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妊孕性温存(にんようせいおんぞん)について

私は、生殖医療相談士という資格と、日本がん・生殖医療学会の認定認定がん・生殖医療ナビゲーターという資格を取得しており、実際にクリニックの中では、妊孕性温存を検討されている患者さんへの治療前の情報提供などを担当しています。

そもそも妊孕性ってなんだろ

妊孕性、そもそもこの言葉を聞いたことがない人も多いと思います。

漢字にしてみるとわかりやすいですが、読んで字の如し、

妊娠するための力

ということです。

女性で言えば、卵子(卵巣)と子宮、男性で言えば、精子(精巣)が妊娠するための力といえます。

妊孕性温存には広義で捉えられるものと狭義で捉えるものがあるという風に、私は考えていて、以下のように考えています。

妊孕性温存(広義・狭義)

このnoteでは、狭義の生殖医療の技術を用いて、凍結保存することで温存する治療、をここでは妊孕性温存と呼ぶことにします。

がん治療と診断技術の発展、その影で

がんの治療と診断の技術は目覚ましい進化を遂げており、年々生存率は上昇傾向にあります。その一方で、治療内容によっては、著しく妊娠する力に低下や喪失という影響を与えてしまい、がんを克服したものの、妊娠する力がなくなってしまっていた、低下してしまっていたという方も少なくないことが知られています。

妊孕性温存は、患者さんの生命を第一優先に考えながらも、妊娠する力に影響を与える治療の前に、温存しておくことで、がん克服後の患者さんの人生の価値をより高めていくことを目的としています。

実際に実施可能な妊孕性温存

女性の場合であれば、卵子・受精卵・卵巣凍結が可能で、男性の場合であれば、精子の凍結保存が可能です。

男性は精子凍結のみなので、やるかやらないかということになりますが、女性の場合はやるかやらないかに加えて、どの方法が良いかを吟味する必要があります。

妊孕性温存方法の比較

助成事業が21年4月からスタート

知っている方はまだ少ないかもしれませんが、妊孕性温存を実施する方への費用補助を目的とした助成事業が開始しています。

都道府県によって、開始状況は様々と聞きますが、開始している以上、遅かれ早かれ、費用助成は今後されていくこととなると思います。

これは患者さんにとっては非常に大きなことです。

従来、妊孕性温存を検討する患者さんの80%程の方は、費用がネックで治療を断念していたという調査もPinkRingさんという患者団体の方々が報告をされていました。その方々に届くようになることを願っています。

実際のカバー範囲はこんな感じです

妊孕性温存の助成金

私のいるクリニックで言えば、費用の5-6割をまかなえるのではないかと思うので、非常に大きなサポートになると思います。

できなかった人ができるようになったり、人によっては2回温存を実施して、より多くの妊孕性を温存できるかもしれません。

まだまだエビデンスのレベルでは乏しい面もあるので、保険適用は難しいのではないかと個人的には思いますが、この助成事業が継続していくことを願っています。

知っておいてほしいこと&私のお仕事

ただ、必ずしもすべての人が温存できるわけではないのが現実です。

治療のスケジュールがタイトでどうしてもうまく行かないときもありますし、そもそも妊孕性温存自体が100%の治療ではありません。

凍結できた卵子が1個しかなければ、妊娠できる確率は5%程度と考えられます。もちろん、それで妊娠するかもしれないけれど。

大前提として、ヒトはとても妊娠しづらい生き物なので、健康であったとしても、妊娠・出産を経験しない人は大勢いてもなにも不思議ではありません。

また、がん治療の影響にしても確定的なことはなかなか言えないのが実情で、低下する「かもしれない」という不確定要素がたくさんあります。

こんな感じで、不明瞭で曖昧なものです。

そして、妊孕性温存という治療のエビデンスも確立してるとはまだ言えない状況・・・

だから、医療者が患者さんを導くというスタイルですすめることはできないんです。あくまでも私個人の感性ですが、普通の風邪とかだったら、先生に診てもらって、薬が出て、1週間位飲んでいたら、ほぼ間違いなく治るのが日本人の常識だと思います。しかも、治療費用や保険だから安いですし。

だから、アレルギー反応が出たとか、そういうのじゃなければ、先生の意見をほぼそのまま飲み込みます。それは、やっぱり上のような状況で、エビデンスもあるし、自分も治ると信じているからかなと思います。

でも、妊孕性温存はまったく違います。

温存したとしても妊娠できることは保証はできないですし、治療費用もとても高額なものです。まだまだエビデンスも積み上げ最中。

そうなると、医療者の意見だけで進むことは現実的ではなくて、今ある情報やエビデンスをしっかりと患者さんが理解して、自分の価値基準のことで、自己決定していかないといけません。

こうした検討をしていくには、妊孕性温存以前に、生殖について基本的なことから理解する必要があります。

概ね現在の20-30代の方々は、学校で受けてきた性教育で、生殖にとっての知識が不足している方が多いです。間違えた基礎情報の上では、納得のいく判断はできません。それを正して、納得のいく意思決定をできる土台作りをしているのが、私のお仕事です。

私の情報提供では、

・生殖機能について
・がん治療と生殖機能の関連性
・妊孕性温存方法
・今置かれている状況

なんかをお話しています。人によっては1時間くらいかかりますが、BOSSが太っ腹なので、無料です笑

状況は人それぞれですが、リプロダクティブヘルス&ライツを高め、ひとりひとりがより自分色の人生を送ることができるように、私にできることを頑張りたいと思います。



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