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子宮内フローラ

フローラ、という言葉をご存知でしょうか。
もとはといえば、腸内フローラ、という言葉で初めて聞いた人も多いかもしれません。フローラは別名、細菌叢(さいきんそう)とも言われます。
すごい簡単に言えば、菌のバランス、割合、そのあたりを示していると考えれば良いと思います。

従来では見ることができなかったものが、次世代シーケンサー(NGS)の登場により、より詳細に、より安価に解析ができるようになってきました。
NGSを細かく理解する必要はなく、超絶早く正確に解析できるスーパーCPUとでも言っておきましょう。

もともと腸内フローラは100兆個もあると言われていますが、
先日の細菌性腟症でも紹介したように、膣内にもフローラというものがあります。

更に、従来は無菌、と考えられていたのが子宮の中です。
高齢の産婦人科の先生に聞けばすぐにわかると思いますが、
子宮内は限りなく無菌であると信じている人も今でも多くいらっしゃいます。

それもそのはずで、腸内や膣内と比較しても非常に菌が少ないのです。
従来の技術では当然調べようもなかったと考えられます。

ですから、古くから診察されている先生からすれば、
えぇぇぇぇ!ってくらい驚くのがこの子宮内フローラなんです。

子宮内フローラの華々しいデビュー(2016年)

子宮内フローラが登場したのは、2016年頃であったと思います。
以下の論文で華々しく登場しました。

この論文では、子宮内のフローラの90%以上をラクトバチルス属性が締めている場合には正常、90%未満を異常と定義して、解析研究を行ったところ、
正常群の妊娠率は70.6%、生児獲得率は58.8%となりました。
異常郡の妊娠率は33.3%、生児獲得率は6.7%でしたので、
大きな差があり(有意差あり)、センセーショナルな内容でした。

それを機に、日本国内でも子宮内フローラ検査は加速度的に件数を伸ばしていきます。

一方で課題も

実際に私が所属する医療機関でも2016年頃から早々に開始して、様々な研究を実施してきました。
良い結果もあれば、難しい結果もありました。
難しい結果の1つというのは、仮に子宮内のラクトバチルス属性が0に近い方であっても妊娠することが在り得る、というものです。

このフローラ単体で、絶対的な不妊という風に考えるのが極めて難しいことがわかりました。

もともと、フローラ検査をせずとも、海外では受精卵の染色体検査をして、正常であった胚を戻せば、妊娠率は60-70%程度まで高まることが知られているので、まぁ当然といえば当然でしょうか。

フローラはなぜ変わるか

子宮内フローラは食べるものやサプリメントでも変化をします。
ということは、子宮内フローラは完全に独立した存在ではなく、
腸内フローラや膣のフローラとも関連性があると考えるのが妥当と思います。

また、なぜ悪いように変化をするのでしょうか。
ここも見ていくと食生活だけでなく、子宮に関する別の症状、例えば慢性子宮内膜炎、などの影響を受けている可能性も示唆されています。

なお抗生剤を処方するということは、先生に言わせれば、
細菌叢を入れ替える
ということに近いようで、良い菌も悪い菌も共に駆逐することになってしまうようです。
ですから、こうしたお薬の使用は最低限にとどめたいと考えるようです。

私が以前参加した学会でも、細菌学の先生が声を大にして警鐘を鳴らしていました。
「大きな病気をして、医療が必要になった時、使える抗生剤がなくなるぞ!」と・・・(こわい話です)

フローラ検査の現在地

では、今、不妊治療界隈で、子宮内フローラはどういう立ち位置かといえば、新たに制定されたガイドラインでは、エビデンスレベルは最も低いCという状態です。

Cという言葉だけいうと、とても悪そうに聞こえるでしょうけど、
A:強く推奨される
B:推奨される
C:考慮される
という感じなので、だめっていうわけではないですが、
「これは絶対効果があるぞ!」と言い切れる感じではないということです。

なんでよ

いくつかの問題点があると思いますが、個人的には、
・検査時期
・採取方法

が未統一であること、が影響していると考えています。

本来子宮内フローラは、受精卵を身体に戻した時に着床するかどうか、
という判断軸で見ているものなので、黄体期(受精卵を戻す時期)に見るべきと考えられますが、そこが不統一だったりもします。
だから、一様に結果を集めてみても、時期が違うのだから、同じ様に評価がしづらいわけです。

また、採取方法にも課題があります。
子宮の位置的な問題もあり、どうしても膣から器具を入れて採取していくということになります、そうすれば、膣や子宮頸管に存在するフローラの影響を受ける可能性はあるわけです。
はたして、その子宮内フローラは本当に子宮内のものなのか、という疑問は100%消し切ることは難しいものと思います。

もちろん、採取方法や検査会社側での対応もどんどん進化しているので、
かなり影響が少なくなっていくものと思いますが。

新しい可能性も

子宮内フローラは、ものすごい量の菌を調べているので、単純に正常/異常だけをみるだけではなく、どんな菌が存在しているのか、まで調べることが可能です。

そうなると、例えば慢性子宮内膜炎などの場合には通常抗生剤を処方することが多いのですが、菌の種類によっては抗生剤が不要の場合があります。
このように診断の精度を高める役割としての子宮内フローラにも注目しています。

ちなみに

子宮内に考えられる不妊原因となるものは多くあり、
着床の時期の問題
ヘルパーT細胞やNK細胞活性などのような免疫関連
ビタミンD
銅や亜鉛
慢性子宮内膜炎の有無

などが多種多様にあり、厄介なことにいくつにも重なりあっていると
考えられています。

なので、どれか1つだけを専門的に見るということは困難であり、子宮内環境を全体的に捉えた治療が好ましいと考えられます。

ついつい、自分の価値観と一致するものを見つけてしまうと
そこばかりに焦点をあてて考えてしまいがちですが、
不妊治療は考えるポイントが多岐に渡るものなので、
常に俯瞰して森を見るような姿勢を心がけるのが大事だと先生に教わりました。




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