いなくなってしまったあなたへ贈る読書感想文『原作版 左ききのエレン』

前に、1部を読み終えた本作。

残念な事に私の友人がデザイン関係の仕事に従事しながら、
おそらく昨今の情勢に耐えきれず、先日この世から去ってしまった。

式は例によって家族のみらしく、加えて私の住処が都内である事を理由に丁重にお断りされた。
顔も拝めない歯痒さはなかなか味わうことが出来ない極上の怒りの味がする。

せめて文だけでも届けたくリスペクトをこめてここに記す。
これはあなたに贈る、形を変えた餞のつもりだ。


あなたに勧めてもらった漫画『左ききのエレン』を読み直した。

『何故、理解されないのか』は、才能溢るる民に共通する恐怖だ。
向こう側の偉人は我々凡人ですら『理解されない事象がある』事も『理解出来ない』。理の外にいる生命には共通言語が『知覚出来ない』のである。
我々にはそれが『全てを擲ってでも手に入れたい限りなく魅力的な事象』であっても、本人にとってはただの重いガラクタである。

翻訳とは要するにただの言語化であって、意味を把握するツールに過ぎない。
感情を分かち合うなどということは、
一瞬糸が絡まる事はあっても、本当は誰もが誰にも出来ない。

ようは頭の回転や知識の深さに関わらず、感性を磨き続ける人種は『被害妄想』に陥り易いという事なのだと、実体験を踏まえたうえで私は言いきる。

末端とはいえ芸術に携わる身として、常に配慮すべき事案が抜け落ちていた私の罪は重い。
はやく枷を外す為に徳を積み直さねばならない。
まずは心身を健康な状態に引き上げなければならない。

今は少しだけ、エレンの孤独さに浸れる。
そしていつかは癒され忘れることができる我々は、おそらく幸せなのだろう。
才を持たない我々の特権である。

生きる事が芸術なら、死ぬ事も芸術だ。
才に届かない人間が死にたい芸術に捕らえられているのと同様に、
才しか持たない人間は生きたい現実に四肢を縛りつけられている。

天才の領域でも、友人の力を借りればその本質は少しだけ垣間見ることが出来る。せめてそちらの世界では、貴方に鎖が巻きつかないよう、切に願う。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,092件

サポートしていただいたお金は全て息子の養育費と宇宙神に捧げます