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2021年4月に読んだ本

 誰もが名前を聞いたことのある名著から2010年代の芥川賞受賞作から人気声優のエッセー本、そして医学系書籍、と全くのまとまりのない書籍7冊に手を出した4月。出会いの季節ということもあり(?)いろんな知見に出会うことができた。

 特に興味深く読んだのは、川上未映子著『乳と卵』と、宮岡 等,内山 登紀夫著『大人の発達障害ってそういうことだったのか その後』の二冊。

 『乳と卵』は三日間という短い期間での出来事であるにも関わらず、登場人物の成長と葛藤、そして繊細ながらも荒々しい描写が心に深く残る物語だった。女性に生まれてきたことの苦悩や女性ならではのコンプレックスを抱える人物を、その内面まで丁寧に描いている。女性作家らしい切り口と言ってしまえばそれまでだが、その裏側には今ほど表面化されていなかった2010年当時のジェンダー(性差)があり、生々しい思春期の悩みなどは一読の価値がある。

 『大人の発達障害〜』は2013年に発売された前著『大人の発達障害ってそういうことだったのか』の続き物で、当時から変更の加えられた概念やその後に起こった出来事などが多く語られている。実は前著も未読なのだがアップデートされた現在の分類や見解を理解する方が早かろうと思い、”その後”を読んだ。近年、急速に概念と理解が広まってきた発達障害だが、いまだに精神障害と発達障害の見極めは難しく、発達障害に対する理解が浅い精神科医の場合は誤診を起こしがちだと語られる。重要なのは子どもの頃に忘れ物が多かったか、友人や恋人はいたか、不登校ではなかったかといった発達歴や生活史のヒアリングだが、大人の場合子どもと違って、読んだ本や自分で調べた情報をもとに”修飾”をしてしまうので子どもの診断よりも難しい。加えてややこしくさせているのが社会的な要請による”便宜的診断”で、「うつ病が治らないから発達障害があるからだ」という医師や「業務指導して態度や行動に変化が見られないのは発達障害だからだ」という会社の上司の存在がある。もっともこれは子どもの発達障害にも言えることで、発達障害を理由にしておけば親がしつけの責任から解放されたり教師が自分の指導力不足から目を背ける言い訳になる。かなり闇の深い話だが、個人の”脆弱性”を訓練するよりもストレッサーの変更や軽減など環境調整を行うことが重要であるという結論で締められている。

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2021年4月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:1719ページ
ナイス数:278ナイス

■伊豆の踊子 (新潮文庫)


なかなか解釈に時間のかかる、難しい1冊だったと感じた。第一章「伊豆の踊子」から始まって、第二章「温泉宿」第三章「抒情歌」第四章「禽獣」と続いていく。各章が連続した物語というワケではないが、それぞれが''踊り子''というキーワードで結びついている。特に印象に残ったのは「抒情歌」である。女の一人称視点で物語が紡がれる「抒情歌」は、現実のことなのかあるいはこの女の妄想、あるいは夢なのかがいまひとつピンと来ず、なかなか入っていきづらい。あるいはその入って生きづらさ故に立ち止まってじっくりと読まさせられた。
読了日:04月05日 著者:川端 康成

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■乳と卵 (文春文庫)


宇佐見りん著「かか」に強烈な印象を受けたので、近い系統だと聞いた本作を手に取ってみた。思春期の娘・緑子の母への愛と怒りがまぜこぜになった感情と行動を、叔母・夏子の一人称視点を通して一遍の物語に仕上げている。その語り口は方言も混じって独特で、濃い。その「濃さ」は、改行をほとんど使わず一頁あたりに多くの文字数を詰め込む文体によっても強調されている。終盤のシーンは圧巻で、息をするのも忘れるくらいにのめり込んで読み進めてしまった。こういう読書体験は物凄く気持ち良い。感動した。
読了日:04月06日 著者:川上 未映子

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■仮面の告白 (新潮文庫)


三島由紀夫の半自伝的小説であると自他ともに評されるだけのことはあって、著者の根底にある「死への渇望」「純愛の輝き」「逞しい肉体への憧れ(肉慾)」が深く描かれている作品だ。戦争を起因として生命を落とすことは三島の根源的な願望だったのだろう。それは病に伏せがちであった三島の実体験に基づく繊細で純粋な希望であり、他作品『金閣寺』でもその熱烈な想いを表している。 三島が今の時代に生きていればどう男色を描いただろう。ジェンダーフリーの時代において本作品の持つ意味合いや役割というのは少しずつ変化していくかもしれない。
読了日:04月11日 著者:三島 由紀夫

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■林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力


エヴァとコナンの劇場公開とマンキンのリメイクとが重なるこの時期に林原さんの本が出版されたので読むしかないと思って読んだ。以前も林原さんのインタビュー本を読んだことがあるけど、本当に声優という仕事に熱心で、またその仕事を愛しているんだろうなと思う。人柄も本当に良いんだろうなというのが、自分が演じたキャラを熱く語るその口調や、そこにまつわるエピソードからビシビシと伝わってくる。驚いたのはポケモンに出てくるロケット団の去り際の「やなかんじ〜!!」。あれが最初はアドリブだったという事実。運と才能と努力と愛の人だ。
読了日:04月15日 著者:林原 めぐみ

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■命売ります (ちくま文庫)


起承転結が美しい。「命売ります」という新聞広告を出す冒頭。色んな客が訪れる序盤。売るのをやめてしまう中盤。逃げる終盤。死を恐れない主人公・羽仁男の「命」あるいは「生」に対する思いが、客との出会いによって刻々と変化していく様が面白い。命が惜しくないのに、何度も命の危機を乗り越えてしまう話を目の当たりにして読者は「次はどんな生き延び方をするのか」あるいは「今度こそ死んでしまうのではないか」と次第に主人公の死すら願うようになってしまう。後半は伏線回収や著者の「生にしがみつく男」に対する皮肉もあり若干読みにくい。
読了日:04月19日 著者:三島 由紀夫

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■29歳からの人生戦略ノート


自分も20代後半になって、今後の人生をどう生きるか、さしあたっては30代をどう迎えるか悩んでいた時に出会った。自己啓発本とハウツー本のハイブリッドみたいな一冊。 内容としてはノート術やメモ術の枠を越えないが、例えば''PDCAサイクルを「C」から始める''だとか''一日一行できたことを書く「成功日記」を毎日続ける''だとかそういうつい真似したくなるテクニックが書かれており、実践したくなった。 若手から中堅に差しかかり、会社の中で役割や責任が与えられる世代には刺さる部分も多いのではないかと思う。
読了日:04月23日 著者:金田 博之

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■大人の発達障害ってそういうことだったのか その後


長年、子どもだけのものと思われていた発達障害。近年は様々なメディアでも取り上げられ、「大人の発達障害ブーム」が起きているが、誤った情報の拡散や安易な診断に継承を鳴らす一冊。 ネットに転がっている発達障害診断ツールやDSMの記述のみで障害の有無判断してしまう「過剰診断」もあれば、統合失調症や不安障害といった精神障害と判断されて、見逃されてしまう「過小診断」も起こっているのが発達障害の難しい所である。 障害を''個性''と割り切ってしまうと「個性に税金を使うのか」という意見が出てくるという話は目から鱗だった。
読了日:04月30日 著者:宮岡 等,内山 登紀夫


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