただ一人で人から逃げていた。ところで、この10年ほど、おれは自分がシンジくんだと思って生活している。限界になればミサトさんに助けを求め、頭の中には、やるぞ!というガッツ・シンジAとしょうがないじゃないですか……というナーバス・シンジBがいて、それで将来は綾波と結婚すると言ってはばからず暮らしてきた。もうおっさんだからシンジくんというより、ゲンドウになってきたなしかし、などと近年は思っていたのだが、シンエヴァでは、ゲンドウの他人を怖がるショボい人格が詳らかに描かれていたので、ああ親子だなと納得できた。シンジのまま大人になったら悲惨だけど、このままゲンドウになっても駄目らしいとわかる。ではどうしたらいいか。

シンエヴァは、一言で言い切ってしまうと、シンジくんの勇気を描いた映画といっていいと思う。彼は大人になった。大人になったシンジを目の当たりにしたゲンドウもようやく大人になる。

大人の定義は難しい。それは何かを諦めることや、周りに合わせること、自分の意思を貫くこと、許すこと、見守ること、託すこと、おそらくそのどれもが微妙に違っている。どうやっても筋道の通る話ではないだろうが、ただ感情で乗り切ることもまた、シンエヴァの演出はよしとしなかった。

選択をすること。論理はなくとも行動には結果が伴う。終盤、ずっと泣いてるからスクリーンがぼやけて見える。シンジくんは、選択をして、エヴァンゲリオンを手放す。行動には責任が生じる。シンジくんは選択の責任をとった。

取り返しがつかない選択を採ることには勇気がいる。それは辛いと多くいわれている。それでも、勇気だけが物語を前に進める特別な感情であることも、シェークスピアがきっといっている。おれは古典を知らないから、西尾維新あたりの言葉かも知れない。

べつに、責任をとることは悲劇でもなんでもない。喜劇でもないが、ただ起こることがスクリーンで起きた。それはエヴァという長い物語を前に進めた。おれはそれを10年、ずっと待っていた。

大人は、物語をつくる。物語をつくるから大人なんだと、今は思う。

劇場を出てすぐに嫁に電話をした。

「エヴァよかったよ」と言って、池袋で鬼金棒のラーメン食べて帰ることを伝えた。

1時就寝。


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