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台本『鈍色のエスペランサ』0

劇団からお誘いを頂き、2011年に私がボイスドラマ用に書きあげた台本です。もろもろの事情で世に回っていない作品です。
良い機会なので、noteに残す事に致します。

文面、乱暴ですが気持ちは込めました。
ボイスドラマなもんで、主人公が内面をガンガン吐露していくし、ネタがだいぶスベッているところもありますが、それも含めて過去の私という事で案外気に入っています。

ゲームリスペクトの構成です。
気になるところを少しだけリライトしました。

全部一度に読んでも30分程度。
長い作品ではないですが、全5回にわけます。
後半を有料化いたします。

本日はさわりの部分だけ。

※作品の権利は放棄しておりません。
もし上演等で使用する場合は必ず下記アドレスにご一報下さい。
tasatou@realheaven.jp

※途中に挿入している曲名は、私の夢です。


鈍色のエスペランサ

目次
0・時に世界は平行に並んで僕を呼んでいる 中野区中野5-52-15にて
1・時に世界は不平等に重さを与え僕を惑わす 新宿区西新宿7-5-5にて
2・時に世界は忍び込み僕を囃し立てる 中野区上高田1-21-1にて
3・稀に世界は霧散して僕を走らせる 中野区中野5-56-6付近にて
4・急に世界は忘却の果てから覚醒し
   鈍色の狼煙を上げて僕と同化する 中野区中野5-55-6付近にて
5・不意に宇宙は個人へと帰結して僕を始める
   新宿区高田馬場1-35-3付近にて


●出現場所&キャラクター●

【中野区】
・マル    筋金入りのゲーオタ。得意ジャンルはシューティングと
       RPG。童顔。

・モヒカン男 世紀末の残党そっくりの不良。主な移動手段はバギー。
       口癖は『ヒャッハー!』

【新宿区】
・サク    元ヤン。現ブラック企業で働くマルの幼馴染。

・おっさん  インスパイア系の元祖大盛りらーめん屋で働く従業員。
       喋り方に特徴がある。コールに厳しい。

【砂塵渦巻く架空世界】
・マガツ(禍津日神)  ネトゲ廃人。
            ゲーム内の名前表記は『magatsuhi666』。


0・時に世界は平行に並んで僕を呼んでいる 中野区中野5-52-15にて

RPGの戦闘中のようなカッコイイBGMが流れる中、
ガサツな女性の声が聞こえる。

マガツ ホントは気づいてんだろ?壊れているのは世界じゃねえ。
    てめーはただただ宝箱を探しているだけだ。
    中の宝物の事なんて毛ほども考えずにな。

ハッとなり、現実世界に戻ってくるマル。
一瞬の静寂の後、ゲームセンターの音が戻ってくる。

マル  今日も絶好調だ。
    もっとも好調かどうかなんて関係ないのかもしれない。
    このシューティングをプレイするのはあくまでも
    バイオリズムを量る為であってハイスコアが目的なわけじゃない。
    本来、スコアは平均点で考えるものであって、
    一回まぐれで出した高得点なんてなんの指標にもならない。
    時の気まぐれが実力だというのなら、一番運のいいやつが
    一番ゲームがうまい事になる。
    そんな味気ない世界はまっぴらだ………と個人的には思っている。
    異議は認めない。

    大体、いつもこのゲームはカンストして終わりだ。
    6時間くらいかかるけど。

    案の定、自機が無限増殖し始めるバグが出てすぐに得点表示は
    ほぼ9の数字が並んだまま動かなくなった。
    正直、達成感は無い。むしろ虚無感に襲われつつ、
    ほとんど自分専用と化した席を立つ。この店は午後から開店なので
    夕方のはずだ。外に出たらもう暗くなっているかもしれない。
    宝箱の会話を少しだけ思い出して陰鬱な気分になりながら、
    僕は中野ブロードウェイ内のゲームセンターを後にした。

ドサッと椅子に腰掛ける音の後、PC(Windows XP)の起動音。
やがてキーボードとマウスの音が続く。流れ続ける無機質な音。

マル  眠ってはいけない。そう思いながら必死に手を動かす。
    しかし意識は乖離して世界を裏返す。
    とろとろと流れる秒針は時折止まり、
    希(まれ)に変わった動物に姿を変えながら
    ――なぜかアルパカが多い――
    歪みに身をまかせそうになる。
    でも、時たま帰ってくるこの世界も、ゆらゆらしていないだけで
    大して変わりはしない。気持ちのいい分、
    眠りの世界のままでいいような気もする。
    今ではどちらも夢みたいなものだ。

    だって、目覚めたら、思い通りなのだから。
    ゲームの結果も。取引の結果も。

    本日、利益が1000万を超えた。まどろんでいるうちにである。
    自棄(やけ)になって貯金を全額つぎこんだ外国為替『FX』が、
    今の僕の生活を支えている。
    でも達成感も何も無い。自分では何もしていないのだから。
    何かに困ると途端に睡魔が襲い、
    精一杯の力で恐怖から逃げ出すように覚醒すると、
    問題はすでに解決している。

    かろうじてゲームをクリアしているのは理由がつけられる。
    あれは長年の経験で培った反射だ。理解はできないけど。
    しかし、初心者の僕がFXで勝っているというのは
    まったくの想定外である。
    基本的な用語らしい「スワップ金利」や
    「レバレッジ」とかの意味すらよくわかっていない。
    いうなれば、マウスで絵を描くようにクリックしているだけだ。
    なんとなく興味を魅かれる文にポインタを合わせているうちに
    意識を失っている。

    これが生きるってことなんだろうか。
    なぜこんなことになったのだろうか。
    仕事が無くなり、時間が大量にだぶつき始めたことが
    引き金だったように思う。
    いや、無くなったというのは正確な表現じゃない。
    私が無くしたのだ。単純に仕事をクビになったのだ。

    時間はある。でも僕に新しい道は、無い。全てを捨てたい。

無音になり、マルの声でタイトルコール。

マル  鈍色のエスペランサ。

OPテーマが流れる。
『鬱くしき人々のうた』
マキシマム ザ ホルモン maximum the hormone

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