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【挫折学】講義㉕「挫折経験と上手に付き合っていくために7 ~筆者の経験から言えること~」

挫折がその後の人生に影を落とす可能性があることは、ここまで触れた通りですが、とはいえ、その影をずっと引きずりながら生きていくのは正直きついものがありますよね。できることなら、そんな自分を抱えつつも、日々自分らしく生きたいとみんなが思っているのではないでしょうか。

では、挫折を抱えながらも自分らしく生きていくにはどうしたらいいのでしょうか。

もちろん明確な正解はありませんし、生き方は人それぞれだと思います。
ですから、ここから書いていくことはあくまでもヒントです。何か皆様の参考になれば幸いです。

まず、一つ言えることは、挫折経験や負の感情は距離を置こうとしても、かえって付きまとってくるものだということです。よく「○○のことを考えないようにしてください」と言われ、逆に○○のことが頭を離れなくなったということはないでしょうか。まさに挫折経験も同様です。考えないようにすればするほど、逆に、頭から離れなくなる可能性が高まります。

なので、まずは「この経験とは一生付き合っていくんだ」と決めること。つまりは受け入れるということです。

  • 「自分が目指していたことはもう手にはいらないんだ」

  • 「頑張ったけど、駄目だったんだ」

  • 「これは挫折なんだ」

とまずは現実を受け入れる。向き合ってみる。
「いや、あんな辛い想いは受け入れられない」と思われるかもしれませんが、一度試してみてください。向き合い方としては、静かな場所で頭の中で行うでもいいでしょうし、私などは書くのが好きなので、自分の素直な気持ちを一度書いてみて、それを読み直すことで向き合っていました。

向き合うこと自体も辛いかもしれませんが、たとえ距離を取ろうとしても、挫折経験はきっとあなたを追いかけてきます。ならばいっそ、自ら迎え入れてしまったほうがいいというのが私の経験上感じることです。

ちなみに、私が挫折経験をこうして語り、「乗り越えなくていい」と皆さんにお伝えしているのには、私自身ががんに罹患し、長い間、がんという病気と向き合ってきたことがきっかけになっています。

まずがんという病気は、自分の体の中にあった小さながん細胞が増殖し、そして大きな塊となって、発覚するところから始まります。

正直これは非常にショックなことですし、健康だと思っていた自分の体の中にがんがあるという事実は、最初は到底受け入れられるものではありませんでした。

しかし、たとえ受け入れられないとしても、それを取り除くためには治療しなければいけないですし、少なくともその治療期間中はがんはずっと体の中に残ったままという状況になります。

目に見えるわけではないのでその存在の大きさは、検査した画像などでしかわからないのですが、ただ精神的には常に体の中にそれがあるということで、ずっと付きまとってくるような何とも言えない感覚がありました。

実際に治療していく最中も、縮小こそすれ基本的に体の中にあるわけですし、仮に治療によってそれがなくなったからといっても、今度は「再発するんじゃないか……」という目に見えない不安がずっとつきまとってくるのです。

つまりは、罹患をしてから治療して、さらにはそれがなくなった後も長い間、物体としても、目に見えないものとしても、がんという病気はずっと自分の気持ちにつきまとってくる、そういう存在なのです。

正直私自身も、最初の頃はその状況がどうしても受け入れがたく、常に「今日、起きたらなくなっているんじゃないか」とか、「自分の体の中でこんなものがあるはずがない」といった思いから、病気という事実を受けられずにいました。

またそのことを考えないようにすればするほど、ずっと頭に付きまとってきて、寝ても覚めてもがんのことが頭の中にずっとこびりついて離れない、そんな日々が続きました。

しかし、さまざまな本などを読んでいくうちに、がん細胞というのはそもそも自分の体の一部なんだということが分かってきました。だからこそ、それを疎ましく思うのではなく、自分の体の一部としてまずは認めること。そして、これまで自分自身の体として自分を守ってくれていたものなんだという、新しい見方に気づくことができました。

そこからすぐに頭が切り替わったわけではないものの、ただ少しずつ少しずつ、その存在をまず受け入れてみよう、そして、もしできることなら、少しずつ付き合っていこう、とそういうふうに思えるようになりました。

遠ざけようとするのではなく、一定の距離感を上手に保っていこうとすることで、逆に少しずつではあるものの、存在が気にならなくなってきたという、そんな経験があります。


これはもしかしたら挫折経験も同じかもしれません。

挫折を受け入れられない、自分がそんな経験するはずがない、というふうに避けようとすればするほど、その挫折経験というのも存在が大きくなってきます。

逆に、その挫折が決して望んでいたものではないとしても、それはそもそも自分自身が目標を立て、行動を起こした結果です。自分が行動を起こしたからこそ、挫折も生まれるということで、それも自分の一部だということで良くも悪くも認める。

そういうことができてくることで、遠ざけるよりもむしろそれを自然と受け入れ少しずつ上手に付き合っていけるようになるのではないでしょうか。
 
もちろん私もがんに罹患した経験があるといっても、やはり今でも挫折というものに対して、できることなら目を背けたいときはありますし、できることならそういう経験自体したくはありません。

さらにはがん罹患後もキャンサーロストという形で挫折を経験して、本当につらく苦しい日々を過ごしてきたのも事実です。

ただそういった状況であっても、これも自分なんだということで、上手にその経験と付き合っていこうというふうに思うことができているのは、自分のがん罹患経験というところが多少は役に立ってるのかなと思います。
 
また、メディアの方などのインタビューに答えていく中で、「どうやってがん罹患経験を克服されたのですか」ということをよく聞かれます。

しかし私はそういうとき決まって、「克服はしていませんし、乗り越えられたとも思っていません。今もその環境と付き合っている状況です」と伝えるようにしています。

一見、乗り越えていると思われているような人であっても、人知れずそういうふうに悩んでいたりであるとか、後は、消化しきれずにいるということは往々にしてあるのではないでしょうか。

しかし、全ての挫折やつらい思いが完全に消化できるというのは、もしかしたらありえないことなのかもしれません。完全に乗り越えたと言い切ることもまた難しいのかもしれません。

もちろんそう思えれば、次のステップに臨む意味ではいいのかもしれませんが、なかなか社会で生きている以上、完全に切り分けるというのは難しいかもしれません。

けれどもせっかくであれば、敵として見なしていくよりも、自分の味方につけて上手に付き合っていける、そんな状況であればいいのかなと思います。
 
がんに罹患すると、どうしても健常者との比較をしてしまいがちになります。「がんにさえ罹患していなければ……」「彼らは何不自由なくやれていいよな……」と私もよく羨ましい気持ちを抱いていたものです。私自身、会社内でキャリアアップしたかったので、そういったキャリアを歩んでいる人たちを見るのが辛かったですね。

ただ、その気持ちは、健常者に対してのみならず、同じがん罹患経験者の方に向くこともあり、そんな自分が嫌になり、SNSと距離を置くことにしたのです。

その後、何度挫折を乗り越えようとしてもうまくいかないことが辛く、これ以上乗り越えようとしないように、今の自分を受け入れようと思うようになりました。

簡単にはいきませんが、それでも時間をかけていくことで、少しずつですが、受け入れていっているような感覚があります。

(最終講義につづく)

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