BSなどなかった時代、小学校への登校前に我が家でついていたテレビは日本テレビの『ズームイン!!朝!』だった。
セ・リーグの特定球団に偏ったプロ野球の情報に長い時間を割いていて、それぞれ東京、名古屋、大阪、広島から中継で地元の球団を贔屓する地方局アナウンサーや元プロ野球選手のタレントなどが勝って嬉しい、負けて悔しい素振りをしながらコーナーは進行してゆく。
大阪からの中継は当然タイガース情報となるわけだが、そこで常に虎模様の法被を纏って、誰よりも大袈裟にレポートを行っていた若手アナウンサーがいた。サラリーマンとしての分際を誰よりも弁えつつ、会社、視聴者が許容するギリギリの暴言や態度を散りばめる。そんなキャラクターがウケ、番組に欠かせない存在となっていたが、我が家ではその見え透いた狡猾さが合わず、阪神命を演じながら、きっとこの人は阪神ばかりでなく、野球そのものにも関心がないだろうとか、上司に見せる顔と後輩に見せる顔はまったく違いそうだよね、などと6歳上の兄と言いたい放題だったことを良く覚えている。
大学を出て、日本を離れしばらくぶりに戻るとピエロを演じていたそのアナウンサーがキャスターとして自らの名前を冠した報道番組の中心に座っていた。
「聖子ちゃーん」と言っていた久米宏も、「おーっと」とプロレス中継で叫んでいた古舘伊知郎もそれなりの年齢になれば年相応の役割が回ってくるので、彼もまた野心が叶い、うまく望む方向に転身したといえるのだろう。まあ、そもそも民放の報道番組のキャスターがどれだけのものか僕にはわからないが。
先日 Youtubeでその彼がTBSの報道バラエティー番組にコメンテーターとして出演した際の録画、「TBSをぶった斬る!」とタイトル名がつけられた動画を見た。大雨による堤防の決壊で大きな被害が出たとの報道を受けて、上流でのダム建築反対運動を当時のマスコミが後押ししていたことを、自身が建築容認派だったことから鬼の首でも取ったかのように得意げに非難していた。自身がメインの報道番組を持ち、そこで取り上げた無数の過去の報道を一つ一つ検証すれば、瞬間的な情報を扱う報道番組の危うさなど誰よりも認識している立場の人間が、決して取れる態度ではないし、そもそもまともな感性を持っていれば報道番組のマネジメントの一端を担う立場で、影響力の大きいメディアで込み入った現実を短い時間の中で収まりのいい言葉で表現するような、(僕からしたらクズの極みのような仕事である)報道番組のコメンテーターなどとても引き受けられないのではないか。
堀江謙一の成功から50年経った時代錯誤の「冒険」を自身の番組でゴリ押しした挙げ句、「冒険」の主人公である盲目の同行者の役にも立たず失敗して巨額の税金が使われ救い出されたことや、自身の番組のスタッフの女性にとった高圧的態度が告発されるなど、それこそ「転覆」しかねない逆風は何度か吹いたものの、それでも仕事を失わないのがサラリーマン時代に培った「功績」であるとすればその処世術から学べることは多いと想像する一方で、この不快な人物の意外な生命力そのものが保守系番組を仕切る人材が決定的に不足しているテレビ業界の現状を物語っていると言うことはできないだろうか。
長く疎遠になった兄とも、40年近く経った今、彼の番組を共に見たらこう言い合うのだろう。
「この人きっと、自分なりの信条などの元々持っているわけではなく、たまたま抜群の嗅覚で見つけた隙間が保守系番組のキャスターだったっていうところだよねえ」


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