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違国日記(2023 日本) 瀬田なつき

6月18日はこちらを観ました。

違国日記 (2023 日本) 瀬田なつき
@ 吉祥寺オデヲン

公開2週を過ぎたら、一気に上映スケジュールが減って焦った。
さすがに朝の上映はムリだ。
寝てない朝は得意だが、起きる朝はめっぽう弱い。
なんとか折り合いつけて飛び込んだ映画館は、未だに窓口のおねえさんに向かってガラス越しに「学生いちまい」とか言うような懐かしい映画館だった。
ゴメン、うそついた。
「シニアいちまい」だった。
もうずいぶんネット予約か券売機だけだったんだな。
ドア前のもぎりの方はチケットに赤ペンででっかくチェックしてくれた。

ジジイは話が長い。

ヤマシタトモコのマンガが原作。
この原作に関しては未読。
ヤマシタトモコは、BLから一般誌に進出するくらいまではしっかり愛読者だった。
私の中ではストーリー構成のしっかりした作家という印象。

監督脚本の瀬田なつきは、岡崎京子の同名マンガが原作の映画「ジオラマボーイ・パノラマガール」、テレビドラマの「カレーの唄」「あのコの夢を見たんです。」そして今NHKよるドラで「柚木さんちの四兄弟。」と、wikiを見たら最近はけっこう観てるね。
中高生と家族の微妙な距離感みたいなテーマの作品を中心にしてる印象。

クレジットロールが流れ始めた時、終わらないでよ、もっと続けてよと、心から思った。
130分超と割と長めの作品なんだけどぜんぜん長いとは感じなくて、朝ちゃんと槙生の暮らしをもっともっと観ていたいと、思い続けた。

割とよくある題材のストーリーではある。
若年者で両親を亡くし、なくなった親より年齢の近い親類縁者の家に身を寄せ、家族として関係性を築いていくストーリー。
是枝監督作品 (吉田秋生原作) 「海街diary」もそうだったね。
だからいいとか悪いとかじゃなく、まあ、記憶喪失になったり、不治の病だったり、家族を犯罪で失ったり、タイムリープしちゃうよりは、リアリティというか実感しやすいかな。
親はいつか必ず死ぬ。しかもほとんどの場合、自分より先に死ぬ。とても自然なことだ。
だからこそ、何か大きなトピックがなくても、日々を丹念にみせられるだけで実感が胸に迫る。

映画の中でははっきりと描かれていなかったが、槙生は実母(つまり朝ちゃんの祖母)にもわだかまりが大きいようだ。
そして、それが彼女のアイデンティティや仕事、ライフスタイルに大きな影響を与えている
それ故、自分から言い出したとはいえ、中学生15歳の朝ちゃんという突然あらわれた〈家族〉を持て余すわけだが、それはまた、実母や実姉(朝ちゃんの母。実母ではなく継母らしい)を反面教師として、ひとりのオトナとして対峙していく結果も生む。
この設定がいい。

ちょっと浮世離れした生活を送る槙生は同年代の自由人たちの中で、朝ちゃんを中学生だからと子供扱いすることがない。
思春期の、しかも今まさに両親を亡くし、なんとかオトナになろうともがく朝ちゃんにとって、この環境ほど救われることはないだろう。
だって親が亡くなった途端、黙ってMacBook買っちゃうんだよ。
そこに何があり、何を思っていたとしても、ポンと数十万の買い物を黙ってしちゃうんだよ。
親がいたらこれできないじゃん? やっぱ相談ありきだよ。
もうタガははずれてるわけだ。
親に対してどんな感情を抱いていたか具体的なエピソードはないし、彼女が母親との法的な関係性について知っていたかどうかも明らかにされることはないけど、中学生ってそういう思考と行動ができるオトナなんだ。
おもしろいよなぁ。

卒業式の日のエピソードもホントにいい。
ここは直接は触れない。

原作を読んでないから、どこまで原作に基づいているのかわからないけど、親と子の関係性、温度感というのかな、をすごく的確に捉えてるんじゃないかと思う。
ホントに仲がよくベッタリとか、完全に主従関係とかの親子関係で生きてきたら「えっ?」とか思うかもしれないが、私にはすごくリアル。
自ら会わなきゃいけない、連絡とらなきゃいけないという必要性がなければ、できるだけ近づかない。
決して断絶したいわけじゃないけど、干渉されたくはない。
ふんわり楽しく生きているようで、内面的には葛藤が急激に高まっている朝ちゃんは有無をいうことなくそんな状況にされてしまったわけだが、槙生の生き方がとても居心地がよかったんじゃないだろうか。

決して社会から孤立しているわけではないが〈孤独〉をきちんと受け入れ、曲折はあろうともしなやかに生きていこうとする槙生を演じる新垣結衣は、低い地声をいかして感情を落とし気味に、とても思慮深い表情を見せている。

とてもゆったりとした時間の使い方をしている映像は、ストーリーを追うばかりだと間延びしているように思えるかもしれないが、きちんと感情に寄り添ったカットが多く、朝ちゃんと槙生の思いを理解するのにとても重要だと思う。

いつまでも観ていたいとは言ったけど、続編が観たいかと問われればそれはあまり望んではいない。
あっ、朝ちゃんがすごくオトナになった後の話だったら、観てもいいかな。
槙生が初老に足を踏み入れた頃のストーリーだったらちょっと興味がある。

レビュー書くのに1週間もかかっちゃった。
最初に時間帯の「朝」を書いちゃったがために、登場人物の朝はちゃん付けした。ちゃん付けの是非は考慮した上で敢えてだと強調しておくよ。

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