ポストケインズ 有効需要とその構成

ケインズは「一般理論」で有効需要の構成要素として独立支出と誘発支出を区別した。誘発支出とは、現在の所得水準に依存する、現在の有効需要の構成要素である。そして独立支出とは、現在の産出からは独立している。投資は基本的に企業家の長期期待に依存した独立変数である。他方、消費は部分的に誘発消費である。

 カレツキのアプローチとして、消費を労働者の賃金からの消費と、資本家の利潤からの消費という2つの要素に分けている。前者は誘発支出であり、後者は過去の実現利潤に依存するので独立変数である。

(労働者は貯蓄しないと仮定を置く。労働者の所得は賃金から、資本家の所得は利潤から成る。)

税引き後利潤=利潤からの消費+投資+財政赤字
よって、国民総生産は以下のように定義できる。

国民総生産=所得(賃金収入+利子支払いを含んだ利潤)+民間部門の利潤=名目消費(労働者)+名目投資支出(資本家)

所得分配と経済成長の関係を捉えるマクロ動学モデルの 1 つに,カレツキアン・モデル がある。ここで所得分配とは、賃金シェア(労働分配率)および利潤シェア(資本分配率)、つまり国民所得に占める賃金の割合と利潤の割合のことを指す。カレツキアン・モデルは, この分配率を外生変数とし,賃金シェアの増大,すなわち労働者の取り分の増大が,産出 量、雇用量、経済成長率といった主要なマクロ変数に与える影響を分析するモデルである。もし賃金シェアの増大が産出量や経済成長率を上昇させるならば、経済は賃金主導型で あるとされ、その反対に、もし賃金シェアの増大が産出量や経済成長率を低下させるなら ば、経済は利潤主導型であるとされる.

大まかに、カレツキは不完全稼働経済を想定した賃金主導型経済
カルドアは完全稼働経済を想定した利潤主導型経済を想定した理論体系。

 

 労働者は企業家が提供する雇用に本質的に依存しているので自身の収入を増やそうとしてもできないが、資本家や企業家は支出を増やそうとすれば(銀行から融資を受けられるとして)彼らの意志でそれが可能である。

 国民所得の決定
国民所得に占める賃金の分け前をαで示す。Iは資本の投資。Ckは労働者の消費。
P(総利潤)=I+Ck ・・・・①

P=(1-α)Y (0<α<1)・・・・②

資本家の消費は利潤に比例する部分と固定的な部分で構成すると仮定。資本家の限界性向をq、資本家の消費の固定的部分をBとする。

Ck=qP+Bo ・・・・③(ただし0<q<1 かつ Bo>0 )
②式と③式を①式に代入して

Y=1/{(1-α)(1-q)}×(Bo+I )

 投資乗数は1/{(1-α)(1-q)} であることがわかる。投資乗数の値は資本家の限界消費性向と分配関係の2つの要因によって決定される。

 さらに乗数とBoが一定であるならば 
ΔY=1/{(1-α)(1-q)}×ΔI
※Δ(デルタ:瞬間的な位置変化(速度)を追う「微分」の記号であり、差(ある点から別の点への変化量を表す。)
※距離の情報(ある時間にどの位置にいたか)がわかっていれば、特定の瞬間における速度を求められます。これが「微分」です。

つまり、利潤決定の場合と同様に、資本家の投資決意と消費決意によって国民所得水準の変化がもたらされる。投資こそ経済変動の原動力である。つまり投資の増加ΔIがその乗数倍のΔYをもたらす。

※労働者は貯蓄しないと仮定されているので利潤分配率(1-α)に資本家の限界貯蓄性向(1-q)を乗じたものは社会全体の限界貯蓄性向(1-C)に等しくなる。

 カレツキの理論は賃金の相対的な分け前を増加させることに成功したらそれだけ乗数の値が大きくなるので、国民所得の増加要因となる。労働者の賃金上昇は労働者の消費需要を増加させることで経済全体の生産や雇用の水準を引き上げる。労働者の消費性向は資本家より大きいと考えられるからである。これが賃金主導型の経済成長のパターンである。




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