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敵を作って仲間を作る人

清々しいほど時代錯誤で面白いお兄さんに出会ったことがある。

お兄さんと出会ったのは行きつけのバー。店内には俺とバーテンダーさんがいて、ラストオーダー3分前にお兄さんが来店してきた。
お兄さんはビールを頼んで、バーテンダーさんに話し始めた。
「いやー、さっきネイルしてる男の人見かけちゃって。噂には聞いてたけどほんとに居るんだって。キショいっすよね〜」
わお、ステレオタイプ。というか、まだそういう考えの人いたんだ、と驚いた。いや今も結構いるんだろうけど、言葉にしている人を初めて生で見て感動した。

俺はネイルをする。気が向いた時だけだけどね。黒とか、青とか、紫とか。淡い色が好き。ネイルした指はかわいいし、カッコいい。見た目に気を使うようになってからいろんな部位に気を配るようになったけど、自分で直に見れる場所って意外と少ない。そんな中、爪は自分でいつでも見れるので、今の俺かっこいい!かわいい!となれるから、ネイルが好き。ネイル最強!

俺とそのバーテンダーさんは思想が似ている。他の人が何を言おうと自分のしたいようにすればいいし、人が何をしていても否定しない。多様性を受け入れている。
「いや、そうは思わないですけど」
バーテンダーさんがそうきっぱりと言ってくれたので話は早かった。
「俺も今はしてないですけど時々ネイルしますよ。黒とか、カッコいいんですよ!」
生身の人間がいた方が体感しやすいかなと思い、俺も自己開示してみる。
「メンズの服を女性が着るのとかと、変わらないですよ。したいことと性別って、あんまり関係ないと思います」
バーテンダーさんも補足する。

あっという間に2対1の構図になってしまい、ちょっとお兄さんが可哀想になってきた。お兄さんも言い訳するように言葉を重ねる。
「女性のメンズ服はいいんですけど、男のネイルはなんだかな〜って。バンドマンとかならまだわかるけど…男でネイルしてるって、ちょっとそういうケがあるんじゃない?って……」
「それとこれとは全く別だと思いますよ」
ノータイムでバーテンダーさんのカウンターがくる。そうだ、俺も言うしかない。今後お兄さんみたいな人に傷つけられる人が減るように。今後お兄さんが人をゆるせることで自分をゆるせるように。少しでも生きやすくなるために。
「そういう『変なの』って思うこと、自分もあるんですけど、俺、そういう時は相手を否定する前に自分の感性について改めて考えるようにしてます」

結局そのお兄さんは最初に頼んだビールをすぐに飲み干してお会計した。そりゃあんだけ二人から言われたら居づらいよね。ごめんね。文章にすると二人で責め立てた感が凄いが、バーテンダーさんも俺も、お兄さんの気分を害さないように言葉選びに気を遣いながら、丸くまるーく、でも伝えないといけないところはしっかりと伝えるようにしていた。お兄さんもキレて退店とかそんな感じではなかったので、まぁ良かったのかな。

お兄さんが退店してからバーテンダーさんと話した中で考えたことが二つ。一つ目は、憶測だけど、お兄さんは今まで周りに敵を作ることで味方を作ってきたタイプなんだろうってこと。俺はそういうの嫌いだし苦手なのでよくわからないが、バーテンダーさん曰く共通の敵を作ると手っ取り早く仲間意識を育めるらしい。小学生みたいでちょっとウケる。お兄さんは俺の何個も年上っぽかったが、俺の経験則からしても、これに関しては年齢関係ないな〜と思う。
二つ目は多様性のこと。昔は無知からくる恐怖による拒絶や差別が当たり前だったらしいが、今は令和の世。もうそんな時代は終わりを告げたのです。少し検索すれば知ることのできる現代では、わからないものを叩く前にまずそれを知ろうと思うことが大事。調べて理解できないなら関わらなければいい。これだけのこと。この多様性を受け入れる姿勢があれば、敵を作らず人と仲良くできる。いい世の中すぎる!

それじゃお兄さんは悪者なのかと聞かれたら、俺の答えはノーだ。思想や考え方は周りの環境に依存することが多いし、そもそも人は変われる。俺は俺の思考が生きやすいと考えてるけど、あのお兄さんが今後も今まで通りのテンションで生きてくってなったとしても、否定しないよ。人の数だけ考え方があるし、博愛主義者に対しても、世界の全てを憎んでいるような人に対しても、俺は全員の味方でいたいからね。

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