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2021年1月に読んだ本

 1月は私にしては比較的たくさん本を読むことができた。小説が中心だが、新書や教育書を含め自分の関心がある書籍に広く触れることができているように思う。
 この「広く触れる」というのが自分の読書スタイルで(スタイルを語れるほど多くの本を読んでいるわけではないけれど)、小説ばかり読んでいるともう少しカチッとした評論を読みたいなと思うし、その逆もまた然り。片方だけだとなんだかバランスが悪いような気がしてしまう。感覚としてはご飯とおかずのおかずばかりを食べている時のそれに近い。

 色々な文章に触れて改めて思うのは、社会人になってから本が自分から遠いものになっていたという事実だ。
 特に読書を避けていたわけではないのだがビジネス文書に触れるので活字はお腹いっぱいになってしまったのか、この3年間で買った本といえばマンガを除けば技術書とダイエット本くらいかもしれない。
 新入社員時代、図書館が徒歩圏内にある社宅に住んでいたにも関わらずほとんど利用していなかったことが今さらになって惜しまれる。

 読了後は齋藤孝著『本は読んだらすぐアウトプットする』に則って「読書メーター」に感想を投稿するようにしている。
 自分が読んだ本を他人に紹介する文章を推敲するのは純粋に楽しく、感想に👍がつくのも嬉しい。加えて、他の人の感想を閲覧できるのでそういう視点もあるのかと本の理解をより深められる点でも素晴らしい。

 そんなわけで1月に読んだ本を振り返ってみる。読書メーターに上げてる感想をほぼそのまま貼り付けただけなので悪しからず。Amazonのリンクも貼ってあるので、気になる本があれば是非お手に取って読んでみてください。

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1月の読書メーター
読んだ本の数:10
読んだページ数:2307
ナイス数:160

豊饒の海 第三巻 暁の寺

著者:三島由紀夫
読了日:2021/1/9
感想:
 全4編からなる『豊饒の海』の第3編。起承転結の「転」にあたる本編は、前二編から大きく方向性が変わり、これまで観測者であった本多が主人公となり物語は進んでいく。清顕から勲、そしてジン・ジャンへの転生を目の当たりにした本多はインドへ旅行し、富を得て、叶わぬ恋をし、これまで自分に無関係と思われてきた肉慾に振り回される。
 輪廻転生が大きなテーマである本作品においてその根本を流れる仏教の思想、転生の象徴としての蛇、そしてベナレス(ヴァラナシ)・沐浴・荼毘。これらシンボルが一気に凝縮されて物語は終焉を迎える。


豊饒の海 第四巻 天人五衰

著者:三島由紀夫
読了日:2021/1/14
感想:
 全四編に渡る転生の物語は終盤に進むにつれて加速度的に醜悪の色を帯びていく。完全な醜さを持った狂女・絹江とそれを傍らにおく安永透、そして彼を月光姫の生まれ変わりと信じて養子にする本多繁邦。表面的には透と本多の対立が色濃く描かれているが、その実、彼らが各々の裡に持つ自我/自意識との闘いでもある。
 本編「天人五衰」の最終原稿を書き終えた後、筆者・三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地にて楯の会のメンバーと共にクーデターを実行し非業の死を遂げる。彼が死よりも恐れたもの、生よりも渇望したものが本作品に描かれている。


潮騒

著者:三島由紀夫
読了日:2021/1/18
感想:
 久々にキレイな(綺麗すぎる)純愛小説を読んだ。誰も死なず、血も流れず、裸になってもセックスはしない。これが三島流なのかと思って読んでいたが、巻末の解説で『潮騒』は「三島の全作品の中でも特異な位置をしめる」と佐伯彰一氏が評している通り、作者が意図的に(人工的に)美しく描かれているようである。
 都会の喧騒から離れた田舎での恋愛劇は、読者の周りには存在しない、しかしどこかには存在する(であろうと思わせる)ユートピアを彷彿させる。
 徹底的に人間の醜悪さが排除されているので読み手によっては違和感があるかもしれない。


午後の曳航

著者:三島由紀夫
読了日:2021/1/20
感想:
 ──おやすみ、を言うと、母は登の部屋のドアに外側から鍵をかけた。──一文目から何か不穏な気配を感じ、読者は一気に物語に引き込まれる。港町で過保護な母の庇護の元育てられた主人公・登は、家からも見える「船」に対して熱中する子どもらしい一面を持つ一方で、過激な思想を持つ首領を中心とする少年達の集まりにしばしば参加する。
 少年から青年への過渡期にある登と相対した位置にいるのがもう一人の主人公・竜二である。船乗りである彼と登の母との恋愛劇とそれを自分の部屋から覗き見する登の成長(変容)劇という二段構えの構造になっている。


推し、燃ゆ

著者:宇佐見りん
読了日:2021/1/21
感想:
 第164回芥川賞受賞作。まず現代ならではの情景描写が目を引く。推しがファンを殴ったというニュースにショックを受けてないか心配するメッセージが友人から届くシーンが印象に残っている──無事?メッセージの通知が、待ち受けにした推しの目許を犯罪者のように覆った──
 主人公の女子高生・あかりは人間の最低限度の生活もままならない。唯一、推しのことを綴ったブログはネット上で一定の評価を得ており、そこで友人関係も築けているが、高校生活は破綻し、家族関係はギクシャクし、推しは燃え続け、推しに依存し続けた生活は推しによって破滅へと導かれていく…


かか

著者:宇佐見りん
読了日:2021/1/23
感想:
 第33回三島由紀夫賞受賞作であり、宇佐見りんさんのデビュー作。主人公・うーちゃんによる口語体で紡がれる文章は、方言も混じってどこか生々しく叙情的、そして時に強烈である。──なんでこのひとは、しにたいしにたいといいながらしなないんだろうとうらみました。──
 SNSでの繋がりが随所で登場するのは現代小説ならでは。呟きをお気に入りしたり、気に入らない友人をブロックしたりする。母親も狂っているが、そのきっかけを作った父親も酷く醜い。主人公はそんな家族の破綻した端緒は自分にあると苦悩し旅に出るが…


JR上野駅公園口

著者:柳美里
読了日:2021/1/25
感想:
 2020全米図書賞翻訳部門大賞受賞作。ホームレスとなった男性を主人公に据え、物語はJR上野駅公園口とフクシマ、過去と現在を行き来する。
 主人公が過ごした高度成長期の東京は、経済的な発展や利便性とは裏腹に、生活や家族については犠牲を余儀なくされる側面があった。そして昨今においては天皇陛下の巡幸時に「山狩り」と称されるホームレスの移動要請が上野公園では強いられる。豊かな東京の影の部分にフォーカスが当てられており、作者が上野公園のホームレスと福島の被災者に行った長年の取材の成果がこの一冊に詰まっている。


Society5.0に向けた進路指導 個別最適化時代をどう生きるか

著者:西川 純,網代 涼佑
読了日:2021/1/27
感想:
 本書は「広域通信制高校こそが子どもたちそれぞれに合った教育を実現してくれる」といった論調で書かれているので、公教育に従事する多くの教職員を敵に回すように感じる(そのことを著者も述べている)。
 しかしながら、現状の教育現場の課題をキチンととらまえているのも確かで、それに対する一つの解決策を提示している。現役教員、並びに教員を目指す学生にこそ読んでもらいたい一冊。
 GIGAスクール構想で導入された1人1台のタブレットが電子黒板と同じ運命を辿る(トーク&チョークの指導は終わらない)という予測は鋭く突き刺さった。


ジブリアニメで哲学する 世界の見方が変わるヒント (PHP文庫)

著者:小川 仁志
読了日:2021/1/28
感想:
 タイトルに惹かれて衝動買いした文庫本。ジブリ10作品を取り上げて、一作品あたり5つずつテーマを挙げ各4頁を割いて読者に問を投げかけている。そして著者なりの「ある一つの答え」を提示している。
 構成の枠がある為、一定のペースでサクサク読み続けられるのが良い。しかしながら一方で、その枠の為にしばしば考察が不足し、また別のテーマでは余白を埋める為の妄想が綴られている。「哲学する」とは著者にとってどういう意味なのか問いたい気分になった。
 ジブリ映画をもう一度観直したい気持ちだけは読了後に残った。


どうせ死ぬのになぜ生きるのか

著者:名越 康文
読了日:2021/1/29
感想:
 行・瞑想の入門書。タイトルにインパクトがあったので思わず手に取ってしまった。「仏教心理学」をベースに「行」(滝行とかの’’行’’)「瞑想」「方便」が人生にもたらすポジティブな側面について精神科医の観点から述べられている。タイトルにある問いについて答えが記述されているワケではない。背筋を伸ばしゆっくりと呼吸をする、それだけでも一つの行であり、そうした時間を一日の中に作り優先順位を上げて実践をすることで「心の基準点」を上げることを推奨している。病みがちな自分の腑に落ちる部分もあり生活に取り入れてみようと思う。

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 ひと月でこれだけ書に触れられたのは本の虫になっていた小学生の頃以来かもしれない。願わくはこの習慣を細くでも長く続けていきたい。
 三島由紀夫小説と宇佐見りん小説については読書メーターに投稿できる字数制限の関係で省いてしまった箇所が多くあるので、折を見てまたnoteの記事で取り上げようと思う。

 ちなみにこの記事のヘッダーの写真は、私の枕元に並べてある積読本だ。さっさと消化しなくてはと思いつつ、どんどん増えてしまっているのが現状で、ひとまず文庫本だけでも早く読み切ってしまいたい。

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