タイムラプス型インキュベーターとは
現在では多くの不妊治療施設で導入され、主流となってきているタイムラプスモニタリングシステム。
でも、よくよく考えると、何がいいんだっけ、ということが伝わっていないことも多いと思います。
不妊治療の中でも、最後の砦的存在である体外受精において、重要な要素の一つである、「培養」。
ここをしっかり理解できると、なぜ高額な医療機器をわざわざ導入するのか、ということがわかってきます。
そもそもタイムラプスって
タイムラプスは、医療の現場のみならず、スマートフォンのカメラアプリなどでも比較的最近は一般的になってきていますが、
インターバル動画、とも呼ばれるものです。
静止画を一定間隔で撮影し、それを繋ぎ合わせることで、動画を作ります。
培養器(インキュベーター)とは
インキュベーターとは受精卵を育てる培養器のことです。内部は女性の体内(子宮の中と同じような環境)に設定され、温度37.0℃、酸素5%、二酸化炭素5~6%で常に一定に整えられています。
体内ほどすぐれた培養環境はない、とよく言われます。
これまでのインキュベーターでは、受精卵の発育の状態を確認するために、インキュベーターの外に取り出して観察することが必要でした。
受精卵にとって外気と触れ合うことは、光への暴露、温度変化、pH変化を受けるため、成長に少なからず影響を及ぼす可能性がありました。
この点がタイムラプス型インキュベーターが数多く導入されるPointになっています。
タイムラプス型インキュベーターのポイント
①継続的に
②閉鎖された環境で
③受精卵を培養し
④観察・評価するシステム
というのがこのポイントです。
タイムラプスモニタリングシステムの必要性は、このように
・インキュベータの開閉を減らして培養環境を向上させること
・正常な分割時間によって良好胚を選択していく
ところに求められています。
特に重要とされる受精→第一分割
通常、受精から第一分割で起きることは以下のようになります。
通常の観察方法では、約10〜15%の受精卵において前核が消失しており、受精しているかどうか、正常受精しているかの判断が難しいのが実際です。
しかし、タイムラプスを用いることで前核の確認を確実に行うことが可能です。
また、「異常な分割(ダイレクト分割、リバース分割、不明瞭な分割など)」や1つの割球に複数の核が出現する「多核」の発見も可能です。通常の流れは以下のようになります。
ダイレクト分割:1細胞から3細胞以上に分割
※通常は、受精確認⇒2細胞⇒4細胞
リバース分割:一度分割した細胞が戻る
※従来の観察方法では、たまたま取り出したタイミングで2細胞、といううように判断してしまうかもしれませんが、タイムラプスであれば継続観察が可能なので、発見できるということです。
不明瞭な分割:分割がはっきりせず、分割面が不明瞭
多核:1つの細胞に通常1つである核が2つ以上ある
こうした一見すると正常に見られることもあるようなものも含めて、異常な胚を形態的に評価して、選別することができるのが、タイムラプス型インキュベーターの特徴です。
論文を1つ紹介します。
この研究では、
2012年~2016年にアメリカ オハイオ州のクリニックでICSI(顕微授精)を行い、
胚盤胞でPGS(着床前スクリーニング)を行った130名の患者、1,478個の胚盤胞を対象としました。
患者の平均年齢は36.3±4.3歳です。
結果、結論として導き出された項目は、
ダイレクト分割、不明瞭な分割が観察された胚の拡張胚盤胞率は低下する。
ダイレクト分割、リバース分割、不明瞭な分割、多核の事象が“単体”で観察された胚でも、異常な事象が観察されなかった胚と比較して染色体正常率は変わらない。
しかし、これらの異常な事象が“複数”観察された場合は染色体正常率が有意に低下する。
また、観察を行っている中で、もう一つ明らかになってきていることがあります。関係しているのは速度(時間)です。
これらの結果から、改めて、タイムラプスによる形態的かつ経時的な観察を行うことの重要性が示唆されます。
今後も様々な研究報告がされることと思います。
先進医療にも申請されていたのではないかと思います。
(承認されているかどうかはまだわかりません)
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