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長谷川洋子「離れ離れにならないように」

当社が版元となるジクレーシリーズに加わった新着シート。2021年11月に長谷川洋子さんの作品を発売いたしました。布生地や様々なパーツ、小物類をコラージュして作画する人気作家さんですが、少なからず苦心を乗り越えての印象深い1枚に仕上がりました。

長谷川洋子さんについて

長谷川さんは、ある有名アパレル企業で勤務した後に美術家 / イラストレーターになられたという、やや異色のキャリアの持ち主です。描いているモチーフは一貫してドリーミーでロマンティックなストーリーの一場面。バレリーナや聖母を思わせる女性像、お城、遊園地、花や虹などと、それらのメタファーとしての小物などが多く選ばれています。

しかし、なんといっても彼女の絵で特徴的なのは、ドローイングや塗りによって画面づくりをするのではなく「コラージュで描く」ことでしょう。

材料は実に多岐に渡ります。背景にアクリルガッシュで着彩しながら、レース、ビーズ、スパンコール、服飾パーツ、着物生地、パフュームラベル、キャラメル包み紙、天然石…という具合。必要なときにはマニキュアなどのコスメ用品を駆使することもあるそうです。

こうして見ただけでも、調和するのだろうか? と思ってしまいますよね。光の反射性や表面の印象だけでなく、厚さや硬度などがバラバラに感じます。異質なもの同士、ほんのわずかな色のニュアンスを使い分けながら画面に「描き」「着彩して」いく技術は本当に素晴らしいものです。

素材への愛と、たしかな審美眼

レースやスパンコールといってもその道のコレクターが憧れるようなヴィンテージものですよ。着物といっても大正時代の特定の骨董的なものだったり、パフュームラベルといっても海外のアンティークマーケットで仕入れたものだったり、天然石はサファイアやオパールなど希少性のある素材だったり、です。それらを使いながら絵を構成するのです。

絵のモチーフが夢の世界なだけでなく、使っているパーツもドリームチームなのですから、その精巧さ、審美眼には驚くばかりです。

2016年にGALLERY SPEAK FORで開いた個展「金色のノクターン」展に際してのインタビュー記事はこちらです。

長谷川さんの人気はそのキャリア開始時点から安定して高く、特に女性のお客様たちの熱心な支持を受けています。イヴ・サンローランBODY POWDERのパッケージや、ALBIONカレンダー、宝塚スターカレンダー2021、その他富裕層だけに贈呈されるアイテムなど、クライアント名を見るだけでだいたいのコミュニティ像がおわかりいただけると思います。

見飽きない構図と猫の視線

彼女独特のそうした制作方法ゆえに、0号くらいの原画でも3万円前後するくらいのチャートになっています。やや大げさに言えば、ちょっとした宝飾類で絵ができているわけですし、制作期間も塗りだけの作家さんよりは非常に長い時間かかりますから、価格の高さもやむを得ないでしょう。

しかし、その絵に興味がある方すべてに届けられていないのも事実ということで、ずっとどうしようか考えていたのが今回の複製画誕生の背景でした。

もとになった原画は、長谷川さんが装画を担当された、深木章子さんの著書「猫には推理がよく似合う」のアートワークがヒントになり、当社からお願いしてその続編のように新しく描き下ろしていただいたもの。デコラティブに贅をこらした椅子に、そっと座る白い猫の姿が印象的で、しっぽがふんわり垂れ、目線が直接こちらに向かっておらず、やや左を向いているのが優美さを造っています。背景には菩提樹が描かれています。

01_離れ離れにならないように

「離れ離れにならないように」(2021年)画面サイズ : 231×180mm。
iPhotoモロー紙にインクジェットプリント(ジクレー版画)

凹凸が激しい絵肌を版画へ最適化

絵は素晴らしいのですが、ここから難易度の高い作業が始まりました。分かっていたこととはいえ、表面がかなりの2.5次元、つまり接着された種々のパーツが作る凹凸が激しく、また光り物も多いため、スキャンや撮影の方法によって反射光や影の出方が違いがで大きく異なるのです。

結局、細かく光源を変えながら撮影をすることになりましたが、3~4パターンを試していただき、工房で合格したデータを刷り機で補正しながら原画の美しさを版画へ置き換えることに。原画に約3か月、検討・撮影に1か月、工房で刷るのに1か月丸々かかるという、ちょっとした長工程になってしまいました。

今回のジクレーも、刷りのエンジニアになっていただいたのは版画工房エディション・ワークスさんです。耐候性の高い顔料系インクで忠実に再現、品質管理してくださるおかげで原画とは別ジャンルの美術品と位置づけられる美しいシートになっています。

フェティシズムを増幅する独自技法

アートの素敵さとは多くの場合、意識と無意識の混交の美に由来すると思っています。手による意図した線や色と、意図せざる偶然性が画材の垂れやにじみとしてぶつかり合ってこの世に1点の図像を作り出し、それを私たちは愛でるのです。

長谷川さんの手法では、描画のアウトラインは素材の質や切り貼りに依存する部分が大きく、その工芸的な線の味わい、バラバラな質感をつぎはぎして生まれる二度と同じ再現できない風合いこそが、彼女のビジョンへのフェティシズムをいっそう強調しているのではないでしょうか。

プレゼント用途にもおすすめ

仕上がったシートの額装についてもよく検討を加えました。非常に多くの選択肢から長谷川さんが選んだのは、落ち着いた印象のピンク塗装額に乳白マットの組み合わせです。額装外形としては37.8x28.7cmですので、A3サイズより一回り小さいサイズ。こぶりですが、これが1点あるだけでお部屋に優しいニュアンスを与えてくれるような、強い印象にまとめられたと思っています。

離れ離れにならないように2

01_離れ離れにならないように_c

もちろん、ジクレーの面白さとは制作側と買い手が一緒に作れること。買った方の思うがままに額装することにより世に1点しかない最終形として仕上げられます。シートだけお買い求めいただき、最寄りの額装屋さんと相談しながら額装される楽しみ方もおすすめできます。

1枚ずつ長谷川さんの監修を受けてサインを入れ、限定100枚のみの販売です。長谷川さんにとって今まで複製画のご経験はなく、これが記念すべき第一号。コレクションしていただく楽しみは十分にあります。

iPhotoモローという、紙の表層に比較的はっきりとエンボスの凹凸が楽しめる紙を選んでいます。そのことによって、原画の光沢そのままの再現というより、版画としての美しさとは何かに重きを置いたディレクションに。現代アート通販「タグボート」では額装込みの形でご購入いただけます。このサイトには今後、長谷川さんの他の原画も時々追加されていく予定です。

ちなみに今回のジクレーの作品タイトル「離れ離れにならないように」はちょっと意味深ですが、画中の右奥に描かれた菩提樹の花言葉(「結婚」や「結ばれる愛」など)から着想されたストーリーのように名付けられました。

ぜひインテリアとして、またはこんな花言葉を贈りたい方へのプレゼントとしてもご検討いただければ嬉しいです。

シート価格は11,000円(税込)。
当社オンラインショップからもお求めいただけます。
https://www.galleryspeakfor.com


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