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創作|櫻

櫻の樹の下には死体が埋まっている。
ある有名な詩人が表題にもしていた言葉だ。
この言葉は僕の心に長く残っていた。
小学六年生の時に僕は友人を桜の樹の下に埋めた。
彼は僕と遊んでいるときに池に落ちて死んだ。
溺れて池の水面から手を出し助けを求める彼を僕は傍観していた。
やがて、彼の手は水面から出ることは無くなり、彼の身体が水面に浮かんだ。
池から引っ張り上げた彼を池のほとりの桜の樹の下に埋めた。
僕が彼と遊んでいたことは誰も知らず、僕は彼の行方について何も知らないと答えたため、彼は行方不明になった。
十年後。
僕は大学を卒業し、会社員になった。
僕はあの桜の樹のふもとに花を手向ける。
彼は僕を恨んでいるのだろうか。
ふと考えたが、桜の樹の下に彼が埋まっていることは僕だけが知っていればいい。
僕だけが彼を覚えていればいい。彼が僕を恨もうと、それはどうでもいいことだ。だって、彼が最後に見た人間は僕で、彼の中には僕がどんな形でも残り続けているはずだからだ。
そう結論付けて、桜の樹を立ち去った。

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