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【挫折学】コラム⑥「がん罹患経験者としての視点から ~職場で全力を出せない『サバイバートラック』の罠~」

以前も書いた通り、私はがん罹患後、業務をセーブせざるを得ず、職場ではまったく全力を出し切ることができませんでした。それによって、キャリアアップの機会なども遠ざかってしまいました。勤務先の配慮とはいえ、職場にいる以上、ベストを尽くし、自分自身も成長していきたいと思っていた私にとって、それはもう苦しい日々でした。
 
現在、一般社団法人がんチャレンジャーでは、このような事象を「サバイバートラック」と命名し、普及に取り組んでいます。

これは、「マミートラック」という言葉をもじった造語です。そもそも「マミートラック」は、母親になった女性が産休や育休などから復職した際に、自分の意思とは関係なく職務内容や勤務時間が変わったり、その結果出世コースから外れていったりする事柄をさす言葉です。

マミー(mammy)は母、トラック(track)は陸上競技の周回コースのことを意味し、一度乗ってしまうと何周も同じコースをグルグル周り、抜け出せない働き方を表現しています。

また、対義語的に使われている「ファストトラック」(fast track)は出世コースを意味しています。

この「マミートラック」という言葉を聞き、「だとしたら『サバイバートラック』というものもあるのではないか」とふとひらめいたのです。

がん治療から復帰後、自分の意思とは無関係に職務内容や勤務時間が変わったり、その結果社内における出世コースから外れていったりする……。
まさに、私自身がそれに近い状況でした。

「マミートラック」は、復職後の女性が、幼子の対応のため、急に休んだり、帰ったりするリスクから、次のような状況が特徴として挙げられることが多いようです。

  • 急遽子どもに何かあっても現場が困らないように、軽作業や単調作業が割り当てられる

  • 上記につき、なかなか昇進・昇格のチャンスが掴みづらくなる

  • 結果、意欲のある社員のモチベーションが維持しにくくなる


これを「サバイバートラック」に当てはめるとこんな感じでしょうか。 

  • 急遽体調不良になっても現場が困らないように、軽作業や単調作業が割り当てられる

  • 上記につき、なかなか昇進・昇格のチャンスが掴みづらくなる

  • 結果、意欲のある社員のモチベーションが維持しにくくなる

 
もちろん、長く両立していく上で、こうした環境を自ら望んでいる方であれば問題はないのですが、やはり本人の意思に関係なく、「マミートラック」に乗せられてしまうのは辛いことですし、それは「サバイバートラック」も同様ではないでしょうか。
 
一方で、「サバイバートラック」が、「マミートラック」と大きく異なるのは、がん罹患者は、社内に決して多くないため、会社も本人も対策が取りづらいということ。加えて、個々によって症状や後遺症なども様々だということ。

私の場合、300名程度の中規模の企業に勤めており、前例がほとんどありませんでした。ですから人事部としても都度個別対応せざるを得ないという事情がありました。

しかも、勤務先は、私の身体に対して、最大限の配慮をしてくれた上での結果なので、本来の「マミートラック」とは意味合いが異なるかもしれません。

それでもやはり、働く以上は、キャリアアップを目指していきたいと思っていたので、それが厳しい状況というのは、なかなかモチベーションの維持が難しかったですよね。

「働くお母さん」とは異なり、会社の中に同じ境遇の人もおらず、そういう意味での孤独感もありました。
 
そして、「このままもし何かあったら絶対後悔するだろうな」と思い、社団法人立ち上げを決めました。人生いつ何が起きるか分からないのなら、自分が納得するように人生を生きたいと思いましたし、結果はともかくやりきりたいと思ったからです。

人生、すべての局面で 100%を出しきれる人ばかりではないでしょう。どんなに思いが強くても、試合に出られない選手だっています。その選手は、試合の中で 100%は出せない。でも、もしかしたらベンチの中だったり、その後の練習だったりで、要は自分の置かれた場所においては 100%出せるかもしれない。

また、試合に出ていないのであれば、その分、体力的な消耗範囲は限られているでしょうから、全体練習が終わった後に、個人練習に取り組むことができるかもしれない。

試合に出られない悔しさを書き留めておくことで、今後の自分や同じ想いをしている同僚や後輩にいつかアドバイスする準備ができるかもしれない。
「置かれた場所」というと、つい「与えられる」ものと捉えがちですが、その環境や時間を自分なりに良くしていくことは工夫次第で可能であると私は思います。

そうやって、あくまでやれる範囲でいいので、やれるだけやっておくことが、納得感のある生き方につながるように経験上思います。

(【挫折学】コラム終わり)

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