MTGスタンダードが高くはない理由

この記事は、ゼンディカーの夜明け~兄弟戦争期のスタンダード環境で書かれているので、環境が進むと事情が変わっている可能性があります、それを踏まえてお読み下さい。
 
 

「MTGのスタンダードは本当に高いのか?」を検証するため、2022年12月中盤の、うちのお店のスタンダード大会2回の参加者のデッキレシピを調査し、価格を調べさせてもらった。

 
12月8日(木) スタンダード大会  10人参加
参加デッキ:白青黒ミッドレンジ、白青兵士、白青フラッシュ、青黒コントロール、黒赤アグロ、黒赤ミッドレンジ、白黒ミッドレンジ、青赤アーティファクト、赤単バーン、白青黒緑ローム
 
12月11日(日) スタンダード大会ゲームデー 10人参加
参加デッキ:白青黒ミッドレンジ、青赤緑ミッドレンジ、青赤黒ソルカナー、白青フラッシュ、白青コントロール、黒赤アグロ、黒赤ミッドレンジ、白黒ミッドレンジ、黒緑アグロ、赤単アグロ

 
デッキの平均価格は、8日の方が34140円、11日の方が38641円。
兄弟戦争リリース後の、比較的環境初期でのwisdom価格最安値ベースでの計算となるので、実売価格はこの2割前後の幅で考えていただくといいだろう。
最高値は70000円代、最安値は2000円台と、価格には幅がある。
 
 
まず、高いとは、何と比較して高いのかという基準を明確にしないといけない。

①自分の財布の中身やTCGという概念
②他の趣味との比較
③他のTCGとの比較
④他のレギュレーションとの比較
⑤MTGアリーナとの比較
⑥年代での比較
⑦個別のカードでの比較

これらを基準として、順番に検証していく。


①自分の財布の中身やTCGという概念
何かを比較するに際し、データではなく、個人の主観やお気持ち表明を持ち出されたらきりがないので、これは除外。
「たかが紙にそんな大金を!」だとか「自由に使えるお金が自分にはない!」を、=高いと否定されてもね、というお話。
他の比較でも言えるが、相手の価値観は理解できなくても尊重はできるわけで、それが欠けていれば余計な軋轢を生むだけである。
だが残念ながら現代社会では、相手の趣味を否定することは、無料でできるそれなりに刺激的な行為というエンタメになってしまっているケースも多い。
例えば、ショップで楽しく遊んでいる人たちに、そんなものは金の無駄使いだとか、今どきスタンダードなんかやるかねと、ケチをつけてくるおじさんがそれである。
本人はさぞかし気分がいいだろうが、エンタメが本来の用途目的とは違うそういう形で消費されるのはよくない。

②他の趣味との比較
趣味に割かれるお金の平均値は、一般的に手取りの10%程度とされており、1シーズンごとに平均36000円台のデッキを乗り換え・追加すると想定し、そこにショップの利用料や交通費などを含めても、毎月想定される金額は、平均15000円程度。
MTGのスタンダードは、趣味としてはごくごく平均的な消費と言え、少なくとも驚くような金額ではない。
もちろんこれはあくまで「趣味として紙のスタンダードのみをやるだけなら」の話ではあるが。
現代は、基本無料のスマホゲームをはじめとして、安く手軽に始められる趣味は多いので、それらと比べればもちろん高い。

③他のTCGとの比較
「ポケモンカードの方が安いですよ」とかよく言われるが、それはそう。
比較対象にさらに「蟲神器」とか持ち出されたらどうしようもない。
たしかに他のTCGと比べたら、MTGスタンダードは高めの部類である。
ゲーム性は最高と自信を持って言えるが、コスパ面まで含められてしまうと、最高とは言い切れるかは何とも言えない。
ただゲームをコスパだけで推し量るのは、ゲームを単なる暇つぶしの1つと捉えている場合であり、メインでプレイするTCGを暇つぶしの1つとして捉える人は少なく、出せるお金の範囲でもっとも面白いと思うものが選ばれると思うので、この比較はあまり意味を成さない。
それよりも、近所にそのTCGのそのレギュレーションのプレイ環境が整っているか、なければ協力を取り付けられる場所があるかどうかの方が重要だろう。

④他のレギュレーションとの比較
MTGの競技レギュレーションには、主に「パイオニア」「モダン」「レガシー」があるが、同系のイゼット系デッキの価格を調査したところ、パイオニアはスタンダードのデッキ価格とほぼ同じで、モダンは2倍、レガシーは10倍の価格差があった。
毎週の頻度で、年間通して同じデッキを使い続ける前提で遊ぶのだったら、パイオニアやモダンはスタンダードより割安になる可能性はあるが、それ以外の条件では、データ上特に安くはないことがわかる。
これは嗜好のウェイトも大きいと思っており、下環境の同じデッキを使い続けるのが楽しい人と、スタンダードのローテーションによる環境変化があるのが楽しい人、これはそもそもが楽しいと思っている部分が違うと考えられる。
前者はローテーションを価格面のマイナス要素だとしか捉えていない場合、後者は同じデッキを使い続ける楽しさが理解できない場合もあるので、嗜好を踏まえないと価格問題は水掛け論になりがちである。

基本的に下環境のプレイヤーが口にする「スタンダードは高く、下環境は割安」はデータ上いささか無理があるか、下環境のカードが安かった頃、例えばデュアルランドが10000~20000円で買えたような時代の、古い価値観を引きずっているだけである。
また、スタンダードほどではないが環境変化が起こりデッキの乗り換えも必要となるパイオニアは、比較的安く参入し易いというイメージが先行しているだけで、実際にはローテーションを経験したスタンダードプレイヤーが参入するケース以外では安くはならない。
つまり、価格の安さを引き合いに出して下環境へ誘引している言説は現状デマに近く、基本的にはショップを経由してメーカーにお金が落ちるスタンダードをストレートに推すべきだと思うし、下環境プレイヤーは今のような価格面の誤った情報で誘引をするのではなく、堂々とそのレギュレーションがゲーム性で優れていると思っている部分を引き合いに出して推すべきだろうと考える。

⑤MTGアリーナとの比較
MTGのスタンダードが基本無料でプレイできるアプリ「MTGアリーナ」が登場したことで、現在は無料でスタンダードを楽しむことができる。
家で無料でできるのだから、紙でやるスタンダードは高い、という理屈は一見通るが、そこまで単純ではない。
紙には、コクレクション性、対戦相手の息遣い、リアルで勝ち上がっていく高揚感、仲間との生の構築談義など、ショップなどでプレイ環境さえ整っていれば、アプリでは味わえないことも多く、アプリはさらなる楽しさを引き出すエッセンスとして使われる。

また、紙とMTGアリーナでは、カードを集めてデッキを作る労力がかかる箇所が違い、アリーナでは、紙で高額なカードが簡単に手に入るのに対し、安いレアをたくさん手に入れるのが難しく時間がかかる。
一方紙では、高額なカードを手に入れるには出費が痛いが、安いレアは簡単に手に入りすぐにデッキが組める。
後述するが、スタンダードで高額なのはほんの一部のレアや神話で、他の大半のレアや神話は安い。
ゲーム性の部分さえ楽しめればよい、という場合はアリーナで十分だが、基本的に紙とアリーナは楽しむ軸が少し違うので、別物だと考えた方がいいだろう。
紙をやるということは、ゲーム性以外の部分も加味して選択されている。

⑥年代での比較
「最近のMTGのスタンダードは高い」と言う人がいるが、おそらく単に昔のことを忘れてしまっているだけである。
スタンダードのレアの平均シングル価格については、10年前20年前と比べると安くなっており、パックの価値=スタンダードのゲーム性の金銭的価値の下落に歯止めをかけるために、メーカーは下環境のカードを入れたり、絵柄違いとして日本の絵師を起用したり、など、ゲーム性の価格以外の部分で補完している状況である。
(ゲーム性以外の部分で価値を補完しようとするのは、国産カードゲームではごく一般的な手法であり、MTGが長年手を付けてこなかった分野とも言える。)

MTGスタンダードは、およそ20年前となる2000年前後が、もっとも地域大会の参加人数が多かった時代だと思うが、その年の世界選手権のデッキを見てみると、
「スーサイドブラウン」「アングリーノンハーミット」「トリニティ」「パララクス補充」「タングルストンピィ」などのデッキが活躍していた。
採用カードの「マスティコア」「リシャーダの港」「ガイアの揺籃の地」は3000円級、
「厳かなモノリス」「からみつく鉄線」「極楽鳥」「神の怒り」「ハルマゲドン」「ヨーグモスの意志」「ヨーグモスの取り引き」「スランの採石場」
「はじける子嚢」「黄塵地帯」「補充」「パララクスの波」「オパール色の輝き」「各種ダメージランド」あたりは1500~2500円くらい(細かい価格はうろ覚えではあるが)、
デッキの平均価格は当時の方が高く、基本的にこの平均は20年間で大きくは変動していない。

また、昔は各デッキの価格幅が狭かった。
当時はカードパワーの平均が低く、一部突出したパワーのカードがデザインされていた時代。
カジュアルなローグデッキでも、「リシャーダの港」4枚なければゲームの舞台にすら上がれなかったり、今では考えられないことだが、ダメージランドが2000円前後したので、ローグデッキであろうが、基本的に20000円からのスタートだった。

一方、うちの大会の最安値のデッキは2000円台であり、当時はこの価格では文字通りの紙束しか組めなかったが、現代はカードパワーの平均が高く、大半のレアが、どれも突出したパワーを持つカードの少し下あたりの強さのデザインを持つ。
だが、一線級でない、時には一線級でもあっても下環境では使われない、という理由で、大半が30円で手に入るし、現在再録されているダメージランドは今や100~200円前後なので、現代ではこの金額であっても、十分遊べるデッキは組めるようになっている。
興味を持っている人が、大手ショップが売っているTierの一番高い構築デッキの価格を見ただけで、=MTGスタンダードは高い、という判断をされてしまうことが多いが、それは早計である。

⑦個別のカードでの比較
「昔はカードはそんなに高くなかった」と言う人がいるが、これも単に昔のことを忘れてしまっているだけだろう。
たしかに現在スタンダード最高値の「黙示録、シェオルドレッド」は12月現在6000円ほどする。
ただ初動に3000円以上、高騰時に5000円以上するカードはこれまで歴代の環境に存在していて、近年高いカードが出現し出したわけではない。

神話レア登場以降の2010年代の販売データを引っ張り出してみたが、
例えば2010年に発売された基本セット2011の神話レアでは、槌のコス、エルズペス・ティレル、滞留者ヴェンセールが初動でそれぞれ4500円、4000円、3500円している。
2011年発売の基本セット2012の炬火のチャンドラは初動4000円、
2012年発売の闇の隆盛のイニストラードの君主、ソリンは初動6500円、
同年発売のラヴニカへの回帰の思考を築く者、ジェイスは初動4500円、
2015年発売の運命再編の精霊龍、ウギンと僧院の導師は初動4000円、
同年発売のタルキール龍紀伝の卓絶のナーセットは初動4500円、
2016年発売のカラデシュの反逆の先導者、チャンドラが初動4700円。
初動が高かった大半はプレインズウォーカーで、1ヶ月後には半額ほどで落ち着くパターンが多かったわけだが、それでも昔の初動価格の方が派手だったことがわかる。

シーズン中に5000円以上に高騰したカードに関しても、「精神を刻む者、ジェイス」「雷口のヘルカイト」「ヴリンの神童、ジェイス」「ドミナリアの英雄、テフェリー」など、こちらも歴代の環境に存在するわけで、これもまた、ここ数年そういうカードが多くなったわけではない。

最高値域のカードにほぼ変化はないのだから、安くなっている低価格域のレアカードの方にこそきちんと注目すべきだろう。
神話レア登場以前はもっと安かった、と主張する人もいるが、先述の2000年前後の環境の高価格帯のカードの種類数をみてもわかる通り、昔はかなりの数があったが、神話レア登場以降の2010年代では、2000円以上するレアカードは、黒緑系の除去やフェッチランド以外ほぼ見られなくなった。
 
現在の兄弟戦争期のスタンダードは、1000円以上のレアが十数種類と比較的多い環境だが、大半がスタンダード評価基準ではなく、下環境需要による価格となっており、使用率が低いカードや、勝率への影響が高くはないカードが多い。
 
 
 
ここまでの比較の検証で、スタンダードが高いという誤解が緩和された人、それでも高いと感じた人、それぞれいるだろう。
ここからは、現在の環境で、初参入の段階で、具体的に投資を安く仕上げる方法について解説していく。

①一番高いTierデッキを買わない
②一番安いTierデッキを買わない
③wisdom-guildを活用する
④カードは必ず安い方から見る
⑤カードにもコスパの概念がある
⑥必須なパーツと勝率を1%でもあげるパーツを区別する

 

①一番高いTierデッキを買わない
まず、大手ショップが売っているTierの一番高い構築デッキを脳死で買うのは、現在の環境ではおすすめしない。
強力なコンセプトを持つデッキなら、買ったらストレスなく勝てて楽しい、となるので、カードゲームにおいて勝つのが目的の人ならば、高くてもまず買って参入してみる価値はあるのだが、前環境のTierの、黄金架のドラゴンとアールンドの天啓が入ったイゼットデッキ、のような、多くのデッキに有利を取れる強力なコンセプトが、現環境には存在しない。
今のTierデッキは、相性差などに左右されてしまい、買っても思うように勝てないと思われる。
(そういう環境だからこそ、裏を返せば、今は禁止カードが1枚と少なくて済んでいるとも言える。)
最高値のTierデッキを買って、勝ち越しを狙える程度の戦績しか出せず、スタンダードをクソゲー判定されるのは避けたい、よっておすすめしない。

②一番安いTierデッキを買わない
初心者が、一番安いTierデッキを買うのもおすすめしない。
この価格帯だと、おそらく形になっている単色デッキ、というところだろう。
ゲーム性を楽しむという本質部分が薄い構築デッキであり、これで勝った負けたでゲーム性の楽しさは推し量れないので、そこでたいして面白くないゲームという判定をされるのも避けたい。

このデッキを購入して最適なのは、復帰組である。
コミュニティーや現環境の調査のため、とりあえず形になっている安い出来合いのデッキを買って近場の大会に出てみる、というケースでは、有効に活用できるだろう。

③wisdom-guildを活用する
wisdom-guildとは、価格表が紐付いた、高性能なカード検索システムである。
こういう便利なサイトが存在しないTCGの方が多く、MTGは恵まれていると言え、これだけでもこのゲームを推す価値はある。

逆に言えば、カードの価格や推移がデータとしてわかるわけで、スタンダードが漠然と高いと言ってる人は、ちゃんとデータを見ていない、紙のスタンダードをプレイしていない人間、であることがわかる。

カードの価格を調べたいとき、おそらく在庫が豊富で絵柄が紐付いているということで、特定の大手ショップのシングル価格を基準にする人も多いが、最安値のショップの1.5倍することもある。
カードの価格を調べるときは、セットの最安値のシングル価格をソートできたり、価格の推移グラフを見ることもできるwisdom-guildを、まずは最優先で確認すべきだろう。

④カードは必ず安い方から見せる
スタンダードの一番高いデッキやカードを見せられたり、話を聞いたりして、このゲームはこんなに高いのかというイメージを持ってしまい参入を断念した、というのはよく聞く話である。
どんな趣味においても、これから始めようと思っている人に最高値の品物から見せるのは逆効果だし、一番高いものではなく、コスパのよいものからおすすめするのは当然だろう。
初めての人でもブラックロータスの存在は知られているので、手が出ないゲームだという印象に転ぶのは簡単である。
これから始めようと興味を持った人には、安いカードから順に見せるべきだろう。

特にアリーナでの体験が済んでいる人は、カードの強さと効果がある程度はわかっているので、スタンダードのレアカードの価格を一通り見せれば、高いカードはほんの一部であり、全体的なカードの安さの方に驚くはずだ。
高いカードから見せた時の反応と違って、こんなに安いなら始めてみようかな、という逆の言葉が聞けるようになるはずだ。

⑤カードにもコスパの概念がある
アリーナと同じデッキを紙で再現して参入してみようと思った人が、大手ショップでシングルをカートに入れて価格に仰天してあきらめた、という話を聞く。
これは、=スタンダードが高いということをあらわしているわけではない。

カードにはそれぞれコストパフォーマンスがあるわけだが、自分が今のスタンダードは安いと言っているのは、スタンダードで強い=高い、というパフォーマンスの法則が崩れているからだ。
先述の通り、下環境で使われているかどうかが、価格に与える影響がもっともウェイトが高い部分となっており、スタンダードでは、スタンダードの強さや実績に反して安いカード、高いカード、というのはたくさん存在する。

黙示録、シェオルドレッドはたしかに優秀なカードだ。
緑を超えるスタッツに加え、攻守に優れた実質的なドレイン能力。
だが兄弟戦争で喉首狙いが収録されたことで、いとも簡単に除去されるようになった。
シェオル自身は除去耐性もなく、アドバンテージが取れるカードでもない。
勝率に与える影響を考えて、果たしてこのカードのコストパフォーマンスはどうだろうか?

ファイレクシアの肉体喰らい。
このカードは12月末現在3000円ほど。
肉体喰らいの試作プレイと同じ3マナ域の、墓地の侵入者。
単純にどちらのカードが強いかを、現役のスタンダードの現役プレイヤー聞いたら、2:8で後者が強いというと思われる。
後者を現スタンの黒3マナ域の生物最強にあげる人もいるだろう。
でも墓地の侵入者は12月末現在300円。
これでも高くなった方で、よく使われるカードだったにもかかわらず、長年30円で売られており、さらに構築済にも入った。
もちろん、採用には環境での除去耐性やシナジーも影響するので、単純比較はできないが、コストパフォーマンスという面ではどうだろうか?

経験者なら、自分がどういう楽しみ方に向いているか?と考えた上でゲームに向き合っているはずなので、コストパフォーマンスを無視し、1%でも勝率をあげるために購入する方が自分のゲームの向き合い方としては得と考える、という選択をできる。

一方で、始める前のプレイヤーは、まだその判断ができていないし、カード自体のコストパフォーマンスもまだよくわからないだろう。
高額カードを買ったり、参入をあきらめる前に、カードにおいてもコストパフォーマンスという概念は存在し、現在は値段と強さは必ずしも比例しているとは言えないレギュレーション、ということは、認識しておいた方がよいと思う。

⑥必須なパーツと勝率を1%でもあげるパーツを区別する
デッキにおいて、代わりの効かない必須パーツというものがある。
例えば、鏡割りの寓話は他にない代わりの効かないカードだ。
収録直後は100円だったこのカード、今3000円払っても購入する意味はあるだろう。

一方、2色デッキに入っているザンダーの居室は?
サイドに1枚だけ挿されている未認可霊柩車やプレインズウォーカーは?
これらは、コピーデッキのレシピを再現する上で必要かもしれないが、勝率を1%でもあげるパーツであり、必須パーツとは別枠である。

Tierデッキの価格のうち、この1%でも勝率をあげるためのパーツは、結構な割合を占めていて、デッキの核となる部分に関してはもっと安い。
1%の部分は、デッキに慣れてきた頃に、調整しながら詰めていくパーツである。
これから始める人にとっては、まずはその部分を省いて、デッキの本丸の部分だけを完成させた方がいいと考える。
初心者が出来合いのTierデッキを購入するのを避けた方がいいのは、この1%の部分が漏れなく付いてきてしまうからである。


MTGスタンダードは高いと言う人は、だからやる気が起きないだとか、人にやめた方がいいだとかしか言わないのだが、本当にゲーム性の面では楽しいと思っているのなら、どうにか工夫して安く楽しもうとする方向に考えるはずでは?と常々思っている。
大昔はこれをすると、下位互換カード満載の全然勝てない紙束か、ゲーム性無視のただ安いだけのデッキを勧める羽目になってしまっていたが、カードパワーが万遍なく高く、広いカードプールと強さに反して安いカードが溢れてるため、現代では安いデッキでも十分楽しめる。
 
 
というわけでこのたび調整が終了した、うちの大会最安値の、自分のスタンダードデッキを紹介する。

クリーチャー:18枚
4 墓地の侵入者/Graveyard Trespasser
4 宝石泥棒/Jewel Thief
4 茨橋の追跡者/Briarbridge Tracker
4 花咲く跳獣/Blossom Prancer
2 沈黙の蜘蛛、琴瀬/Kotose, the Silent Spider

スペル:19枚
4 切り崩し/Cut Down
4 喉首狙い/Go for the Throat
4 神への債務/Debt to the Kami
4 羅利骨灰/Tear Asunder
2 豪火を放て/Unleash the Inferno
1 セレスタス/The Celestus

土地:23枚
4 ラノワールの荒原/Llanowar Wastes
4 水晶の岩屋/Crystal Grotto
4 進化する未開地/Evolving Wilds
1 島
3 沼
1 山
6 森

サイドボード
4 アシュノッドの収穫者/Ashnod's Harvester
4 強情なベイロス/Obstinate Baloth
3 強迫/Duress
4 敵意ある乗っ取り/Hostile Takeover
 

黒緑ベースの4色アグロ、2684円(2022年12月末現在のwidom-guild最安値価格を引用)。
 
グリクシス、エスパー、ラクドスあたりが仮想敵で、白単、赤単、青単には勝ち切りたい感じ。
相手のパーマネントを的確に除去し、アドバンテージクリーチャーを展開していく構成。
 
土地はまずダメラン、現代でも環境のほとんどのデッキの根幹となるこの土地が、100円200円で買えるのだからすばらしい。
水晶の岩屋は、アンタップインの占術効果で招来を使わない単色デッキでは重宝する土地だが、タッチで色を伸ばすという使い方もできる。
進化する未開地は、通常はトーナメントカードではないのだが、今環境では事情が違っていて、前環境であった片面スペルの土地など、マナフラ(土地の引き過ぎ)受けを効果で満たせるカードが今の環境にはないため、通常は2色デッキでも、3色タップインのサイクリング土地を入れたりしているのだが、これがデッキ価格を上昇させている面がある。
さらに環境的要因として、3マナ域のカードが強い一方、4~5マナ域のカードはあまり強くなく、この枠に勝負を決められるカードが少ない。
よってこのデッキでは、マナカーブではなく、3マナのカードの展開を中心に据えることで、未開地で圧縮をかける構成を取っている。
その結果、宝石泥棒の宝物カウンターも含め4色タッチまで伸ばせた。

除去は、鏡割りの寓話や婚礼の発表を確実に壊すため、エンチャントとクリーチャーの両方を破壊できるインスタント除去を採用しており、それに追放効果も付随していることで、盾カウンターの除去耐性も無視できる。
特にメインからの羅利骨灰は、最近の喉首狙い回避を狙った、試作系デッキや勢団の銀行破り入りデッキに対して強く、対PWにも受けが効く。

茨橋の追跡者は、今の緑を代表するアドバンテージクリーチャーだと思っており、花咲く跳獣もアンコモンでありながら優秀で、到達付きのこのサイズとアドバンテージは、このデッキの動きの根幹となっている。
宝石泥棒はアドバンテージこそ取れないが、3マナ中心のもっさり感を払拭してくれるカードで、トランプルがPWに対しても有用、追跡者とは先置きでの切り崩し回避や、放浪皇耐性の高い相棒となっている。

墓地リソースでアドバンテージを取るデッキを意識し、墓地対カードをふんだんに盛り込んでいる。
墓地対カードはどれも優秀で、墓地の侵入者は言うに及ばず、軽量の墓地対カードのアシュノッドの収穫者は、メインで切り崩しがほぼ効かない構成になっているため、相手が抜くことを見越してスイッチ可能となっていて、メインのミッドレンジの軸をずらして軽くできることでも重宝する。
沈黙の蜘蛛、琴瀬は、純粋にアドバンテージクリーチャーでもあり、もっとも苦手とする絶望招来連打への解答として採用した。

敵意ある乗っ取りは、自分のタフネス3のクリーチャーを残しつつ、相手のタフネス4以上の黙示録、シェオルドレッドや輝かしい聖戦士、エーデリンを巻き込みながら横展開するデッキを一掃できる。
色を増やしてでも採用する価値があると踏んで入れているが、一応茨橋の追跡者がパワー6で殴れるシナジーもある。



MTGスタンダードは常に面白いが、特に今環境は、ショップ大会中心にプレイしているプレイヤーにとってはめちゃくちゃ楽しい環境なので、新規、復帰、アリーナから紙もやってみたいプレイヤーは、是非プレイしてほしい。
今は、PWCSという賞品面でも充実しているショップイベントや、店舗予選イベントもあるので、モチベーションの面でも維持しやすい。
価格面でも、金をかけようと思えばいくらでもかけられる一方、ただ安いだけというデッキではなく、安く楽しく構築できる幅が無限にあるので、ショップでスタンダードをプレイしているプレイヤーに相談してみてほしい。
もしアリーナ経由のプレイヤーならば、すぐに構築談義に混ざれるはずだ。
スタンダードをディスる野次より、初心者向けに安く本格的に楽しめることを紹介するコンテンツが、もっと増えてることを期待している。
 
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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