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最後に笑ったやつの勝ち


その日柴田秋斗が学校帰り、ガリガリ君を齧りながらチャリンコを漕いでいると、河川敷でまあ見事なイジメ現場ってやつに遭遇した。1人の小学生くらい男の子が3、4人の同じくらいの男子たちに囲まれている。体のでかいガキ大将みたいな奴が男の子を突き飛ばした瞬間、

「お前ら何やってんだ!!」

と、自分でも思いがけずでかい声で叫んでしまい驚いていると、虐めていた男子たちも大人にイジメの現場が見つかったことにきまりの悪さを覚えたのかすたこらと逃げていくところだった。秋斗は追いかけるか一瞬考えたのち、チャリンコを道の端に停め男の子の元へ駆け寄った。


「おーい、大丈夫か!」
小学校高学年だろうか。しかし小柄で今にも折れてしまいそうな手足を見て秋斗は少し昔の自分を思い出した。地面に尻もちをついている男の子が秋斗を見る。彼は少しびっくりした顔をしたのちゆるゆると笑顔を見せると、
「ありがとうございます」と弱々しく言った。

男の子がびっくりしたのも無理はない。秋斗は金髪、両耳合わせて10個のピアス、Tシャツにトラの刺繍のスカジャン、ジーパンという厳つい見た目だったからだ。しかし、いじめっ子たちを退散させ、人懐こそうに笑いながら声をかけてきた彼は多分悪い人ではないとそう判断したのであろう。

「怪我は?どっか痛いとこないか」
「あの大丈夫です。ありがとうございます」
「お前、いじめられてんのか」
「あ、その、、あ、はい…」
「ははっ、結構きちーよなー、複数人とか勝てねーし、親にも言えねーしよー」
秋斗がそう言ってくしゃっと笑う。
「お兄さんもいじめられたことあるんですか?」
おずおずと男の子が尋ねる。
「あるある!俺、小学生の頃1番チビでさー。でもドッジ強かったから結構モテたの。でもそれ気に食わなかった奴らに毎日突き飛ばされたり足引っ掛けられたりランドセル踏まれたりとかして。でもあるとき、隣のクラスの大地っていう奴がさ、そいつはまあまあ体デカかったんだけど俺いじめてた奴らに『だせーぞ!』って言ってやめさせてくれて、そんでまあいじめられること無くなったんだけど」
「へー、ヒーローみたい」
「だろ!だからほっとけなかったんだよ、お前、昔の俺に似てたから。」
「…。」
「男だし、やり返せたら1番良いんだろうけどさ、やっぱ人多いとそう簡単にやり返せねえし、でも助けてとか言えねーじゃんなかなか」
「うん。」
「だからさ、余計なお世話かもだけど俺とかみたいな奴が、お前みたいにやられてるのみたらせめてさっきみたいに声かけるとかしなきゃって思ってーーって、おい、どうした?!」
見ると、男の子はぽろぽろと涙をこぼして泣いている。
「あの、ぼ、ぼく、僕は運動、得意じゃなくて、走るのとかも苦手で、で、馬鹿にされてて、悔し、悔しいけどでも、早くとかなれないから、」
「おうおう」
涙と一緒に男の子の溜まってた我慢の数だけ出てくる言葉を秋斗は背中をさすりながら静かに、時折相槌をうちながら聞いていた。

ひと通り男の子が喋り終わって涙も止まり始めた頃、秋斗が口を開いた。
「お前は悪くないじゃん。だから堂々としてれば良いし、やられたら先生に言ってやれ。そんでもやられたら俺が敵討ちしてやる」
「うん」
「お前、名前は?」
「健太」
「けんたか。お前今、いくつ?」
「小5」
「ピッチピチーー!俺は秋斗。柴田秋斗、高校2年」
「高2だって若いじゃん、あきとさん」
「いいよさん付けじゃなくて。友だちには秋斗とかあっきーとか呼ばれてるからさ、けんたも好きに呼んで」
「じゃあ…あっきー」
「おう。けんた、お前笑うと良い顔してんなあ」
「え?」
「泣いてるより笑ってる方がずっと良いぞ。笑え笑え。そんでたまーに泣いて強くなれ」
「泣くのはちょっとなー」
「たまになら良いんだよ、男が泣いたって」
「ふーん」
「あ、そろそろ暗くなってきたなー。けんた家どっち?送るよ」
「あっち」
「OK。じゃあランドセル貸して。俺のカゴに乗っけちゃうから。」
「ありがとう」
「どういたしましてー」

夕暮れの河川敷を歩いていく。河川敷から10分もかからず、あっという間に健太の家に着いた。
「じゃああっきー、ありがとう」
「おう、帰ったら手洗いうがいしっかりな」
「あっきー、お母さんみたい」
「ばーか」

なんて互いに軽口を叩きながら楽しそうに笑っている。落ち着いた頃、健太が秋斗に声をかけた。

「ねえ」
「ん?」
「また会える?」
「おう!会えるよ!」
「あっきースマホ持ってる?」
「うん」
「連絡先教えてほしい」
「いいよ、健太持ってる?」
「うちの中に置いてある」
「じゃあ持っておいで、ここで待ってるから」
「わかった!」
そういうとくるりと家の方を向き軽やかにドアを開け大きなただいまの声とともにパタパタと中に入っていく。そうして片手にスマホを携えすぐに外に出てきた。
「じゃあふるふるで」
「うん!」
「お、きたきた。」
「僕も!」
「よし。じゃあ、俺もそろそろ帰るわ。またな健太」
「うん、あっきーまたね。あの、僕、連絡してもいい?」
「おう!いつでもOK!」
「わかった!」
「寝てたらすまん」
「あはは!うん、大丈夫!」
「ありがと!バイバイ」
「バイバーイ」

夕暮れのアスファルトに自転車を漕ぐ秋斗と標識の影が伸びている。健太は自転車を漕ぐ秋斗の背中を見送った。そして、その影が見えなくなると先ほど交換したメッセージに「ありがとう」と「これからよろしくね」のスタンプを送った。


作・中神真智子

2020/3/30の夜中にTwitterで募集したリプライのお題で小説を書くシリーズ、第4段!今回は質問箱で戴いた『チャラ男×男子小学生』です。載せたとこだと見た目しかチャラさ無くなってしまった。もし今後展開して高校の様子とか書いたら秋斗のチャラいところ出てくるかもしれないね!書く予定は未定だけど!!てことで、次回もお楽しみに!

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