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Bolshie/1979 UNRELEASED STUDIO TRACKS

活動期間は1978年〜1979年の1年足らずでメンバーは当時高校生だったバンドの未発表音源集が出た。これまではオムニバス「東京ニューウェイブ'79」にライブ音源が3曲収録されているのみ。そんなバンドの音源がノーマルの1枚物のCDだけでなく5枚組(しかも中身がほぼ被っていない)のBOXまで発売された。凄いことだと思う。例えば、後に高名なミュージシャンになる人がやっていたバンドであるとか、申し訳ないけど「東京ニューウェイブ'79」に収録された音源がとてつもなく良いというような「伝説的」な存在ではなかったバンドと言ってしまって良いと思う。40年以上経って発売された音源は期待以上に素晴らしかった。今回は主に1枚物CDについて書きます。一部BOXで補足された部分もあります。

これまでBolshieに感じていたこと

オムニバス「東京ニューウェイブ'79」は前半の3組(SEX、自殺、PAINって改めて並べて書くと凄いバンド名が続くなぁ)がどうしてもオールドな響きがするというか、プロトパンク的な扱いのバンドからしっかりと地続きのサウンドだった印象(勿論それぞれにパンク以降の感覚が取り入れられている)がある分、後半の8 1/2とこのボルシーがとても「ニューウェーブ」に聴こえる仕組みになってるけれども、特に8 1/2のインパクトは今聴いても強く、ボルシーは若干地味な印象もあった。ライナーに書かれた当時メンバーが好んでいるグループにはXTCやPILが入っていて、指向としても明確に「ニューウェーブ」だったんじゃないかな。ちなみに、「東京ニューウェイブ'79」収録音源はトリオ編成での録音です。

サウンドは結構個性的には思っていた

そうした指向はちゃんとサウンドにも反映されていて、ドラムはストレートなビートで走るだけではなく逸脱した展開もあるし、何よりも特徴的なのは乱暴に塗り潰したようなギターの音。当時の東京ロッカーズ周辺でよく聴こえてくる、切れ味の鋭いと表現されるようなカッティングの妙技で引っ張っていくようなスタイルとは真逆の、ノイジーで金属的な重さすら感じるギターサウンドはある意味では時代的に先取りしていたのかもしれない(まぁあのギターの音がWireっぽく聴こえると言われてしまえば、そうだよねぇとは答えるしかないのですが)。そこに不愛想なんだけどよく動くベースも加わって、何とも表現しがたいニューウェーブな音だとはこれまでも思っていました。

今回の音源での肝になった箇所

そして今まで「東京ニューウェーブ'79」の音源しか聴いたことなかったんだから当然ではあるけど、後にキーボードが入っていたのは知らなかったし、それがとても良い。通常のコードやフレーズを弾いてるのに加えて、電子音を鳴らす使い方も多くて、昨今の便利なジャンル分けを適用するならば、「シンセパンク」の範囲に入るんじゃないかな。ノーウェーブとかポストパンクって言葉より、この音源に関して言えばシンセパンクの方がしっくりくる。

「ロックでなければ何でも良かった」

上でも少し触れたように、同時期のWireを思い起こさせる部分は確かにある。それはパンクロックを起点としつつも、パンクロック的なサウンドを捨てより新しいサウンドを真摯に求めた姿勢が共通していたのだろうし、それこそがポストパンクというかニューウェーブのあるべき姿だったんじゃないかと思う。Wireの場合は明確にパンクロック的な「Pink Flag」があるから、後追いでも順番通りに聴いていけば歩みがわかりやすいってのがある分、その代表格として挙げられるけれども、きっと世界中にそういうバンドがいたんだろうと思う。ちなみに、Bolshieにおける「Pink Flag」期と言えるようなパンクロック的なサウンドは5枚組のBOXの方で聴けます。

5枚組BOXの方も少々

「東京ニューウェイブ'79」や今回の1枚物は79年に入りドラマーが変わってからの音源なので、上に書いたようなニューウェーブな印象には実はこのドラマーの変更による部分が結構大きいんだな、というのは5枚組に収録された78年のライブやデモ音源を聴くと感じます。ドラムのフレーズとかに大きな変更はないものの、初代のドラマー氏による演奏だとロンドンパンク的な軽快さが少し出てきます。何と言っても、その初代ドラマー氏の持ち歌としてカバーされているのが999「Emergency」ですからね。他にも納得のWire「12XU」のカバーってのも入ってます。あと、1枚物と同時期に録音されたけどメンバーが気に入らなかったという上野耕路氏プロデュースによる録音は、そんなに悪くはないと思いますけどね。上野色も殆ど感じられず、同時期に同じ場所で録音したであろう少年ホームランズや8 1/2の録音に比べるとちゃんとバンドの音として録れてるし。まぁこの辺は43年後に聴いた人がとやかく言う問題ではないですからね。あくまで当時本人たちが気に入らなかったというだけですので。

82年録音の2曲について

解散後の1982年にリーダーだったベースの人とキーボードの人で録音したという2曲は、まぁ正直資料的な価値だけかなーって気はします。勿論、79年に出してた音からの変化を楽しむことはできなくもないのですが。でも音楽として楽しむのは僕にはちょっと厳しいかなと思います。79年の音源が非常に素晴らしい分、コントラストでねぇ。「あぁ、1982年になるとこういうパッド系の音が苦労せずに出せるシンセが出回りだした頃なんだな」って感想が一番ですね。

あと思い出した件

ライナーでも触れられている過去にもCD化の話があった件だけど、確かに前に一回雑誌に広告が出たのを見たことあったんですよ。多分20年位前じゃないかな。どこのレーベルだったとかは覚えてないし何の雑誌だったかも覚えてないけど、見た記憶だけはあったのが今回の再発で記憶が間違いじゃなかったことを裏付けられたのはちょっと嬉しかったです。あと、最初期からレパートリーにPink Floydのカバーがある(Pink Floydと言ってもファーストの曲ですが)のも、かの高嶋政宏氏にKing Crimsonを勧めたのがこのBolshieのメンバーだったという歴史的事実の余談として記憶に留めておきたいです。

結論

今回のCD、非常に良いです。一応限定生産盤ってことなので、迷ってたりする人は早めに買わないと後悔すると言い切って良いと僕は思います。

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