奇妙短編「昼休み」

暑い
暑い
うだるような暑さだ
本当にジリジリと音を立てているかのような陽が頭上から放射線を僕のアタマに容赦なく当ててくる。
ハンカチで何度となく額を拭くも、毛穴からは滝のような汗が容赦なく首元まで垂れてくる。
誰か僕の首元で滝行ならぬ汗行でもしに来ないかと思ってしまう。
朝からNHK集金作業で散々住民にうやむやにされること10件、暑さのせいもあり精神的にも肉体的にも僕は参っていた。
さぁもう一件だ!
僕は意識を無理やり仕事モードに切り替えようとしたが、腹の虫が胃の奥の方から怒号を発した。
時計に目をやると既にお昼を回り甘味タイムに差し掛かっている
どうりで腹の虫が騒ぐわけだ
僕は仕事モードからさらに昼飯モードに切り替え適当な店を探した、時間帯が悪いせいか何処の店も只今準備中の看板だらけだ
どいつもこいつもどこもかしこも俺をあしらいやがって、飯もまともに食べさせてくれない。
相変わらず腹の虫は鳴き叫ぶことを止まることを知らない。
もう今日一日は何かいいことを望むことを諦めていた時、一件の油でギトギトになり文字も剥げ落ち何を書いてるか判別不可能な昔ながらの中華料理店らしき店が営業中の看板を掲げていた。

「チャーハン一丁ね!!あんたチャーハン一丁!!」
「あいよ!!」
「チャーハンね!あんたチャーハン一丁!」
「お客さんもチャーハン?あんたチャーハンもう一丁」
「あいよ!!」

結構繁盛店らしく十数人の年配のお客さんで賑わい、その中を白の割烹着を着た昔ながらのおばちゃんが威勢よく声を上げ店の敷居を上げていた。

「いらっしゃい!」

僕の存在に気付いたおばちゃんが声をかけてくる
「一名ね!ここ座って!水は勝手に取って頂戴ね!で!?何にする」
考える間もなく一斉に接客業務をまくし立てられる

「じゃあ僕もチャーハンでお願いします」
「あんた初めてよね?」
「はい」
「本当に、チャーハンでいいのね?」
「はい」
「本当ね!」
「だからはい」
「かしこまり!あんたチャーハンもう一丁!!」

何か不自然なやりとりがあったが無事チャーハンが奥の主人に行き届いたみたいだ

ジューーーーーーーー
カンカンカンカンカンカン
ジャッジャッジャッジャッ
シャッシャッシャッシャッ

油を入れ米を入れる音と中華鍋をお玉で叩く音チャーハンを返す音が店に響き渡り渡るとチャーハンのいい匂いが店中に広がった。
まるで中華の森にでもきたような気分だがそんな世界はこの世にはない

ジューーーーーーーー
カンカンカンカンカン
ジャッジャッジャッジャッ
シャッシャッシャッ・・・・

「ん、、、、??」
絶妙なチャーハン返し音が無音になった

ジューーーーーーーー

又再びチャーハンの作る音が開始される

カンカンカンカンカン
ジャッジャッジャッジャッ
シャッシャッ!・・・・

又一瞬無音になる
「あの〜〜〜?」
「はい??」
「あの〜シャッ!長くないですか?」
「なんのこと?」
「お米〜鍋に戻って来てないですよね??」
「うちのチャーハン返しはこんなもんなのよ」
「こんなもんなんですね〜」

おばちゃんの言葉で不思議と違和感からは解放された

カンカンカンカンカンカン
シャッシャッシャッ!!!・・・・(やっぱりシャッ!の滞空時間が長いんだよな〜)

ジューーーーーーーー

「作り直してませんか?」
僕は耐えきれず心の声を発してしまった
「あんたさっきからうるさいわねぇ」
「チャーハン全部こぼして作り直してません??」
「やっぱり最初のお客さんはそうなるか?」
「はっ?」
「そんなに疑うのなら厨房見てみなよ」

おばちゃんの言葉に促され僕は厨房を覗かせてもらうことが出来た
そこには米をこぼした痕跡など微塵もなく床は油と少々のネギだけが落ちてるだけだった。
それどころかさっきまで威勢よく炒めていたチャーハンが何処にもない!!
僕の身に味わったことのない疑問に支配された
チャーハンが消えている!!??
なんだその現象は!!!
じゃあいったい注文したチャーハン達は何処に消えたんだ?
おばちゃんがゆっくりと厨房にやってくる

「うちのチャーハン・・・異次元に飛ばしてるんです」

おばちゃんがこれまた中華料理店で聞いたことのない言葉を僕の耳に入れてきた

今日はここまで昼休み後編は次週
まーたねー