二度目のプロジェクトは一度目のそれを凌駕するか
「縦に高く積んだ積み木ほど、崩した時に広範囲に拡散する」
そう言いながらマリーは自分の身長よりも高く積み上げた北欧製の積み木を実際に崩して見せた。やかましい音と共に、色とりどりの数百のピースがリノリウムの床一面にとっちらばる。一番遠くまで転がった円柱型のひとつは、20mも離れた壁際まで転がってそこでやっと止まった。
「物理だ」
「物理だな」
「つまりより広範囲に拡散させたいと思うなら、より高く積まなくてはならないということになる」
「そうなるな」
「ところで神の愛を信じるか」
「まあ多少は」
その答えに彼女は頷き、左様、と言った。
「神の愛は広大無辺だ」
この女はこっちがどのように答えようがその結論に繋げたに違いない。そう思いながら視線を天井へと移した。安っぽいボイジャーの模型が揺れている。
「神の全ての行為は人間への愛に基づいている」
その意見には同意しかねた。神の意志は人間などには図りかねないものだと、そう思った。神がいる、というのが前提とすれば。
「左様、左様、とすれば、神のもたらす破壊と混乱もまた、全ては我々のためのものだと、そういう結論が出るのは自明のことだ。例えるのならばニムロデの行為への対処もまた」
彼女はもうこちらではなく、壁と床とのあいまいな結合に向けて喋っているようだった。それはただ単に偏見から来る邪推だったのかもしれないが。
「地に満てよ、それが神の望まれたことだ、今まで行ったこともないほどの遠くまで……テラ・インコグニタへまで、そのためには私たちは今ある限界を越えなければならない、そのためには一度目よりももっと高く積み上げなくてはならない」
「残念ながら二度目はない」
マリーの額に穴が空いて、そこからこぼれたものが積み木の散らばる床を汚した。一拍遅れて彼女の体自体も崩れ落ちる。最初からこうしておくべきだった。
私の空に飛ぶのはボイジャーではなくスプートニク2号だ。
【続く】
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