無邪気のままで良いはずない

渋谷駅の改修工事に伴う山手線内回りの池袋-大崎間が運休となった日、1時間2本の間隔で品川-新宿間に山手貨物線と呼ばれる品川-大崎間を山手線の内側を通る貨物用線路を走る臨時旅客列車が運行するというので行ってみた。
品川駅に到着して、出発ホームを探すのに手間取り、目的の時間の列車が出発してしまったため、約30分、構内で過ごすことになったが、「エキナカ」と呼ばれる改札内の空間はカフェ、レストラン、惣菜屋、本屋、化粧品店等々デパートに見劣りしないくらいの規模があり、時間はあっという間に過ぎていった。
カメラを抱えた鉄道好きで溢れるホームから男性比率が圧倒的に高い列車に乗り、山手線とは異なる視点からの車窓を見て、終点新宿で降車した。
降りたホームの向かい側に相鉄線への直通列車が入線してきた。2年前の相互乗り入れが実現するに当たり、横浜を走る相鉄がどうやって東海道本線ではないところからJRに結ばれるのか、私の頭には地図がまったく浮かんでこず、この機会に、と思い羽沢横浜国大駅まで乗ってみることにした。今回はじめて知ったのだが、羽沢にはJR東海道貨物線の貨物駅があり、鶴見の先から長大なトンネルで結ばれていた。つまり、この乗り入れは前述の臨時列車と同様、貨物専用線の使用が前提となり、実現したものであった。羽沢横浜国大駅の手前の停車駅は武蔵小杉で、新川崎や鶴見などの駅をホームが設置されていない貨物の線路を走る故、無慈悲に通過してゆく約15分間のノンストップ運転は実に圧巻だった。
ただ、隠れ資産ともいえるこうした首都圏内に張り巡らされているJR貨物専用線が旅客化され、現在のインフラを基盤として成立しているあらゆる営為に、直接的、間接的に与える影響を考えると無邪気に楽しんでばかりはいられない。
蒲蒲線の計画が一向に進まない間に、後発のJR羽田アクセス線の事業認可が下りたことが象徴するように、たかだか800メートルの距離ですら都内にイチから鉄道を敷設するとなると途方に暮れるほどの手間と、莫大な費用と膨大な時間が必要である。その一方で、JRは既成の基盤を整理、調整することで、あっさりと、グループ企業である東京モノレールはさておき、京急のドル箱路線の客の一部をもらっていくこととなった。市場経済の原理がまるで通用していないのである。
前述の品川駅での時間潰しにしても、エキナカの商売が充実するほど、利便性と引き換えにその客が地元に落とす金を吸い上げているともいえるし、遊休地を利用した駅チカのホテル経営など断じて許されていいはずがないと思う。
膨れ上がる赤字、巨大化した労組、政治家の地元への利益誘導など民営化前の国鉄が目を覆いたくなるような惨状にあったことは間違いない。しかし、余りにも振りかざした刃が大きかったため、本来は議論を尽くさねばならない民営化後のシミュレーションがざっくりな状態で置き去りにされてしまった。幼子があまりにも泣き喚いていたので、あれもこれもと与えてしまったお菓子が、大人になってプレミアがつき、それを元手に店開きをするような動きに対しては、経済原則に照らしてもう少し厳しい目で監視をしてゆくべきだと思う。

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