ソウルハッカーズ2レビュー AIは夢を見るか?


 ソウルハッカーズ2をつい先日クリアしたので、早速レビューを書きたいと思う。最も、自分の感想はすでにネット上で認知されているそれと大差ない。すなわち、「いい部分もあるが、トータルでは微妙。ソウルハッカーズの続編を名乗るには力不足。」といった所だ。というわけで、今回はあまり好意的なレビューにならないことを前もって断っておく。


世界観は良いが、全体的に薄味なストーリー

 まずストーリーについて。ざっくりと解説すると、世界の終わりを予見したAionによって遣わされたエージェント・リンゴとフィグが滅びを回避するために仲間とともに原因を探り、解決するというもの。ちなみにAionとは、通信ネットワークから自然発生した独立意思で、人知を超えた新たな生命というべきもの。人よりもはるかに優れた未来予測能力を持っており、その力で世界の終わりを予見したとのこと。
 前作にあたる『デビルサマナー ソウルハッカーズ』がネットワーク社会の到来と、それに翻弄される人々の闇を描いていたのに対し、今作はすでにネットワーク技術が当たり前になった社会において、AIから見た人を描いている。
 『ソウルハッカーズ』が発売された1997年は、インターネットがあまり普及しておらず、ネットに一種のロマンがあった時代であった。だがインターネットが当たり前となった現代では、ネットには商業主義が溢れかえっており、ロマンを感じる余地はほとんどない。それゆえに停滞感を感じている人は決して少なくないように思う。今作も世界観もまさにそういった様相で、きらびやかな街並みに反して、そのに暮らす人々はどこかくたびれたような印象を受ける。
 その一方、今作には『悪魔』とそれを使役する『デビルサマナー』が存在する。『デビルサマナー』は、主に秘密結社『ファントムソサエティ』か超国家機関『ヤタガラス』に所属しており、お互いに対立関係にある。また、どちらにも属さないフリーのサマナーも存在する。
 悪魔という古来より人々に伝わるオカルト的な要素と、AIという最先端の技術の象徴が合わさった独特の雰囲気が今作の世界観の魅力と言える。
 
 そして実際のストーリーだが、序盤から中盤はコヴェナントという霊的なエネルギーを集めることが目的となる。コヴェナントは5つあり、すべて集まると大いなる存在が降臨し世界が滅ぶと言われている。このコヴェナントを巡り、ファントムソサエティの幹部『鉄仮面』と対決していく。はっきりいって、ありきたりなストーリーだ。ストーリーの展開も、新たなダンジョンが出現し、攻略するとストーリーが進み、また新たなダンジョンを攻略、という流れで、これがEDまで進む。合間のストーリが面白ければ良いのだが、今作は演出も優れてるとはいいがたく、イベントでのキャラの動きも少なく、ムービーも数えるほどしかない(その出来も良いとは言えない)。そのため、どうにもストーリーに気持ちが入りづらく、ただ何となく進めているという印象が強い。一応、鉄仮面の正体が判明してからの展開は悪くなく、終盤はなかなかの盛り上がりを見せた。ラスボスも個人的にはかなり意外なチョイスだった。ただ、ストーリの展開、特に鉄仮面とラスボスの関係にはかなり強引な印象を受けた。ぶっちゃけ、シチュエーションありきで強引にラスボスにしたような印象を受ける。ここの描写はもう少し丁寧にやってほしかった。

魅力的だが、やや設定倒れなキャラクター達

 つぎにキャラクターについて。
 まず主人公のリンゴだが、アトラス作品には珍しく、明確な個性を持った主人公だ。Aionのエージェントである彼女は、高度な電子生命体な反面、人間の感情の機微にはうとい一面もある。ただ、AIの割には序盤から言動が非常に人間臭く、あまり電子生命体という印象はない。AIである彼女とフィグが人間を理解することで、人間性を獲得することがテーマの一つなのだと思うが、序盤から十分に個性的で人間臭いため、ストーリーを進めて人間性を獲得している、という感じはあまりしない。感情の機敏にうとい一面も、常識の範囲に収まっており、AIだからという印象はない。

 リンゴの相棒であるフィグ。後方からのサポート担当で、今作のナビゲート役を務める。リンゴと同じくAionのエージェントだが、マイペースなリンゴと違い、クールで思慮深い性格だ。その一方で子供好きで料理好きという家庭的な一面もある。リンゴもそうだが、こちらも序盤の時点で十分人間臭く、少なくとも性格面においてあまりAIという印象はない。
 
 最初の仲間、アロウ。ヤタガラスのサマナーであり、Aionが検出した保護対象でもある。内に熱いものを秘めているが、基本的には穏やかな好青年だ。戦闘では体力が最も高く、防御力も上がりやすいため、壁役に向いている。彼はとにかく報われない。ストーリーにおいて彼に近しい人物はことごとく死亡している。その報われなさは仲魔にすら心配される始末だ。なんとか幸せになってほしい。
 
 2番目の仲間、ミレディ。ファントムソサエティ所属のサマナーであり、本来ならリンゴと敵対するはずの立ち位置だが、とある理由からリンゴと同行する。表向き理性的で合理的な人物だが、内面は情熱的で苛烈、特に鉄仮面に対しては並々ならぬ殺意を向けている。戦闘面では知力が上がりやすく、魔法アタッカーに最適な反面、打たれ弱い。彼女はその苛烈さゆえ、しばしば暴走しがちだが、ストーリーが進むにつれ徐々に落ち着いていき、後半には本来の優しさを見せることも増える。今作で最も成長したキャラクターと言える。アロウとは一見水と油だが、本質的には似た者同士であり、彼のとやりとりは今作の見どころの一つだ。
 
 最後の仲間、サイゾー。フリーのサマナーであり、彼もある理由からリンゴと同行する。飄々とした態度のロマンチストだが、他者の感情の機敏に敏感で、対立しがちなアロウとミレディの仲裁に入ることも多い。戦闘面では素早さが高く、回復魔法と補助魔法の適性が高い。反面、攻撃力は低め。彼はアロウやミレディと違い、序盤から終盤までキャラクターの印象がほとんど変わらない。メンタル的には最も安定しており、安心してみていられるキャラと言える。メインのストーリーよりも、普段の何気ないやり取りにこそ彼の魅力が詰まっている。
 
 他にも、メインヴィランを務める鉄仮面、アロウの兄貴分であるレイブン、サイゾーの元恋人のアッシュなどと言ったストーリーに関わるキャラや、ヴィクトル、マダム銀子、ユメ、タタラたんと言った施設に関わる街の住民といったキャラがおり、いずれも印象的だ。特にユメは、他のキャラと違い完全な一般人なのだが、しばしば悪魔の被害にあっており、この世界観を理解する一助となっている。

取っつきやすい反面、単調な戦闘

 システム面について。
まず戦闘だが、今作はドラクエ型の一般的なターン性バトルを採用している。属性や弱点という概念はあるが、女神転生やペルソナと違い、弱点属性で攻撃しても、行動力が増えることはない。今作では弱点を突くことで、仲魔がスタックされ、ターンの最後にスタックされた数に応じた全体攻撃が追加で行われる。要は弱点を突くことで、ボーナスダメージが入るということだ。また、このシステムは味方にのみ適用される。敵に弱点を突かれても、ダメージが上がるだけですむ。敵の行動が増えることもない。そのため、女神転生やペルソナよりも敷居は低く、難易度もアトラス作品としては優しめと言える。
 今作独自の要素として、コマンダースキルというものがある。これはリンゴを起点に発動するスキルで、コマンド(任意発動)タイプとパッシブ(自動発動)タイプがある。コマンドタイプは1ターンに一回しか使えず、一度使うとコストに応じてしばらく使えない(例えばコスト4だと、再使用まで4ターンかかる、コスト1だと毎ターン使えるという具合に)。仲魔の変更もこのコマンダースキルによって行う(つまり、1ターンに1回しか仲魔を変更できない)。コマンダースキルには強力なものもあるが、リンゴが戦闘不能だと使えない。戦闘における切り札と言ったもので、どのタイミングで使うかによって戦局に大きな影響をもたらす。
 また、今作の仲魔は、ペルソナシリーズと同じく、仲間の装備品のような扱いとなる。仲間が悪魔を装備することで、パラメータ補正と属性相性の変化が起こり、悪魔のスキルを使用できる。まんまペルソナである。
 悪魔の勧誘方法だが、戦闘中に悪魔と交渉することはできない。ダンジョン探索直後に手持ちの仲魔が解き放たれ、独自にダンジョンを探索する。探索に出た仲魔はダンジョンの各所に配置され、会話することでさまざまな報酬(お金・アイテム・回復など)を得ることができる。この報酬の一つが悪魔の勧誘となっている。勧誘する悪魔はランダムで、こちらから指定することはできない。ぶっちゃけ勧誘方法としては使いづらい。仲魔にダンジョンを探索させる、というシステムは今作でも数少ないサマナーっぽい要素なので決して悪くないのだが…。
 
 戦闘以外に重要なシステムとしては、ソウルレベルというものがある。これはリンゴと仲間の絆を表しており、3人の仲間それぞれで独立している。主に会話の選択肢で上昇し、一定の値まで上がると、ソウル・マトリクスという仲間の精神状態を再現したダンジョンのゲートが解放される。このダンジョンを進めることで、キャラクター固有のスキルを取得できるほか、EDの分岐にも関わってくる。一部例外はあるが、ソウル・マトリクスは基本的にメインストーリーとは独立しており、任意で攻略するダンジョンである。そしてこのソウル・マトリクス、非常につまらない。理由としては、まずダンジョンの風景自体が殺風景なコピペダンジョンであること、そのくせ妙に広く、中盤からはワープゾーンが大量に出現し、この単調なダンジョンの探索に時間がかかること。その完成度はペルソナ5のパレスどころか、ペルソナ4のマヨカナテレビにも見劣りするレベルである。令和の時代にこのクオリティはさすがに厳しい。一応任意だから無視することはできるが、ED分岐に関わることや、パーティーの強化に有益なこともあり、おいそれと無視することはできない。一応、所々でイベントが発生するが、本編を補完する程度のもので、特に印象的なイベントもない。ぶっちゃけ見なくても、本編の理解には影響しないレベルである。

全体的に痒いところに手が届かない

 最後に気になった点について。というか、今作は気になった点がかなり多い。まず、戦闘の単調さ。システムを簡略化したことで敷居が低くなったのは確かだが、同時に爽快感やスリルも失われている。その理由が、行動力とという概念がなくなり、戦略性が大きく低下したこと。真・女神転生やペルソナでは、敵に攻撃を無効化や吸収されると、行動力が一気に消費され、最悪何も出来ないまま全滅することもあり得た。逆に味方が敵の攻撃を無効化することで、敵の行動力を消費し、そこから一気に立て直して逆転することもできた。今作では行動力を軸にした駆け引きがなくなったことで、戦闘が真・女神転生やペルソナと比較して単調化している。無論、今作でも敵の行動を無効化することは重要で、敵の攻撃をうまく無効化し、強力な一撃を叩き込むという基本戦法に大きな変わりはない。だが、一手間違えればいつ全滅してもおかしくないスリルや、上手く敵の攻撃を無効化し、形成を逆転した時の爽快感は大きく見劣りする。
 次にストーリーのボリュームの少なさ。今作のクリア時間は40時間ほどであったが、体感ではその半分ほどは、ソウル・マトリクスの攻略に費やしている印象がある。つまり本編のボリュームは20時間ほどということ。肝心のシナリオも、極端におかしな点はないものの、どうにも薄味というか、いまいち印象に残らない。前述したように、演出が地味なことや、展開が強引なこと、キャラクターの心情の変化が伝わりにくいことなど、全体的にプレイヤーを置いてけぼりにしてるように感じる。何となくだが、テーマと結末を先に決めて、そこに持っていくために途中経過を肉付けしていっているような印象がある。もしそうなら、もう少しうまく肉付けして欲しかった。
 その他、気になった点について。
 前述したように、今作では任意の悪魔を仲魔にすることが難しい。悪魔探索はランダム性が高いし、悪魔全書は金がかかる。その結果、悪魔合体も従来ほど気軽には行いづらくなっている。言うまでもなく、悪魔合体による新たな仲魔との出会いは、シリーズの醍醐味の一つであり、それが行いづらいと作品そのものの魅力も損なう。
 また、ダンジョンにはポータルという中継地点があり、発見するとダンジョンの入り口や別のポータルに移動できるようになる。要はショートカットなのだが、これには回復機能があってもよかったように思う。というのも、今作はダンジョンからの脱出に事実上制限が無いも同然のため(脱出魔法のトラエストはリンゴが再序盤で取得、消費MPはわずかに1)、いちいち脱出して回復して再開、と無駄に手間がかかってしまうのだ。
 今作はシンボルエンカウントで、リンゴが剣でエネミーシンボルを攻撃することで先制できるのだが、この剣の当たり判定がどうにも怪しく、密着状態だとスカることがまれによくある。今作はいきなり全滅するような苛烈な攻撃をしてくる雑魚はいないが、それでも地味にストレスはたまる。

総評

 老舗のアトラスが作っているだけあって、ゲームとして破綻してる部分は特に見当たらない。反面、今作ならではというセールスポイントに欠け、スタイリッシュな見た目の印象と違い、なんとも地味な仕上がりになっている。戦闘は単調、ストーリーは薄味、ダンジョンはワンパターンとどうにも魅力に欠ける。一応、世界観やキャラに光るものはあるが、それが面白さに昇華しきれていない、なんとも勿体ないゲームである。悪くないゲームだが、わざわざ選んで買うほどでもない。


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