あさりのためなら

早くに夜ご飯を作り、食べ終わったらまだ19:30を過ぎたくらいの時間だった。だらだらとしてもいいのだけど少しもったいないかと思って夜のスーパーへ出かけた。陽が落ちればずいぶんと涼しくなる頃になった。けれど湿度が高いとまだまだ暑さ、不快感を感じてしまうなと、15分ほど歩いて浮かんだ汗をぬぐう。秋がくればいい。

閉店まで1時間を切った店内は外のワゴンがどんどん片付けられている途中でなんだかこちらも急かされるような気持ちになった。野菜がなんか高いねぇ、と話す。夏も終わりだからだろうか。うちらは貧乏だからもやしを買う。そう言ってもやしを手に入れた。うろうろとして眺め、20%オフのかつおと、40%オフのあさりを見つけてかごに入れた。さっきの貧乏はなんだったのか、でも彼氏のリクエストで値引きだからオーケーとした。明日食べればよいと考えている我々は時に値引きハンターと化す。そして安い牛乳がすべて売れてしまい、高い牛乳がこれでもかと並んだ棚を一瞥して帰った。

帰ってきて皿が全く洗われていないシンクを呆然と眺めた。かつおとあさりの下準備ができないな、と呟くと、彼氏は張り切ってスポンジを手に取った。

「かつおとあさりのためなら」
「お、おお……」
「でも毎日皿洗うために生きてんじゃないかって思う時があるんだよ」

同意した。ごはんを作ってもどうせまた腹は減るのだという事実にたまにうんざりすることがある。うんざりしすぎた時、外食とすることも多い。それでもしょうがない、これが生活なんだろう?

あさりをザルとボウルを重ねたものにあけ、塩水に漬けた。かつおは適当に薄く切って、しょうゆみりん酒しょうがにんにくごま油をいい感じに混ぜたものと一緒にタッパーで漬け込む。毎度値引きの刺身を買ってきては漬け丼のために仕込んでいる。ふたりともお気に入りだからいいだろう。

そんなことをしていたら目が冴えてしまい、なんとなくロボット掃除機を起動させ、洗濯機を回していた。このあたりの騒音問題が発生しないことは確認済だ。一通りの家事が終わってピカピカになったところで長い長い夜を終えた。

翌日あさりは昼食のあさりわかめうどんになり、夕食の蒸し物になった。かつおは漬け丼にし、途中から別でだしをとっておいただし汁をかけてお茶漬けとした。なんとも豪華な一日だった。

家でなんでも完結できる世界にきたのかなぁと思いながら、まだわたしは、ちがう世界に未練があるんだよなと思う。台風が引き連れてきた頭痛を振り払って今日も眠る。

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