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ヴェール - 古代ペルシャからの伝統

初めての試みとして、このプラットフォームにてブログなどには書いて来なかった、もう少し踏み込んだコアな専門分野について書いてみようと思います。
文章を書くことに苦手意識が強いので、文章のみ(画像などの挿入はありますが)だけでどれ程お伝え出来るかが少し心配ではありますが、わかりにくい部分などありましたらご指摘頂けると幸いです。

先ず本日は第一回なので、今後の予定について少し書きたいと思います。
私の関心と今まで調べて来た分野は、ざっくりと言うとシルクロード沿いの国々の染織です。これは古くは法隆寺や正倉院などに残された染織品類と関係の深い分野であるものもあり、謎も多く興味が尽きません。
染織はいつ頃どの様に作られ始め、どの様に進化或いは変化してきたかのかという学問はまだまだ解明の途上であり、歴史の分野の中では研究者も少なく一部の知る人ぞ知る様なものです。比較的新しい研究分野であるにも関わらず、知識の豊富な方々が絶滅危惧種のような状況にあるのも確かで、今後が危惧されます。書籍が多く出版されていても、どれを本当に参考に出来るのかは知識が無いと選択できない難しさもあります。更に付け加えれば、特には日本の博物館などに展示されているものの説明書きも大きく間違えている場合も少なくありません。という事で、正しく知るという事もなかなか難しい分野でありますが、非常に深く興味深いものです。

イントロダクションとして古代ペルシャからのヴェールについて、そして何回かにわけてゾロアスター教徒の染織について現在のところわかっている部分について少し書いてみたいと思います。
途中、他のことについて書くこともあるかもしれません。何かリクエストがございましたらお聞かせください。必ずしも書くほどの情報を持ち合わせていない場合もあると思いますが、その時はご容赦ください。
ゾロアスター教については、詳しくはメアリー・ボイス著あるいは青木健著の本をお勧め致します。

Ⅰ.はじめに

ゾロアスター教は、有力な学説として紀元前15~12世紀頃にイラン東部で興ったとされる宗教であり、教祖はゾロアスター(ザラスシュトラ)である。初めてアケメネス朝(紀元前550~330年)時代にそのシンボルが石彫のレリーフに表れ、神アフラ・マズダについての言及がされたが、ササン朝(226~651年)になって初めて国教として普及した。神の光である火を絶やさず燃やし続け、その前で祈りを捧げることから、拝火教とも呼ばれる。

ササン朝ペルシャがアラブ・イスラム軍により651年に侵略された後には、迫害や差別を受けながらも、本国や10世紀にインドへ移住したパルーシーと呼ばれる人々によって信仰は続いた。19世紀後半頃から既に商業で成功していたパルーシーやイギリス政府の後ろ盾を得て、イスラム教徒以外に掛けられたジズヤと呼ばれる異教徒への税金も撤廃され、イランのゾロアスター教徒の中には富を得るものも出てきた。1925年にパーレビ王朝がカジャール王朝から変わり、ササン朝以前のペルシャ文明を尊び、西洋的近代化を推進する方針を定め、ゾロアスター教徒は自由を謳歌し服装も変化する。

古代のゾロアスター教徒の女性たちは、石彫や金属器などにヴェール姿などで描かれている。実際、イスラム教徒女性のヴェール着用がササン朝時代のペルシャ人の影響を重視する説もあるが、ヴェール自体は古代オリエント地域で既に普及していた。現在イランに居住するゾロアスター教徒の女性は、1979年におきたイスラム革命以後、国の方針により外出時はスカーフの着用が義務づけられているものの、宗教行事以外で本人の意思で着用することはない。これは、カジャール朝末期(20世紀初頭)に頭の覆いをいち早く取ったのがゾロアスター教徒の女性であり、その後近代化を推進するパーレビ王政下でヴェールやその下にするラチャックの着用を禁じた時代からの習慣ではないかと考えられる。パーレビ王政時代には、イスラム的な要素をもった服装をしている人や物事を軽蔑する傾向が生じ、「ラチャックをしている人」と言う事は、差別的な表現となった。

ここでは、ゾロアスター教徒の頭部に付けた覆いに焦点を当て、その役割と変遷を明らかにして行く。その際、7世紀以降から現在に至るまでイスラム教国家であるイランの性質上、イスラム教徒との比較も試みたい。そして、ゾロアスター教徒女性が、2000年以上の伝統であったヴェールやその下に付けたラチャックを取り去り、その習慣をやめた理由は何であるのか。また、ゾロアスター教徒にとっての頭部の覆いはどのような存在であるのかを考察する。

続きは後日


ササン朝印刻印章<大英博物館蔵>
アケメネス朝ペルシャ(紀元前5世紀)円筒印章
古代アッシリア帝国(紀元前8世紀)ニムルド出土

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