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【挫折学】コラム④「がん罹患経験者としての視点から ~現状維持すら精いっぱい~」

私自身も成長意欲は高いほうだと思います。それでも、がん罹患後は、なかなか成長意欲が持てず、苦しい思いをしました。特に、職場などでは、どうしても自分の判断や意思だけでは成長機会を求めることができないため、その環境づくりには苦慮しました。「もう成長しなくてもいいかな」と諦めかけたことも何度もあります。

また、がんに罹患すると、時に、成長どころか、「現状維持すら精いっぱい」という状況になりかねません。

私たちの法人が提唱している「キャンサーロスト」(がん罹患による機会や対象の喪失)に関するアンケート結果においても、職を失ったり、出産の可能性を失ったり、周囲との関係性が損なわれてしまったりというキャンサーロストを経験した方が、全体の8割近くもいるということが分かっています。

これだけの方が喪失体験を抱えている中で、さらにそれに付随した挫折や、その後訪れるであろう挫折を前向きに乗り越えるというのは決して容易ではありません。

がん罹患によって妊孕性を失い、出産の可能性をふいに奪われた女性がいたとします。たとえばその方が、「自分はあんなに不妊治療を頑張ってきたのに、結果としてそれが叶わなかった」という挫折感やそれに伴う喪失感を味わうとしましょう。

妊娠の可能性を喪失した悲しみに加え、「頑張ったのにダメだった」という挫折経験をしたわけです。

そんな方が、その挫折経験をバネに、すぐに頭を切り替えて何かに取り組むことが果たしてできるでしょうか。「これを成長の機会にしよう」と前を向くことができるでしょうか。仮に前を向いていこうとしたとしても、がんに罹患した事実、妊孕性が失われた事実は、その後の社会生活においても一生付きまとってくるため、健康不安とも向き合っていかなければなりません。

それでも、時が経ってくると、周りの方から、「もう●年も経ったんだから、そろそろ立ち直ったら……」などと言われるわけです。立ち直り、一歩踏み出したいのは何よりも本人です。それが分かっていてもできないから辛いわけです。

もちろん健常者の方においても、挫折を経験した際は近い感覚を持たれることもあるとは思いますが、がん罹患経験者の場合は、それ以上に成長を目指すまでの障害が多いということは事実としてあるかと思います。

(【挫折学】コラム⑤につづく)

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